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面接①

俺は机の上に並べられた四枚の履歴書を見た。


「それではアルバイト面接を始めるぞ!」


「おー!」


エリシアが元気よく拳を上げる。


「よろしくお願いしますわ」


ミレイアは少し緊張した様子で背筋を伸ばしていた。


そして俺の隣にはぷる吉大先生もいる。


ぷる


今日の面接官は四名!ダンジョンマスターである俺、暫定最深部ボスのエリシア、階層管理者兼魔工技師のミレイアそして。


「人事部長、今日も頼むぞ」


ぷる!


ぷる吉が元気よく跳ねる。


採用後の契約、勤務日数の調整、給料の確認等などそういう細かい作業については、もう俺よりぷる吉の方が詳しい。


うん!適材適所だ。


「ところでライム様」


ミレイアが履歴書を見ながら尋ねてくる。


「今回の採用基準はどうしますの?」


「うん?」


「四人全員を採用するわけではありませんわよね?」


「するつもりだけど?」


「えっ」


ミレイアが固まりエリシアまで目を丸くする。


「全員採用するんですか!?」


「基本的にはな」


俺は頷く。


そもそも今のうちは人手不足だから応募してくれた時点でありがたい。


もちろん他人の命令をまったく聞かないかったり仲間を平気で傷つけたり、仕事をする気がないなどのそういう致命的な問題があれば話は別だ。


「ちょっと変わってるくらいなら別にいいだろ」


「ちょっと、ですか」


エリシアが履歴書を見る。


「この四人、大丈夫なんでしょうか……」


「だから今日面接をするんじゃないか?」


面接というのは落とす相手を探す場所ではない。どんな奴なのか、何ができるのかそしてどんな仕事なら任せられるのか、それを確認する場所だ。


少なくとも俺はそう思っている。


「よし」


俺は扉へ向かって声を上げた。


「最初の人、どうぞ!」


「へい!」


ガチャッ。


勢いよく扉が開いた。


入ってきたのは小柄な男だった。


背は低く、だが肩幅は広い。そして腕は丸太のように太い。


そして何より


「……髭すごいですね!」


エリシアが思わず呟く。


「エリシア!失礼だぞ!」


「あっ」


だが男は気にした様子もなく顔の半分以上を覆うもじゃもじゃの髭を撫でながら、豪快に笑う。


「はっはっは! ドワーフの男ならこんなもんでっせ!」


「すまなかったな・・・では、座ってくれ!」


「へい!」


男が椅子へ座り俺は履歴書を見る。


ヴェルグ

ドワーフ

二十一歳


「では、名前と簡単な自己紹介を頼む」


「へい!」


ヴェルグは胸を張った。


「あっしの名前はヴェルグ!」


太い腕を見せるように袖をまくる。


「手先の器用さには自信がありまっせ!」


「なるほど」


「武器の手入れから家具の修理! ちょっとした工作なら大体できますぜ!」


ミレイアの目が光った。


「工作がお得意なんですの?」


「へい!」


「工具は?」


「一通り使えまっせ!」


「金属加工は?」


「簡単なものなら!資格も持ってまっせ!」


「まあ!」


ミレイアが嬉しそうだ。


今まで設備修理の大半を、一人でやっていたからな。


補助が一人いるだけでもかなり違う。


「いいじゃないですか!」


エリシアも頷く。


「普通の人ですよ!」


普通の人・・・なんだろうか?


まあここまでは問題ないが。


ただ一つだけドワーフと聞いて、俺は気になったことがあった。


曰くー酒を好み自由を好む種族ー


全種族の中でも、ドワーフは特にジョブホッパーが多いことで有名だった。


「ヴェルグ」


「へい!」


「一つ聞いていいか?」


「なんでも!」


「どのくらいの期間、働いてくれる予定なのかな?」


「……」


ヴェルグが黙った。


「ヴェルグ?」


「いやあ~」


髭を掻く。


「それは、あっしにも分からんですな!」


「分からない?」


「へい!」


元気よく頷き胸を張る。


「なにせあっし!一年以上、同じ仕事をしたことがないもので!」


「……」


俺達は黙った。


「最短は?」


ミレイアが恐る恐る尋ねる。


「三時間でっせ!!・・・ちょっとばかし短いですかね?」


「短いですわ!」


「なんで辞めたんです?」


エリシアが聞く。


「職場の近くに酒場があったんですがな!」


「はい」


「そこの酒が美味すぎて!勤務中に抜け出しちまったんでっせ!」


・・・なるほど確かにこれはジョブホッパーだ。


「他には?」


俺が聞く。


「鉱山で働いたこともありまっせ!」


「どのくらい?」


「二か月!」


「辞めた理由は?」


「朝が早かった!」


エリシアとミレイアが俺をものすごく不安そうな顔で見る。


ぷる吉だけは履歴書を眺めていた。


ぷる。


俺は腕を組んだ。


「う~ん……」


ヴェルグが緊張した顔になる。


「採用!」


「へ?」


ヴェルグが固まった。


「ええええええ!?だって!」


エリシアが俺へ身を乗り出す。


「三日で仕事辞めた人ですよ!?」


「そもそも一年いてくれとは最初から言ってないだろ」


一週間でもいいし二週間でもいいから来られる日に来てもらう!それが今回の求人の目的だ。


向こうから辞める分には魔素はかからないしな!


「それに」


俺はヴェルグを見る。


「手先は器用なんだろ?」


「それは間違いありやせん!」


「なら、できる仕事はあるだろ!」


ミレイアの補助、設備の修理、資材加工、罠の補修などやってもらえることはいくらでもある。


「辞めたくなったら、契約通りに事前に言ってくれ」


「そんだけでいいんですかい?」


「いいぞ」


「三日でも?」


「三日はできれば避けてほしいがな」


「善処しやす!」


不安だがまあいい。


「働ける日や時間と、各種契約に関してはこちらのぷる吉と詰めてくれ」


「へい!」


ヴェルグがぷる吉を見る。


「……このスライムさんと?」


「そうだ」


「へい!」


適応が早いな!


ヴェルグはすぐにぷる吉の前へ移動した。


「よろしく頼みやす、人事の旦那!」


ぷる!


相性は悪くなさそうだ。


「では」


俺は次の履歴書を取った。


「次の人~」


しばらく何も起きなかった。


「あれ?」


エリシアが扉を見る。


「いないんですかね?」


コンコン。


小さな音がした。


「どうぞ」


扉がほんの少しだけ開いた。


その隙間から長い耳が見える。


「……あっ」


小さい声がした。


「どうぞ?」


「…………ス」


扉がさらに開く。


入ってきたのは、一人のエルフだったが背中が丸まっており目も合わないず、ずっと床を見ている。


「そこに座ってくれ」


「……ぁ……ス」


聞こえない。


エルフが椅子へ座り、そして固まった。


「……」


「……」


「……」


長い沈黙。


俺は履歴書を見る。


名前は・・・


「それでは、名前と簡単な自己紹介をお願いします」


「……」


エルフが顔を上げる。


口が開いた。


「あっ」

「あっ」


「あっあっあっ……」


「大丈夫だ。ゆっくりでいいぞ」


「………………ス」


終わった。


「……すまない・・・もう一回お願いできる?」


「あっ……あっ……」


頑張っている!頑張っているのは分かる。


「あっあっあっ………………ス」


やはり聞き取れない。


「えっ……と」


ミレイアが履歴書を覗いた。


「ミルザ?さんで合っていますわね?」


こくこくこくとものすごい勢いで頷いた。


「ミルザさんですのね」


こくこくこく。


「エルフ?」


こくこく。


「八十七歳?」


こく。


「働きたい?」


こくこくこくこく。


YES NO型の質問形式にすると通じるな。


「なるほど」


俺も履歴書を見る。


そして少し驚いた。


「……資格欄、長くないか?」


びくっとミルザの肩が跳ねる。


履歴書の1枚目を通り越して2枚目にまで資格欄が伸びていた。


「すごいですわね」


ミレイアも感心する。


「これだけたくさんの勉強されたんですの?」


こくこく。


「実務経験は?」


頷きがぴたっと止まった。


「……ない?ですわね?」


こく。


なるほど・・・資料を見る限り。


ミルザはずっと引きこもっていたらしい。


外へ出ない代わりにひたすら資格取得の勉強をしていた。


資格だけは多いが実際に働いた経験はない。


「前職は?」


「あっ……ス」


「無職?」


こく。


「どのくらい?」


「………………ス」


ミレイアが履歴書を見る。


「……ずっと、ですわね」


「ずっと!?」


エリシアが驚く。


ミルザがさらに縮こまった。


「あっ……あっ……」


「エリシア」


「ご、ごめんなさい!」


エリシアが慌てて頭を下げる。


「馬鹿にしたんじゃないです!」


こく。


「本当ですからね!」


こくこく。


俺は改めてミルザを見る。


コミュニケーションは確かに難しい。


だが質問は理解しているし指示も理解できる。


それに仕事をしたいから、引きこもりだった奴が知らないダンジョンまで一人で来た。


「ミルザ」


びくっ。


「最後に一個だけ聞くぞ」


こく。


「働く気はある?」


少しだけ間があった。


こくっ!


今までで一番強く頷いた。


「う~ん!」


俺は腕を組む。


「採用!」


「…………」


ミルザが固まった。


「え?」


エリシアまで固まった。


「聞こえなかったか?」


「あっ……」


「採用だ」


ミルザの目が大きくなる。


「あっ・・・」


「あっ・・・あっ・・・」


「………………ス」


何を言っているかはやっぱり分からなかった。


でも少しだけ嬉しそうなのは分かった。


「いやいやいや!」


エリシアが立ち上がった。


「なんだよ」


「百歩譲ってヴェルグさんはまだ許せます!でも!」


エリシアがミルザを指差しかけ失礼だと思ったのか、慌てて手を引っ込める。


「ミルザさん、一言もしゃべってないじゃないですか!」


ミルザがずーんとさらに小さくなった。


「ああ」


俺は頷く。


「確かにな・・・だが今更、何言ってるんだ?」


「え?」


俺は隣を見る。


そこにはヴェルグとの契約内容を確認している。


一匹のスライムがいた。


ぷる。


俺はそいつを指差す。


「うちの人事部長はスライムだし、喋れないぞ?」


「……」


「だからミルザも安心してくれ」


ミルザが顔を上げる。


ぷる。


「……ぁ」


「……ス」


何を言ったかはやっぱり誰にも分からなかった。


ただぷる吉だけが。


ぷる!


元気よく返事をした。


「……通じたんですか?」


エリシアが聞く。


「さあ?」


俺にも分からない。


「まあ、問題ないだろ」


「問題だらけですよ!」


こうしてアルバイト一人目ジョブホッパーのドワーフ「ヴェルグ」と二人目のまともに会話できないエルフ「ミルザ」の採用が決定された。


しかし応募者はまだ二人残っている・・・俺は三枚目の履歴書を手に取った。


「さて・・・」


次の応募者の種族を見る。


オーガ

年齢

十九歳


「次も面白そうだな」


エリシアが叫ぶ。


「お願いですから、今度こそちゃんと面接してください!」


「ちゃんとしてるだろ?」


そんなやり取りをしながら俺は扉へ向かって声を上げた。


「それじゃあ、次の人――」

もし少しでも

「続きが気になる!」

「面白かった!」

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それではまた次回!

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