生き残り
足は既に動かないがそれでも止まるわけにはいかなかった。
セシルは折れた弓を杖代わりにしながら、ふらつく身体を前へ運ぶ。服は裂け、全身が傷だらけだった。何度転んだかも覚えていない。
それでも・・・
「帰らなきゃ……。」
自分だけでも伝えなければならない。
仲間達が命を懸けて残してくれた情報を、そしてテポが辿った最期を・・・!
村の門が見えた瞬間だった。
「セシルさんだ!」
「一人だぞ!」
「おい! 大丈夫か!」
村人達が駆け寄るとその声を聞いた瞬間、張り詰めていた糸が切れセシルはその場へ膝をついた。
「そ、村長を……。急いで……。」
◇
村長宅の応接室には村長と数名の村人が集まっていた。
そこには偶然、パレミルから訪れていた使者の男も席についている。
包帯を巻かれたセシルは深く息を吸った。
「報告します。私達は……ダンジョンを発見しました。」
一瞬で室内が静まり返る。
セシルは震える声で語り始めた。
「第一階層の魔力を帯びた水により倒しても何度でも蘇るスライムに巨大な魔方陣がありました。そして第二階層で待ち受けていたのは異形のゴーレムです・・・カイル達……は」
言葉を絞り出すたび、胸が締め付けられる。
「三人とも……命を落としました。」
誰一人として口を開かなかった。
村長の顔から血の気が引いていく。
「そんな……。銀級冒険者が……全滅?」
村人の一人が呟く。
「私だけ……逃げました。皆が命を懸けて時間を稼いでくれたからです。」
村長は目を閉じ重苦しい沈黙が部屋を包むがその静寂を破ったのは、パレミルの使者だった。
男は静かに立ち上がる。
「村長。私は失礼する。」
それだけ告げると、迷いなく部屋を後にした。
その足取りには、一刻を争う緊張感が滲んでいた。
◇
その頃家の外の窓の下には、一人の少年レオが立っていた。傷だらけで帰ってきたセシルを見た瞬間、嫌な予感がしたのだ。
だから思わず話を聞いてしまった。
「テポ……。」
幼なじみの笑顔が頭をよぎる。
一緒に畑を駆け回った日々。
夢を語り合った夜。
全部もう戻らない。
レオは拳を強く握り締めた。
「テポは……。あのダンジョンにやられたんだ。」
瞳の奥で、黒い感情が静かに燃え上がる。
「許せない。」
◇
部屋へ戻ったセシルは、深く頭を下げた。
「少し休んだら、冒険者ギルドにも報告へ向かいます。この状態では……警備任務も続行できませんので……。」
村長は静かに頷いた。
「いや、このような緊急事態なら致し方なかろう。必要な物資があれば、可能な限り用立てよう。」
「ありがとうございます。」
セシルは小さく頭を下げた。
今や、一つの村だけでどうにかなる問題ではない。
誰もが、その現実を理解していた。
◇
――中立学術都市パレミル。
大賢塔パルテノア。
最上階の一室。
白髭の老人、リリー・パルテノアは報告書へ目を落としていた。
「……やはり、ダンジョンか。」
険しい表情のまま呟く。
向かいには、先ほど村を訪れていたフード姿の男が立っていた。
「すでに数名が喰われているそうです。一刻も早く対応しなければ。」
リリーはゆっくりと目を閉じる。
「うむ。すでに有力な冒険者には声をかけておる。物資の支援も速やかに実施する。」
そして、窓の外へ視線を向けた。
「各国の軍に関しては……時間はかかるだろうが、交渉を続ける。」
未知のダンジョンに無限に蘇る魔物。
人を喰らう迷宮によって静かだった辺境は、今まさに大きな渦へと飲み込まれようとしていた。
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