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死の番人

ガコン

ガコン

ガコン


重い鉄の足音が洞窟を震わせながら四本の腕を持つ黒鉄の魔物は、ゆっくりと若葉の盾へ歩み寄ってきた。


赤く光る単眼だけが、不気味なほど静かだった。


「来るぞ!」


カイルの叫びと同時だった。


ギィンッ!!


下側の右腕に握られた機械弓が音を立てる。


次の瞬間三本の矢が一直線に飛来した。


「ダリオ!」


「任せろ!」


ダリオは巨大な盾を前へ突き出す。


ガガガンッ!!


鋼鉄同士がぶつかるような衝撃に盾を握る腕が痺れる。


「なんて威力だ……!」


その隙を逃さないゴーレムは一気に距離を詰めた。


上側の右腕の黒い大剣が振り下ろされる。


「うおおおおっ!」


ダリオが真正面から受け止めるが凄まじい衝撃に足元の岩盤が砕け散った。


「重……い!」


押し負ける。


そう判断した瞬間ノエルの杖が輝く。


「今だ!ライトニングランス!」


青白い雷槍が一直線に走り、変異ゴーレムの胴体へ命中し火花が散る。


ドォォォォン!!


その大きな身体が僅かによろめく。


「効いてる!」


セシルが矢を放つ。


「ウィンドアロー!」


風を纏った矢が関節へ突き刺さる。


ガキンッ!


左腕が弾かれた。


「カイル!」


「分かってる!」


カイルが一直線に駆ける。


「斬牙!」


銀色の軌跡が閃く。


ザンッ!!


変異ゴーレムの脚部へ深い傷が刻まれ膝をつく。


ガコンッ


「押し切れ!」


四人は一斉に攻撃へ転じる。


ダリオが盾で押し込みノエルが雷撃を浴びせセシルが関節だけを正確に撃ち抜く


そして


「これで終わりだ!」


カイルの剣が大きく振り抜かれた。


ゴォォォォン!!


黒鉄の身体が真っ二つに裂け四本の腕が砕け散った。


巨体は力なく崩れ落ちる。


ズゥゥゥン……


誰も動かなかった。


やがてダリオが息を吐く。


「はぁ……」


「勝っ……たのか?」


ノエルも安堵したように笑う。


「想像以上に強かったけど……なんとか勝てたわね。」


セシルも胸を撫で下ろす。


「本当に良かった……」


しかしその時だった。


キィィィィ……


砕けた黒鉄が淡く光り始める。


「……?」


四人が表情を変える。


「まだ動くのか?」


カイルが剣を構える。


だが最も近くにいたダリオだけは違うものを見ていた。


砕けた胸板から剥がれた装甲。


その裏側一面に複雑な魔方陣が刻まれている。


そしてその溝という溝には青いスライムが隙間なく詰め込まれていた。


「な……」


血の気が引く。


脳裏に蘇る一階層でのあの爆発。


「まさか……!」


その瞬間だった。


メリメリメリッ!!


変異ゴーレムが。


自ら残った装甲を引き剥がした。


「なんだ!?」


カイルが叫んだ次の瞬間巨大な装甲板が回転しながら一直線にダリオの後方へ飛ぶ。


ブォンッ!!


「しまっ!」


ダリオは理解した。


爆発する。


しかも四人の真ん中で。


「みんな逃げろぉぉぉぉっ!!」


叫びながら巨大な盾を構える。


そして世界が白く染まった。


ドゴォォォォォォォォォォォン!!


轟音

爆炎

衝撃波


洞窟全体が揺れた。


壁が崩れ岩が降り注ぎ何も見えない。


何も聞こえずただ身体だけが吹き飛ばされる。


――――


キィィィ……


耳鳴りだけが残る。


ゆっくりと煙が晴れていく。


「……ぐ……」


カイルが立ち上がる。


その額からは血が流れ、腕も裂けて全身が赤く染まっていた。


「みんな……!」


視線を向けるとノエルは倒れていた。


杖を握ったまま、恐らく意識がない。


「ノエル!」


返事はないがその声に応じるようにダリオも起き上がろうとする。


だが左脚が動かなかった。


「くそ……」


骨が折れてまともに立てない。


セシルも頭を押さえていた。


「み……みんな……」


視界が揺れ足元もふらつく。


「大丈夫……?」


その声を重い鉄の足音が遮った。


ガコン……

ガコン……

ガコン……


3人の身体が震える。


煙の奥からまた赤い単眼が灯る。


「そん……な……」


セシルの声が震えた。


そこには傷一つないもう一体の変異ゴーレムが立っていた。


誰も言葉を失う。


”絶望”


それ以外の感情が浮かばなかった。


その時


「……ぼくは」


小さな声が響く。


ノエルだった。


「ぼくは……置いていってください……」


「何言ってやがる!」


ダリオが怒鳴る。


「もう……まともに動けません……足手まといを連れては……誰も逃げられない……」


「ふざけんな!」


ダリオは叫ぶ


「仲間を置いて――」


しかし最後まで言えなかった。


ギュィィィン!!


変異ゴーレムの機械弓が唸る。


ズドォォン!!


巨大な矢がダリオの胸を貫いた。


「が……っ!」


鮮血が飛び散りダリオは膝をつく。


「ダリオ!!」


カイルが叫び、そして剣を握り振り返る。


「セシル!お前は逃げろ!」


「え……?」


「このダンジョンを!村に!ギルドに!伝えるんだ!」


変異ゴーレムが迫る。


もう時間はない。


「リーダー命令だ。」


そう言って剣を握り直す。


「行けぇぇぇぇぇっ!!」


カイルは一人変異ゴーレムへ突撃した。


「いやあああああっ!!」


セシルは涙を流しながら駆け出す。


背後では鋼鉄と肉がぶつかる音と爆発そして誰かの叫び。


全てが聞こえていた。


それでも振り返らない。


振り返れば全員の覚悟を無駄にしてしまう。


ただひたすら走り階段を駆け上がり一階層を抜ける。


そして夕日に照らされた洞窟の外へ飛び出した。


「誰か……!」


涙で滲む視界のままセシルは村へ向かって走り続けた。

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