二階層の番人
「……やっぱり、スライムがいたか」
ノエルが肩の力を抜いた。
第一層へ足を踏み入れた瞬間から、足元には薄く青白く輝く水が流れている。
洞窟とは思えないほど澄んだ水だった。
「綺麗……」
セシルが思わず呟く。
しかし、その感想も長くは続かなかった。
ぷる。
ぷるる。
通路の奥から数匹のスライムが跳ねながら近付いてくる。
「任せろ!」
ダリオが盾を前へ出し、その隙間から剣を一閃。
スライムは一撃で弾け飛んだ。
「……弱いな」
カイルも頷く。
「だが油断は――」
言い終わる前だった。
ぽちゃん。
弾けたスライムが足元の水へ溶け込む。
その瞬間
ぷる。
ぷるる。
数秒もしないうちに再び身体を取り戻す。
「……なるほど」
ノエルがしゃがみ込み、水を指先ですくう。
「この水。まさか魔力水か・・・?」
三人が顔を向ける。
「魔力を大量に含んだ特殊な水のことだ。おそらくスライムはこれを吸収して即座に再生してる。」
ダリオは面倒そうに頭を掻いた。
「じゃあ倒しても意味ねぇのか。」
「ええ。スライムは弱すぎて核も目に見えないほどに小さいわ。相手をするだけ時間の無駄よ。」
セシルも苦笑した。
「初心者なら焦るでしょうね・・・でも仕組みが分かれば怖くないわ。」
カイルは静かに頷く。
「だったら戦う必要はないな・・・・・進むぞ。」
四人はスライムを無視し、そのまま奥へ歩き始めた。
後ろではスライム達がぷるぷる跳ねながら追いかけてくる。
しかし速度は遅く脅威にはならない。
やがて通路の先が大きく開けた。
「ここが一階層の最奥か。」
部屋へ踏み込んだ瞬間だった。
眩い閃光が辺りを包み込む。
「何か来るぞ!」
ダリオが巨大な盾を地面へ叩き付けた。
ゴォォォォッ!!
白い光が部屋中を駆け抜ける。
轟音。
衝撃。
熱風。
それらが一瞬で過ぎ去った。
「……終わったか?」
恐る恐る盾を下ろすと部屋にはもう光は無い。
代わりに床一面へ巨大な魔方陣が刻まれていた。
その溝という溝には青いスライム達がびっしりと詰め込まれている。
「これは……」
ノエルが目を細める。
魔方陣へ近付き、しゃがみ込む。
しばらく観察すると、小さく息を吐いた。
「そういうことか。これは発動媒体がスライムになっているんだな・・・」
ダリオが首を傾げる。
「発動媒体?」
「普通、魔法陣は術者が魔石や魔結晶なんかを通して陣に魔力を流して発動させるものだ。でもこのダンジョンは違う。スライム自身を”魔力供給源”兼”発動術者”にしているってことだな。」
セシルは驚いたように魔方陣を見回した。
「じゃあ目に見える術者がいなくても……」
「発動できる。」
ノエルは頷いた。
「面白い発想ね。」
「でも所詮はスライム。魔力量なんて知れているからさっきみたいな魔法を何度も撃てるとは思えない。」
カイルは部屋全体を見回す。
「つまり。あくまでこの部屋は侵入者を驚かせるための罠ということか。」
「恐らくね・・・」
「十分脅威ではあるけど、対策はできるってことだな」
四人は顔を見合わせた。
「行こう。」
部屋の奥の下へ続く石階段へ誰も迷うことなく歩き始める。
「結局またスライムなんじゃないか?」
ダリオが笑う。
ノエルも肩を竦めた。
「その可能性は高いとは思う。」
セシルも少し安心したように笑う。
しかしカイルだけは笑わなかった。
「油断するな。」
三人が振り返る。
「スライムだから弱い。その考えが一番危ない。」
静かな声だった。
「天井から顔へ張り付かれれば口と鼻を塞がれるとそれだけで人は死ぬ。ただの突進でも足場の悪いここでは打ち所が悪ければ大けがに繋がるかもしれない・・・」
三人の表情が引き締まる。
「……行くぞ」
階段を降りる。
そこには第一層と変わらない景色が広がっていた。
足元を流れる魔力水に薄暗い石造りの通路。
静寂が場を支配する。
「油断はしないけど・・・拍子抜けね。」
セシルが小さく笑う。
「またスライムかしら。」
ノエルが前へ出た瞬間だった。
ヒュンッ!!
「っ!!」
セシルが反射的に杖を振る。
金属音。
飛来した一本の矢が弾かれ、壁へ深々と突き刺さった。
「敵襲!」
ダリオが盾を構える。
全員が武器を抜いた。
だが敵は見えない。
水音だけが響く。
その静寂を重々しい音が破った。
ガコン
ガコン
ガコン
石畳が震え闇の奥から巨大な影がゆっくりと姿を現した。
それは生物ではなかった。
黒鉄を幾重にも組み上げた鋼鉄の身体の節々から赤黒い魔力が漏れ出し、胴体中央では小さな紫紺の魔石が4つ鼓動のように脈打っている。
兜を思わせる頭部に額には一本角が生えている。そして血を思わせる真紅の単眼が四人を静かに見据えた。腕は四本あり、右上には肉厚な大剣、左上には巨大な黒盾、右下には機械仕掛けの大弓、左下には禍々しい戦斧をそれぞれの手に持っている。
四つの武器が同時にゆっくりと構えられる。
ギギギ……
歯車が噛み合う音が洞窟中へ響いた。
セシルの顔から血の気が引く。
「ま、まさか……」
喉を震わせながら呟く。
「ゴ、ゴーレム種の……変異種……?」
四人は初めて理解した。
このダンジョンは決してスライムだけの巣ではないのだと
もし少しでも
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それではまた次回!




