人手が足りない!
「人手が足りない!」
俺の叫び声がダンジョンコアの部屋に響き渡った。
「……突然どうしたんですか?」
エリシアが首を傾げ、その横ではぷる吉まで俺を見上げていた。
ぷる?
「だから人手だ!」
俺は机に広げていた紙を叩いた。
「圧倒的に人手が足りない!」
「そうですか?」
エリシアは不思議そうな顔をする。
「一階層はスライムさん達が頑張っていますし……」
「ぷる!」
「二階層から十階層までも、ミレイアさんが守ってくれていますよ?」
「そこだよ!ミレイアが一人で頑張っている!」
俺は立ち上がった。
「それが一番まずい!」
少し離れたところで設計図を書いていたミレイアが、手を止めた。
「あのあの~。私ですの?」
「そうだ」
俺は壁に貼ってある予定表を指差した。
現在うちのダンジョンの営業時間は、朝九時から夕方五時までで水曜日は休業日だ。
「確かに今は何とかなってる」
冒険者の大半は一階層で魔結晶を掘って帰っており二階層以降まで進む者は、まだ少数だ。
だからミレイア一人でも対応できている。
だが
「もしミレイアが休んだらどうなる?」
「私が頑張ります!」
エリシアが手を挙げた。
「却下」
「なんでですか!?」
「お前は未成年だろ!!労働基準法てきに一発アウトだ!スライムは一歳になるまで働けない!」
「むぅ……」
エリシアが頬を膨らませる。
「つまり」
俺は腕を組んだ。
「今のうちは、ミレイア一人に仕事が集中しすぎてるんだ。もちろん俺がフォローできる所はフォローするがそれでも限界がある・・・」
階層管理
罠の整備
魔方陣研究
自動人形の製作
冒険者への対応
さらに故障した設備の修理まで
「改めて並べると、ひどいな」
「いえいえ!」
ミレイアが慌てて立ち上がる。
「私は好きでやっていますので!」
「そこがもっと怖いんだよ」
「えっ?」
好きだから働く、楽しいから働く、それ自体はいい。
だが気付いた時には倒れていました、では困る。
百年以上俺はダンジョンで働いてきた。
だから知っているのだ一人の有能な奴に仕事を集めると最初はうまくいくがその一人が倒れた瞬間に全部止まる。
「ミレイアが風邪をひいたら?」
「ゴーレムなので風邪はひきませんわ」
「じゃあ腕が取れたら?」
「つけ直しますわ」
「……便利だな、ゴーレム」
少し羨ましい。
「とにかくだ」
俺は咳払いした。
「一人に依存してる状況がまずいんだ」
ミレイアが少し困った顔をする。
「今のところ、二階層以降へ侵入する冒険者の数は多くありませんわ」
「今は、だろ?」
「……そうですわね」
ミレイアの表情が引き締まる。
「近くの開拓村にも、ついに名前がついたそうですし」
「ジョンダ、だったか?」
ただの開拓村だった場所が一か月ほどで名前を持つ集落になりどんどん人が増えている。
「いつ大規模な討伐隊が組まれても、おかしくありませんわ……」
今は一日に数組だが十組来たら?二十組来たら?
それどころか軍隊が来たら?
「ミレイア一人じゃ絶対に回らない」
「申し訳ありませんわ……」
「なんで謝るんだ?」
「え?」
「むしろ一人でここまで回してる方がおかしいだろ」
俺が言うとミレイアは目をぱちぱちさせた。
それから少しだけ嬉しそうに俯く。
「ライム様は……そういうところ、ずるいですわ」
「何が?」
「何でもありませんの!」
なんなんだ。
俺は頭を掻いた。
そこで一つの結論を出す。
「よし!」
机を叩く。
「バイトを雇おう!」
「バイト?」
エリシアが首を傾げた。
「期間限定の雇用だ」
「ミレイアさんみたいに、正式に雇うのでは駄目なんですか?」
「……」
俺は黙った。
エリシアが首を傾げる。
ミレイアもこちらを見る。
ぷる吉も見る。
「ライム様?」
「魔素がないんだ」
「はい?」
「正式に雇うのに必要な……魔素がない」
静かになった。
「……」
「……」
ぷる。
痛い。
視線が痛い。
「だって仕方ないだろ!」
俺は言い訳する。
「余裕があると思って研究費を出したんだけど!思ったよりも魔素がかかってな・・・」
ミレイアがそっと顔を逸らした。
「……私のせいですわね」
「必要経費だからいいんだよ!」
問題はそこではない。
ダンジョンで魔物を正式雇用する場合はダンジョンコアへ登録し魔力経路を接続し所属魔物として認証する必要がある。
その上、定期的に支払う一定量の魔素が必要になる。
「あと一人ぐらいなら何とかなるんだが」
俺は言った。
「でも今欲しいのは優秀な一人じゃない」
二階層以降の補助や罠の点検に巡回と運搬
そして場合によっては戦闘。
最低でも数人欲しい。
「だから!」
エリシアが手を叩いた。
「一時的に働いてもらえばいいんですね!」
「そういうことだ」
期間を決め、勤務時間も決める。
そして必要な日だけ来てもらう。
「バイトなら、所属登録に必要な魔素も大幅に少なくて済む」
「なるほどです!」
「それに」
俺はミレイアを見る。
「実際に働いてもらってから、正式採用するか判断できる」
「お互いに合うか確認できますわね!実際に知り合いもバイト経由で就職していた人もおりましたわ」
俺達が相手を見ると同時に相手にも俺達を見る時間がある。
合わなければ契約期間が終わったところで、おしまい。
俺はダンジョンコアを開いた。
「そうと決まれば魔ローワークだ」
そして隣にいたぷる吉へ目を向ける。
「先生」
ぷる?
「お願いします!」
俺は頭を下げた。
「求人票を作ってください!」
ぷる!
ぷる吉が勢いよく跳ねた。
「ぷる吉さん、先生になったんですか?」
エリシアが聞く。
「求人に関しては俺より上だからな」
俺が出した求人票にはほとんど応募がなかった。それをぷる吉が勝手に書き直した。
いや今となっては勝手に、ではない。
適切に修正してくれた。
結果ミレイアが応募してきた。
「実績がある奴に任せる!プル吉はうちの人事部長だ!」
「ぷる吉さん、すごいです!」
ぷるる!
誇らしげだ。
俺は席を空けた。
ぷる吉がダンジョンコアの前へ移動する。
ぷる。
ぺち。
ぷるぷる。
ぺちぺち。
器用に画面を操作していく。
「……本当に慣れてるな」
「前回より速いですわ」
ミレイアまで感心している。
数分後画面に求人票が表示され俺達は全員で覗き込んだ。
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【求魔人】
新設ダンジョン防衛補助
アルバイトスタッフ募集!
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■仕事内容
・ダンジョン内巡回
・罠の点検補助
・設備の簡単な修理
・資材運搬
・侵入者発見時の報告
・能力に応じて戦闘業務
※苦手な仕事を無理に任せることはありません。
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■応募条件
種族不問。
年齢不問。(未成年以下の労働は固く禁じられています)
職歴不問。
戦闘経験不問。
未経験歓迎。
「自分には戦闘能力がない」
「今まで能力を評価されなかった」
という方も歓迎します。
面接時に得意なことを一緒に探します。
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■勤務時間
九時~十七時。(勤務時間応相談可)
水曜日休業。
勤務日数応相談。
短期勤務可。
週一日から可。
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■待遇
・食事あり
・休憩あり
・最低報酬保証
・危険業務手当あり
・装備貸与あり
・業務中の負傷はダンジョン側が治療費を負担
・働きに応じて昇給あり
・希望者には正式採用制度あり
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■特記事項
命を捨てる仕事はさせません。
不得意な仕事を押しつけません。
失敗した場合も理不尽に怒られることもありません。
頑張って働いてくれる方を歓迎します。
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勤務地:パレミル周辺(交通費全額支給)
総責任者:ダンジョンマスター・ライム
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「……」
俺はしばらく求人票を見つめた。
「ぷる吉」
ぷる?
「お前、本当にスライムか?」
ぷる!
やっぱりスライムらしい。
「すごくいいですね!」
エリシアが目を輝かせる。
「私も応募したいです!」
「お前はもういるだろ」
「じゃあ正式採用制度を使います!」
「お前は最初から幹部だ!」
「えへへ」
・・・なんで嬉しそうなんだ。
一方ミレイアは求人票をじっと見ていた。
「どうした?」
「あのあの~」
ミレイアが小さく笑う。
「私も、この求人を見ていたら」
画面に書かれている一文を見る。
戦闘経験不問。
不得意な仕事を押しつけません。
「きっと応募していましたわ」
「そうか?」
「はい!」
ミレイアは微笑んだ。
「こういう場所なら……自分にもできることがあるかもしれないって思えますもの」
俺はぷる吉を持ち上げた。
「さすが先生!」
ぷるるる!
ぷる吉が嬉しそうに震える。
そのまま求人票を公開した。
「これで来るかな?」
「来ますよ!」
エリシアは自信満々だ。
「私なら絶対来ます!」
◇
翌朝俺はダンジョンコアの前で固まっていた。
「……」
目を擦りもう一度見る。
変わらない。
【新着応募 四件】
「四人?」
昨日出したばかりだぞ!
俺は慌ててエリシア達を呼んだ。
「エリシア!」
「はーい!」
「ミレイア!」
「はいですわ!」
「ぷる吉先生!」
ぷる!
三人が集まる。
俺は画面を指差した。
「来た」
「何がです?」
「応募者だよ!」
エリシアが画面を見る。
そして目を丸くした。
「四人も!?」
「一晩で、だ」
ミレイアも驚いている。
「随分と早いですわね……」
俺達の視線が自然とぷる吉へ集まった。
ぷる?
何も分かっていない顔をしている。
俺は先生を抱き上げた。
「ぷる吉」
ぷる。
「お前、もしかして……」
俺よりダンジョン経営に向いてない?
ぷる吉は返事の代わりに得意げに一度だけ跳ねた。
翌日俺達は四人のアルバイト希望者を面接することになった。
未成年以下は働けないです。なので生まれたばかりのエリシアも働けないのですが、プル吉から分裂して生まれたスライム達は四八歳のプル吉のコピーという扱いなのでちゃんと成年です。




