私の母は淋しがりやのがんこおやじです!
「ここですよ、着きました」
和弘さんを連れ、ちょっと久しぶりに実家の敷居をまたぐ。
どきどきする。
ガラッガラと引き戸を開け、
「おかあさん、ただいま~」
と、さけぶ。
「お帰りなさーい!」
あ、実樹が出迎えてくれた。
「お姉ちゃんお帰り。」
「ただいま、実樹。おかーさんは?」
すると複雑な表情を一瞬見せ、
「奥でゴハンつくってるよ、あ、えーと、」
実樹もそういえば、和弘さんと初対面なのだ。
私の自慢の彼氏だよ!
「か、蒲生か、和弘です。こんにちは」
「あ、お姉ちゃんの彼氏の…、こんにちは妹の実樹です。はじめまして」
ん?あれ?なにこのリアクション。
もっとキャーキャー大騒ぎすると思ってたけど。
「はじめまして。よろしく実樹さん」
「ど、どうぞ、おあがりください」
実樹の案内で私は和弘さんとともに、居間に腰をおろす。
実樹も居間に腰をおろして、何やら言いたげにしている。
うーん、、めずらしく実樹が気をきかせている。
なにやら嫌な予感がする…。
(おねーちゃん)
実樹が耳打ちをしてきた。
(…なに?)
(…お母さん、昼間から料理つくりながら飲みはじめちゃって…)
(…で、さっき、『やっぱり会いたくない』って言い出して、向こうでひとりで飲み始めちゃったの…)
「え!?」
まさか、ここまで来てもらったのに!?
「す、すみません和弘さん、ちょっと母を呼んできますね」
「あ、はい」
私は母のいる台所へむかう。実家は、昔のつくりのため、居間と台所が完全に分離され少し離れている。
「お母さん!」
「なに?」
一升瓶を抱えるようにして、コップでお酒を飲んでいる。
もう、すでに顔が赤くなってる。
「どうして会ってくれないの?」
「…誰に?」
「和弘さんによ。言われたとおり、来てもらったのよ」
「…やっぱり会いたくなくなったんだもん」
口を尖らせ、子どもが拗ねたように言う。
「なんで?」
「…どうしてもよ」
お母さんは私から目をそむけて、またお酒をあおる。
「ちょっと!」
私はお酒を取り上げる。
「何するの!?」
「ちゃんとわけを言って!」
…
…
「だってさ、あなたがどんどん先に行っちゃう気がして…」
「え?」
「いつまでもアタシの子どもだったあなたが、私とそう歳の変わらない男と一緒になって…」
お母さんは少し目に涙を浮かべているようだ。
そんなことを考えていたなんて
「そして幸せになっていく、そんなの…」
寂しいよね。そうだよね。お母さん、わかってあげられなくてゴメンね。
「そんなの…ずるい!」
「え?」
「だって、アタシだって、まだ若いのに、女としてはまだまだイケるつもり。なのに、彼氏も居ないし!今までは子どもを理由に周りも自分も納得させてたけど、アンタたちが居なくなったらアタシ言い訳出来なくなるじゃん!」
「お母さん!そんな理由で拗ねて和弘さんに会おうとしてくれないの!!」
「そうよ!」
「そんなひがんでるから、いつまでも彼氏できないんだよ!」
言っちゃった。。実樹がひとり、オロオロしてる。
いつもなら実樹と私は逆なのに。
「えーーん!」
あ、お母さん泣き出しちゃった。
ああ、実樹のじとー(ーωー)とした目が痛い。
…パタパタ。
居間の方から小さな足音。
真樹だ。
真樹は大きな紙袋を抱えている。
和弘さんが用意してくれたお土産だ。
「わぁケーキ!Le.Bonteの!こんなにたくさんの種類、なかなか手に入らないんだよ!」
実樹が言う。
そういえば、和弘さんは、「朝早くから並んだ」と言っていた。
お母さんも目をみはっている。
そしてグリーンローズのプリザーブドフラワー。
真樹は手にとって興味深げに眺めている。お母さんはその姿をじっと見て何かを考えているようだ。
そして
“パンパン!”と両手で頬をはたく。
お母さんはおもむろに立ちあがり、鍋で朝からじっくりと煮込んだポトフを皿に盛り、一升瓶を持ってスタスタと居間にむかって歩いていった。
ガラッガラ!ピッシャーン!!!
足で格子戸を蹴ると、稲光のごとくガラスの格子戸が勢いよく開く。
「…どうぞ…」
とガラスのコップを差し出すお母さん。
「…どうぞ…」
「は、はあ、」
勧められるがままに、ぐいっと酒をあおる。
和弘さんの顔が緊張から一気に綻ぶ。
「香りがとても豊かですね。果物のような花のような、そんないい香りが爽やかに通りすぎていきますね。実にうまい」
と和弘さんが言うと
お母さんはニコッと笑って、再び
「どうぞ、飲んで」
と言い、和弘に再び酒をすすめる。
よかった、なんとなく、和やかな雰囲気になってる。
「和弘さん、娘のどこがよかったんですか?」
「それは、「まあ飲んでください」あ、はい!」
ぐいっとコップ酒をあおらせ、
「答えてください!答えられないんですか?!」
あれ…?
またからみだした…。
「私は由樹さんが人の痛みを共感できる優しさが、とても好きです。これまでも、私が苦しいとき、辛いとき、ただ見守ってくれるだけではなくて、ずっと側にいて助けてくれていました。
ずっと側にいてほしい、そう思っています」
和弘さんはしっかり、ハッキリとお母さんに向き合って穏やかに語る。
ああ、この人の横顔が好きなんだな。そう思った。
実樹は、キャー、ワーと顔を手でおおうしぐさをしながら、何故か照れてる。
真樹も顔を赤らめてる。
反対にお母さんはさっきまでの酔っぱらいの赤ら顔とは変わり、まっすぐ和弘を見ている。
「…じゃあ、うちの娘と結婚をされるおつもりですか?」




