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面接

「ミレイアと申しますわ」


少女はスカートの端を軽く持ち上げ、流れるような所作で頭を下げる。


「以後、お見知りおきを」


「こちらこそよろしく」


ライムは座ったまま頭を下げた。


向かい側にはミレイア。


ライムの隣にはエリシア。


そして机の端に置かれた小さな座布団の上には、ぷる吉が座っている。


ぷるプルぷるぷる


ぷる吉は真剣な様子でミレイアを見つめていた。


「本日の面接を担当するライムだ」


「こちらがエリシア」


「よろしくお願いします!」


「それから、ぷる吉だ」


ぷるっ。


「まあ」


ミレイアは優しく微笑んだ。


「ぷる吉様ですのね。よろしくお願いいたしますわ」


ぷるるっ。


ぷる吉が嬉しそうに揺れる。求人票を書き直したのはぷる吉だ。今回の応募者を連れてきた功績を考えれば、面接官として同席する資格は十分にある。


「それじゃあ、始めようか」


「はい。お願いいたしますわ」


ミレイアは背筋を伸ばし膝の上で両手を重ねまっすぐライムを見つめた。


緊張しているようだが、姿勢は崩れていない。


「まずは簡単に自己紹介を頼む」


「承知いたしましたわ」


ミレイアは小さく息を吸った。


「私は”今年”魔大学の魔工学科を卒業いたしました。専攻は魔導建築及び魔力伝導構造ですわ。在学中は、魔力を効率よく設備へ流すための構造や、魔力消費を抑えた防衛設備、ゴーレム工学について学んでおりました!」


「魔工学科か」


ライムは感心した。


魔大学とは魔神連邦内でも有数の高等教育機関であり誰でも入れる場所ではない。その中でも魔工学科はダンジョン設備、魔導具、罠、建築、魔力回路等の様々な技術を学ぶ学科だった。


「ちなみに成績を聞いてもいいか?」


「卒業順位は三位でしたわ」


「三位!?」


エリシアが身を乗り出す。


「凄いです!」


「ありがとうございます」


ミレイアは少し照れたように微笑んだ。


ライムは提出された書類へ目を落とす。


確かに成績は非常に優秀で必修科目のほとんどで最高評価を取っている。


欠席も少なく素行にも問題はない。


「それじゃあ、研究内容について聞いていくぞ」


「はい」


ミレイアは待っていたように答えた。


「卒業研究では、低出力魔物でも運用可能な魔導設備を研究いたしました」


「低出力魔物?」


「魔力量の少ないゴブリンやコボルトでも、自爆魔法のような単純な魔法だけでなく複雑な魔導装置を動かせるようにする研究ですわ」


「なるほどな」


ライムは顎に手を当てる。


このダンジョンには魔力の強い魔物はほとんどいない。それどころか普通のスライムしかいない。そのことを考えると低出力の魔物が使える設備はかなり相性がいい。


「具体的には、どんなものを作ったんだ?」


「簡易式の魔力蓄積板ですわ!使用者が少しずつ魔力を注ぎ、一定量に達した時点で設備を起動させますの。このダンジョンにも導入されている魔方陣の発展版ですわ。瞬間的に大きな魔力を出せなくても、時間をかければ高出力の装置を動かせる仕組みですわね」


「おお!」


エリシアが自信満々に頷く。


「よく分かりませんが凄そうです!でも凄いことは分かります!」


ぷる吉は黙ってミレイアを見つめている。


そして机の上に置かれた小さな紙へ身体を伸ばした。


ぷる。


古代魔法文字が浮かび上がる。


【研究を実際のダンジョンで使った経験は?】


ミレイアが目を見開いたが、すぐに質問へ答える。


「実際のダンジョンでの運用経験はございません。ですが、魔大学の演習用迷宮で三度試験を行いましたわ」


【結果は?】


「すべて正常に作動いたしました」


【一度も故障はなかった・・・という認識でいいのかな?】


「…一度だけ」


ミレイアは素直に答える。


「魔力回路が過熱し、設備の一部が破損いたしました」


【原因は?】


「設計時に魔力充填安全率を低く見積もってしまったことですわ。けれどその失敗から学び、それ以降の実験では予想される最大出力の三倍まで耐えられるように設計しております」


ぷる吉は頷きながら紙を下ろした。


失敗を隠すことなく、原因を究明理解し、改善も行っている・・・悪くない。むしろかなりいい。


ぷる吉が再び紙へ身体を伸ばす。


【その失敗で誰か怪我をした?】


「いいえ」


ミレイアは首を横に振った。


「設備が異常な音を立てた時点で、すぐに停止させました。演習場にいた全員を避難させた後、私一人で点検いたしましたわ」


「自分一人で?」


ライムが聞き返す。


「危なくなかったのか?」


「私なら問題ありませんので」


ミレイアは穏やかに答えた。


「では、集団で仕事をする時に大切だと思うことは?」


「報告と相談ですわ」


ミレイアは即答した。


「自分だけで判断せず、少しでも異常があれば周囲へ伝える。設備もダンジョンも、一人だけでは作れませんもの。それから・・・」


ミレイアは少し考える。


「自分より詳しい方の意見を素直に聞くことですわね」


ライムは思わず笑った。


「それは俺もそう思うよ」


ゴブリン商会へ工事を頼んだ時ライムは余計な口出しをしなかった。専門家には専門家のやり方がある。


「仕事で意見が対立した場合は?」


「まずは相手のお話を最後まで聞きますわ。それでも意見が合わなければ、目的を確認します。目的が同じなら、方法について妥協点を探しますの」


「目的自体が違う場合は?」


「責任者の判断に従います。ただし…」


ミレイアは少し表情を引き締めた。


「誰かの命に関わる危険がある場合は、たとえ責任者の命令でも反対いたしますわ」


ライムは書類を見る手を止めた。


「命令に逆らうのか?」


「はい」


ミレイアは迷わなかった。


「設備は作り直せます。お金も・・・時間をかければ取り戻せます。ですが、命は戻りませんもの」


「……そうか」


その考え方も嫌いではない。


むしろ、血の気の多い魔族の研究者よりも好ましかった。


「志望動機を聞かせてもらえるか?」


「はい」


ミレイアの表情が僅かに強張る。


「魔ロウワークで、こちらの求魔人票を拝見いたしました」


「種族や能力を問わず、特性に合った仕事を一緒に探すと書かれていましたわ」


ミレイアは机の端に座るぷる吉を見る。


「・・・その言葉が、とても素敵だと思いましたの」


ぷるっ。


ぷる吉が嬉しそうに揺れた。


「また、新設ダンジョンであれば」


ミレイアは続ける。


「魔大学で学んだ知識を、最初から設備作りに活かせるのではないかと考えましたわ。完成されたダンジョンの設備をただ保守するだけではなく・・・何もない場所からダンジョンを支えるような設備作り上げてみたいのですわ」


ライムはエリシアを見る。


エリシアも大きく頷いている。・・・分かっているのかは怪しいが。


少なくとも好印象なのは間違いない。


ぷる吉も満足そうだった。


ぷる。


紙に一言が浮かぶ。


【いいと思う】


ライムも同じ意見だった。


成績優秀で専門知識もあり受け答えも丁寧・・・問題が起きた時の対応も悪くない。他人の話を聞けて命も軽視しない上に人柄も良さそうだ。


新人としてはほとんど文句のつけようがなかった。


「最後に」


ライムは聞く。


「将来、どんな仕事をしたい?」


ミレイアは少し考えた。


「誰かの役に立てる仕事がしたいですわ・・・設備を作ることも好きです。壊れたものを直すことも好きです。ですが…」


一度言葉を切る。


「一番は、私がいてよかったと思っていただける仕事をしたいのですわ」


「素晴らしいです!」


エリシアが勢いよく頷いた。


「完璧ですね!」


「まだ面接中だぞ」


エリシアはすっかりミレイアのことが気に入ったらしい。


ライムも口では取り繕うが採用でいいと思い始めていた。


するとエリシアが書類を見ながら首を傾げた。


「でもミレイアさんは、魔大学を既に卒業されているんですね!」


「は、はい」


「ここまで完璧なら、在学中に内定が取れそうなものですが……」


エリシアは悪意なく尋ねる。


「何か事情があったのですか?」


「……」


その瞬間。


ミレイアの表情が変わった。


先ほどまで真っ直ぐ伸びていた背中が僅かに丸くなる。


膝の上に置かれていた手がぎゅっと握られた。


「ミレイア?」


ライムが声をかける。


「え、えっと……」


ミレイアの声が小さくなった。


「実は私……」


視線を下げる。


「ユニークスキルを持っていまして……」


「ユニークスキル?」


ライムが目を見開く。


ユニークスキルとは生まれ持った者にしか使えない極めて希少な能力だ。


ライムのスライムマスターも大まかに分けるとその一つだった。


「なんていうスキルなんだ?」


「…物理無効……ですわ」


「凄いじゃないか!」


ライムは思わず身を乗り出す。


「物理攻撃が一切効かないってことか!?」


剣、槍、斧、弓、拳、魔力を介さない爆発であればそれも無効化できるのだろう。


それらが全て効かないという力はダンジョンの防衛役としてこれ以上ないほど強力な能力だ。


「無敵ですね!」


エリシアも目を輝かせる。


「侵入者を正面から押し潰せます!」


ぷるっ!


ぷる吉も驚いたように跳ねた。


だがミレイアは喜ぶことはなくむしろさらに小さくなる。


「じ、実は……私の物理攻撃も……無効化されるんですの」


「……え?」


ライムが固まる。


「え?」


エリシアも固まる。


ぷる?


ぷる吉が傾いた。


三人の声と動きが綺麗に揃う。


「つ、つまり」


ミレイアは消え入りそうな声で説明する。


「確かに侵入者から私への物理攻撃は、すべてゼロになりますわ・・・ですが・・・」


握った両手が震える。


「私から侵入者への物理攻撃も……すべてゼロになりますの」


「殴っても?」


「ゼロですわ」


「蹴っても?」


「ゼロですわ」


「その大きな腕で叩いても?」


エリシアがミレイアの頭の上で左右に浮かぶ巨大な腕を指差す。


「ゼロですわ……」


「武器は?」


ライムが尋ねる。


「私が持った瞬間に、物理攻撃として無効化されますの」


「弓は?」


「矢に力が伝わりませんわ」


「投石は?」


「石が当たっても、まったく痛くないそうですの」


「そうか……」


ライムは腕を組む。


物理攻撃を完全に無効化する。


だが自分の物理攻撃も完全に無効化される。ユニークスキルの中でも特に極端な能力だった。


「でも、魔法なら」


エリシアが言う。


その言葉にミレイアの肩がびくりと震えた。


「私はゴーレムですわ」


「……あ」


「ゴーレム種は、原則として魔法を扱えません。私も一切使えませんの」


部屋が静まり返った。


”攻撃力ゼロ”文字どおり一切の攻撃手段を持たない。


どれほど頑丈でも敵を倒せなければ普通のダンジョンでは戦力として扱われない。


「魔工学の知識はあるんだろ?」


ライムが聞く。


「はい」


「設備管理ならできるんだよな?」


「できますわ」


「なら、それで応募すれば」


ミレイアは弱々しく笑った。


「設備管理。魔導技師。罠の整備。建築補助・・・そしていろいろなダンジョンを受けましたわ。ですが」


声が震える。


「どこも、最後には戦闘能力を求めましたの」


ダンジョンはあくまで戦闘をすることに特化した軍事施設だ。施設維持のために技術系の在籍も多くあるが最低限の戦闘能力は求められる。侵入者が来れば職種に関係なく戦闘へ駆り出される場所も多い。


故に天才的な技術者ではるが戦闘は一切できない者とある程度施設の維持が出来て戦闘もこなせるものがいれば、ほぼすべてのダンジョンが後者を選ぶのだろう。


攻撃力が完全にゼロ。


その事実だけでミレイアは落とされ続けてきた。


「魔大学を卒業する前から就職活動を始めました。でも、全部駄目でしたわ・・・書類で落とされたところもあります。面接で笑われたところもあります。あなたを置く場所はないと、はっきり言われたこともありますわ」


先ほどまでの美しい所作に落ち着いた受け答えと自信に満ちて見えた姿・・・そのすべてが崩れていく。


「こ、こんな私なんかを」


ミレイアは俯いた。


「雇ってくださる場所なんてなくて……」


「ミレイア」


「でも、私が働かないと……」


声が詰まる。


「パパやママが……」


「家族がいるのか?」


ライムが静かに尋ねる。


「はい……」


「実家には両親と、幼い弟と妹がおりますの。魔大学の学費で、家には借金が残っています。私が働いて返すと約束しましたわ」


ミレイアの目に涙が浮かぶ。


「それなのに…どこにも雇っていただけなくて……私には何の価値もないんですわ」


ぽたり。


涙が膝へ落ちた。


「申し訳ありません。せっかくお時間をいただいたのに……。こんな役立たずが来てしまって……」


ミレイアは立ち上がろうとする。


「失礼いたしますわ」


「お待ちください」


エリシアが声をかける。


だがミレイアは顔を上げない。


「採用されないことには慣れておりますの・・・ですから、お気になさらず――」


「採用!」


ライムが立ち上がった。


「……え?」


ミレイアの動きが止まる。


涙の浮かんだ瞳でライムを見上げた。


「今……なんと?」


「採用だ」


ライムはミレイアへ歩み寄る。


そしてその肩へ手を置いた。


父の岩の手とも。母の金属の手とも違う。


不思議な柔らかさがあった。


「攻撃力がゼロなんだろ?」


「は、はい……」


「それがどうした?」


「……え?」


ミレイアが瞬きをする。


「俺達も黙っててごめんな」


ライムは頭を掻いた。


「実はここ・・・まだスライムしかいないダンジョンなんだ」


「スライム……だけ?」


ライムは面接室のドアを開け外を指差す。


足元に広がる魔力水。


そこを何匹ものスライムが跳ねている。


ぷる。

ぷるぷる。


「普通のスライムって、攻撃力が最初からほぼゼロだろ?」


「は、はい」


「その上、石を軽く投げただけで弾け飛ぶくらい弱い」


ぷるぅ……。


机の上のぷる吉が少ししぼんだ。


「悪口じゃないぞ」


ぷる。


「でも」


ライムは続ける。


「そんな攻撃力ゼロのスライム達がついさっき、侵入者を撃退したんだ」


ミレイアが目を見開く。


「スライムが……人間を?」


「ああ」


「殴り倒したわけじゃないぞ!何度倒されても復活して、相手を追い詰め最後は罠へ誘導して倒したんだ。役割を与え、環境を整えた。それだけで、最弱のスライムでも人間に勝てた」


ミレイアは言葉を失っていた。ライムは肩に置いた手へ力を込める。


「攻撃力がないなら。攻撃しなくてもいい戦い方を考えればいい。殴れないなら殴る以外の仕事を探せばいい」


「でも……」


ミレイアの唇が震える。


「本当に…私でもよろしいんですの?」


ライムは真っ直ぐ彼女を見る。


「力を貸してくれ!君にしかできないことがきっとあるから!」


「……」


ミレイアの目から大粒の涙が溢れた。


「わ、私……」


声にならない。


「働いても……」


息を詰まらせる。


「よろしいんですの……?」


「ああ」


ライムは笑った。


「よろしく頼む!ミレイア!」


その瞬間ミレイアは両手で顔を覆い子供のように泣き始めた。

もし少しでも

「続きが気になる!」

「面白かった!」

と思っていただけたら、

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それではまた次回!

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