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自由に生きよ

ライムの部屋は静かだった。


荷物は少ない。


元々私物をあまり持たない性格だった。


机。

ベッド。

古い本棚。


それだけの部屋だ。


「退職金を受け取ったら今日中に退去しろ、か」


ルルーガらしい物言いにライムは苦笑した。解雇した相手を長く置く気はないのだろう。


まあ当然かもしれない。


もう自分は厄災の洞穴の職員ではない。


荷物を鞄へ詰め、服や本を入れる。


少しずつ百年以上過ごした部屋が空になっていく。


その度に胸が痛んだ。


「はぁ……」


思わずため息が漏れる。


気付けば1時間ほど立っていたが誰も来なかった。


ミノタウロス隊長も。

ゴーレム達も。

リザードマン警備長も。


誰一人。


嫌われたのかな。


ふとそんな考えが頭をよぎる。しかしすぐに首を振りみんな忙しいだけだと思い直す。


そう思わないと寂しさに胸が押しつぶされてしまう。


その時、コンコン。と扉が鳴った。


「はい?」


開いた先にいたのはスケルトン会計士だった。


「ライムさん……」


どこか落ち着かない様子で周囲を何度も確認している。


「どうした?」


「その……」


スケルトン会計士は一通の古びた封筒を差し出した。


ライムは首を傾げる。


「これは?」


「ファンリル様からです」


その瞬間ライムの目が見開かれた。


「本当は駄目なんです。ルルーガ様からライムさんには近づくなって全員言われてますから。」


苦笑するスケルトン会計士。


「私はもう行きます」


「え?」


「ファンリル様からその手紙だけは渡せって言われてたんです。もし自分に何かあったらライムへ渡してくれっ!て。」


スケルトン会計士は深く頭を下げた。


「お元気で」


そう言うと足早に去っていく。


手元の封筒をゆっくり開くと中に入っていた紙は一枚だけだった。


そこに書かれていた言葉もたった一行。


『自由に生きよ』


たったそれだけ・・・それだけなのに胸の奥が熱くなった。


気付けば遠い昔を思い出していた。


まだ子供だった頃にファンリルに連れられてダンジョンを歩いていた日のことだ。


『ファンリル様!』


『なんじゃ?』


『僕が世界一のダンジョンを作る!』


『ほう』


『ファンリル様と一緒に!』


あの日の本気の言葉。


だがいつからだろう夢を追いかけるのではなく厄災の洞穴にいることが仕事になり、いつしか厄災の洞穴を支えることだけを考えていた。


「……そうか」


ライムは小さく笑い窓の外を見るとそこには暗くどこまでも続く洞穴があった。


もう自分の居場所ではない。


「ファンリル様」


ぽつりと呟く。


「約束は守れそうにない」


苦笑する。


そして少しだけ前を向いた。


「でも世界一だけは諦められねぇ」


ライムは封筒を胸にしまう。


そして静かに笑った。


「厄災の洞穴じゃない!俺のダンジョンで世界一になってやる」


その言葉は百年以上抱き続けていた夢の再出発だった。


_______


数時間後ライムは街道を歩いていた。


目的地は魔神連邦首都。


「さて!出発したはいいもののどうするかな・・・」


世界一のダンジョンを作ると言うだけならば簡単だ。


だが現実は厳しい。


土地。

資金。

ダンジョンコア。

仲間。


現在は全てがたりない。


「とにもかくにもまずは魔役所か」


そう呟いた時だった。


もぞもぞ。


「ん?」


もぞもぞ。


ライムが立ち止まると背負っていた鞄が動いた。


「……?」


恐る恐る鞄を開くと。


ぷるっ!


青い塊が飛び出した。


「ぷる吉!?」


ぷるるっ!!


満面の笑顔。


いやスライムだから顔はないが。でも絶対に笑っていた。


「お前!?なんでいるんだ!?」


ぷるっ!


得意げに震えるぷる吉。


「まさか最初から入ってたのか!?」


ぷるっ!


肯定らしく震えるぷる吉を前にライムはしばらく呆然とした。


そして思わず笑った。


「ははっ!」


追放されることが決定してから笑えたのは初めてだった。


「そうか!来てくれたのか」


ぷる吉を抱き上げる。


小さな体が温かく震える。


「じゃあ二人でやるか」


ぷるぅぅっ!!


スライムが嬉しそうに跳ねる。


こうして追放されたスライムマスターと一匹のスライムによる世界一のダンジョンを目指す物語が本当の意味で始まった。

もし少しでも

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