魔神様の華麗なる一日
――魔テレビ特別企画。
『密着! 華麗なる魔神様の一日』
本日は、魔神連邦最高統治者にして、全ダンジョンランキングを管理する現人神――魔神アスタロト様に密着取材を敢行した。
◇
魔神様の朝は早い。
世界を恐怖で呑み込むために毎朝、日の出前には起床され愛犬のドメルギウスちゃんと一緒に日課のジョギングに励まれている。
我々取材班が魔神城へ到着した時には、すでに城を囲む巨大なお堀を一周し終えようとしていた。
「あら~!あなたたちが今日のお客さんね~!」
汗一つかいていない魔神様が笑顔で大きく手を振る。
「ご飯はまだかしら?せっかくだし、ご一緒にいかが~?」
取材班は顔を見合わせた。
まさか魔神様と朝食をご一緒できるとは・・・
◇
案内されたのは豪華な厨房。
そこにいたのはピンク色のフリルで縁取られたエプロン姿の魔神様だった。
「あたし、お料理好きなのよ~。」
手際よく味噌汁を作り、魚を焼く。そして卵を巻く。最後に納豆を取り出した。
「あたしはねぇ。納豆にはネギを入れない派なんだけど……。あなたたちはどうするのかしら?」
取材班は遠慮しながら答える。
「ね、ネギだくでお願いします。」
「あらそう。それじゃあいっぱい入れましょうね~。」
山盛りのネギが納豆へ投入され始まった朝食の献立は意外にも質素だった。
白米。
味噌汁。
焼き魚。
卵焼き。
納豆。
豪華な食卓を想像していた取材班は驚きを隠せない。
◇
朝食が終わると休む間もなく会議が始まった。
今回、我々は特別に同席を許されている。
「アスタロト様。」
「新人ダンジョンマスターへの改築補助費支給、およびスタートアップ支援ですが、定着率が昨年比で十二パーセント向上しております。」
「いい傾向ねぇ~。10階層までの補助でも十分生存率には貢献してくれるようで何よりだわぁ~」
別の文官が立ち上がる。
「人財飽和による大規模ダンジョンの破産防止策として進めております、解雇規制緩和についてですが……。さらに規制を緩めてほしいという大規模ダンジョンマスターの署名が届いています。」
「それは・・・少し慎重になりたいわぁ~♡検討に検討を重ねて検討を加速させると伝えておきなさ~い」
さらに次々と報告が続く。
「地方ダンジョンへの物流改善について。」
「若手育成制度の見直しについて。」
「新規D級ダンジョンのランキング変動ですが――」
「あら、それは後で見るわ~。」
アスタロト様は笑顔のまま頷いた。
取材班は思わず尋ねる。
「これほど多くの案件をご自身で確認されるのですか?」
魔神様は書類から顔を上げた。
「ええ。紙だけで済ませられるものもあるかもしれないけれど……。現場感って、とても大事なの。最低限、それだけはあたし自身が持っていたいのよ。」
その笑顔は、とても眩しかった。
◇
午後。
今日は国内視察の日だ。
魔神様は毎日のように各地を飛び回り、魔神連邦全土を自ら見て回られている。
本日の目的地は国境付近。
しかし
「あら~。」
魔神様のショッキングピンクに輝く羽が止まった。
「……あれはまずいわねぇ。」
視線の先には、一つのダンジョン。
そしてその周囲を完全包囲する人類軍。
勇者を先頭に、大軍勢が今にも総攻撃を始めようとしていた。
「あら。勇者がいるじゃない。」
魔神様は我々へ振り返る。
「ちょっと離れてなさい。」
我々は慌てて後退した。
その瞬間勇者が叫ぶ。
「まずい!結界を展開しろ!全軍、防御陣形!!」
即座に幾重もの結界が展開され、誰もが息を呑む中で魔神様はただ片手を軽く振る。
「さあ・・・”生存禁止”よ~!」
世界が、一瞬だけ白く染まった。
次の瞬間には結界と勇者軍はそこにあった大地ごと、跡形もなく消えていた。
巨大な更地と無傷のダンジョンだけが残される。
「さ!行きましょう!」
何事もなかったかのように、魔神様は再びショッキングピンクに輝く羽を広げた。
◇
帰り道
「あら!あのお店のペペロンチーノ納豆アイス、美味しいのよね!一緒に食べに行きましょう!」
取材班全員にアイスをご馳走してくださるようだ。
その時だった。
店先で一人の少女がこちらを見つめていた。
ぼろぼろの布を纏い羨ましそうにアイスを見つめている。
「ねえ♪あなたも食べる?」
少女は驚いたように目を見開く。
「……いいの?」
「もちろんよ~!」
店主へ笑顔で告げる。
「この子の分もお願いね。」
少女は両手でアイスを受け取り、小さく頭を下げた。
「ありがとうございます……。」
魔神様は驚く我々に向かって優しく微笑む。
「あたしはね。自分が全てを思い通りに出来る万能の存在だとは思ってないわ。」
少女の頭をそっと撫でる。
「でも。手の届く誰かを助ける魔神ではありたいのよ。」
その笑顔は朝の会議で見せた笑顔よりも、さらに眩しく見えた。
◇
そして一日の終わりには魔神城最上階にて魔神様は世界中のダンジョンランキングへ目を通していた。
次々と順位が更新される。
「あら?」
一枚の報告書を手に取ると口元がゆっくりと緩んだ。
「これは……。あのBoy達なかなかやるじゃない。」
その言葉が誰へ向けられたものだったのか我々取材班が知ることは、最後までなかった。
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それではまた次回!




