リザルト
ピコン。
ダンジョンコアから軽い音が鳴った。
ライムは表示された通知を確認する。
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【侵入者討伐報告】
侵入者一名の討伐を確認しました。
獲得魔素を算出します。
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「……ふぅ」
ライムは大きく息を吐いた。
張り詰めていた肩から、ようやく力が抜ける。
その隣では、エリシアも胸を撫で下ろしていた。
「工事が終わった瞬間に、急に人間が入ってきた時は驚きましたね!」
「ああ」
ライムは苦笑した。
ゴブリン商会が第一階層を完成させた直後。
まだ罠の最終確認すら終わっていない状態で、突然人間が侵入してきたのだ。
偶然にしては、あまりにも間が悪かった。
「素人に毛が生えた程度の人間で助かったよ」
「本当ですね!」
エリシアが元気よく頷く。
「もし歴戦の勇者だったら、私が直々に八つ裂きにするところでした!」
「勇者が来たら、俺達が八つ裂きにされると思うぞ」
「では、十六等分にされる前に逃げます!」
「増えてるじゃないか」
エリシアは首を傾げた。
細かいことは気にしていないらしい。
ライムはダンジョンコアへ視線を戻す。
第一階層には、侵入者へ致命傷を与えるような罠はほとんど設置していなかった。
床一面に張られた魔力水。
そこから無限に近い速度で再生するスライム。
そして、最奥の魔法陣。
「正直、最後の部屋以外に侵入者が負傷する要素は一切ないからな」
ライムは顎に手を当てる。
「魔力水に浸かっている即回復スライムのはったりに、冷静さを欠いてくれて助かった」
「はったりなんですか?」
エリシアが驚いた。
「はったりだろ」
「でも、何度倒されても復活できますよ!」
「攻撃力が低すぎるんだ。実際に不意を突いて背中に突進しても侵入者にはケガ一つなかっただろ?」
普通のスライムでは、人間を一撃で倒すことはできない。
何度も体当たりを繰り返せば、いずれは倒せるかもしれない。
だが。
少しでも冷静な侵入者なら、スライムを無視して出口へ戻るだろう。
今回の侵入者は違った。
何度倒しても蘇るスライムに恐怖し、逃げるように奥へ進んだ。
結果として。
最後の部屋に仕掛けられていた魔法罠を踏んだ。
「冷静に来た道を戻られていたら、逃げられてたかもしれないな」
「次は入口を閉じますか?」
「それができたらいいんだけどな…一回一回閉じてたら侵入者の回転効率が悪くなるからなぁ…」
エリシアが拳を握る。
「では、入った人間を確殺して二度と外へ出られない素敵な構造にしましょう!」
「物騒な言い方をするな」
しかし。
方向性そのものは間違っていない。
ダンジョンは、人間を殺すための軍事施設だ。
侵入者を逃がせば、場所や内部構造を外部へ伝えられてしまう。
それを防ぐ仕組みは必要になる。
今回死んだ人間がどんな人物だったのか。
何を目指していたのか。
家族がいたのか。
ライムには分からない。
もちろん。
何も感じないわけではなかった。
まだ若い人間だった。
それくらいは、コアに記録された映像を見れば分かる。
だが。
それだけだ。
ライムは百年以上、厄災の洞穴で働いてきた。
これまでにも、多くの人間がダンジョンへ入り。
多くの人間が死んだ。
一人一人の人生を背負っていては、ダンジョンマスターなど務まらない。
彼は、自らの意思で洞窟へ入った。
そして敗れた。
それだけだった。
「必要な犠牲なんだ。おれが一番を目指すために…」
ライムは小さく呟いた。
「何か言いましたか?」
「いや」
ライムは首を振る。
そして。
通知の続きを表示した。
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侵入者討伐による獲得魔素
10000
現在保有魔素
10900
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「一万!?」
ライムは目を見開いた。
「一万魔素ですか!?」
エリシアも画面へ顔を近づける。
「凄いです!」
「一人でこれだけ入るのか……」
以前確認した相場では。
千魔素で、魔金貨一枚ほどの価値。
つまり今回の討伐だけで、魔金貨十枚相当の魔素を得たことになる。
ダンジョンを作った時点では、二千魔素しかなかった。
水場の設置に百魔素を使い。千魔素を使いダンジョン拡張工事を行った。
残っていたのは九百魔素。
それが。
たった一度の討伐で、一万九百魔素になった。
「少なくとも十倍よりは増えましたよ!?」
「ああ。」
ライムの口元が上がる。
一人の侵入者。
一度の防衛。
それだけで、ここまでダンジョンが潤った。
「人類圏にダンジョンを作ったのは正解だったな」
「流石マスターです!」
エリシアが目を輝かせる。
「これで罠を百個は買えますね!」
「いや、買わないけどな」
その横では。
ぷる吉が嬉しそうに跳ねていた。
ぷる。
ぷるぷる。
ぷるるん。
「ぷる吉も嬉しいか?」
ぷるっ!
力強く返事をする。
ライムは笑いながら、ぷる吉の身体を撫でた。
「お前達もよくやったな」
ぷるるっ!
第一階層で戦ったスライム達は、誰一人欠けていない。
何度も切り飛ばされたが、魔力水によって全員が再生していた。
今回の勝利は。
スライム達の働きがあったからこそだ。
「後で、魔力水を多めに補充してやるからな」
ぷるっ!
「私にもください!」
「お前も飲むのか?」
「スライムですから!」
「そうだったな」
エリシアは見た目こそ人間の少女だが。
その正体はクイーンスライム。
魔力水は、彼女にとっても立派な食事になる。
「それより」
ライムは何かを思い出した。
「そういえば、面接に来てくれる子って今日来る予定だったよな?」
「はい!」
エリシアが頷く。
「確か、夕方に来るみたいです!」
「危なかったな」
「何がですか?」
「面接中に人間が入ってきたら、落ち着いて話もできなかっただろ」
「ああ!」
エリシアが手を叩く。
「では、今のうちに準備ですね!」
「そうだな」
ライムはダンジョンコアを操作する。
魔ロウワークへ出した求魔人票。
最初は応募者が一人も来なかった。
だが。
たった一件ではあるが、応募が入った。
「それにしても」
ライムは改めて求人票を開く。
「ぷる吉は何を書き直したんだ?」
ぷるっ。
ぷる吉が胸を張るように膨らんだ。
変更前。
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新進気鋭のスタートアップダンジョン!
研修終了後、階層主へ大抜擢の可能性あり!
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変更後。
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新設ダンジョン職員募集。
種族・能力・過去の職歴は問いません。
未経験者歓迎。
戦闘能力が低い方も、それぞれの特性に合った仕事を一緒に探します。
衣食住保障。
報酬は完全出来高制ですが、最低保障あり。
応募者の事情を確認したうえで、無理のない業務を提案します。
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「……」
ライムは黙った。
「どうしました?」
「いや」
もう一度読む。
分かりやすい。
それに。
以前の求人票よりも安心して応募できそうな内容だった。
「ぷる吉」
ぷるっ。
「お前、俺より求人票を書くのが上手くないか?」
ぷるるっ!
ぷる吉は誇らしげに跳ねた。
「流石ぷる吉です!」
エリシアが抱き上げる。
「私達の参謀ですね!」
ぷるっ!
百年以上働いてきた自分より普通のスライムであるぷる吉の方が求魔人票を作る才能があるらしい。
「まあ」
ライムは頭を掻く。
「応募者が来るならいいか」
来るのは一人。
名前はミレイア。
種族はスポンジゴーレム。
提出された書類によると、過去にダンジョン勤務経験がある。
戦闘能力などの詳細は、面接時に説明するとのことだった。
「面接室を作るぞ」
「はい!」
「机と椅子を用意してくれ」
「はい!」
「食べるなよ」
「食べませんよ!」
エリシアが頬を膨らませる。
「私を何だと思ってるんですか!」
「備品を食べるスライム」
「今回は食べません!」
「今回は、か」
それから。
三人は面接の準備を始めた。
使っていなかった小部屋を掃除する。
ゴブリン商会が置いていった簡素な机を運び、椅子を三脚並べ、壁に魔導灯を設置する。
「どうですか!」
エリシアが胸を張った。
「立派な面接室です!」
「悪くないな」
「でしょう!」
小さな部屋。
粗末な机。
不揃いの椅子。
立派とは言い難い。
それでも。
新しく作られたばかりのダンジョンとしては十分だった。
「ぷる吉」
ぷるっ。
「お前はここだ」
ライムは机の隅に小さな座布団を置いた。
ぷる吉がその上へ乗る。
「面接官みたいですね!」
「求人票を書いたのはぷる吉だからな」
ぷるっ!
ぷる吉は誇らしげに震える。
「私も面接官ですか?」
「ああ」
「分かりました!」
エリシアは真剣な表情になる。
「少しでもマスターを侮辱したら、その場で食べます!」
「普通に話を聞いてくれ」
「善処します!」
「食べないと約束してくれ」
「……善処します!」
◇◇◇
夕方。
ダンジョンの入口前に。
一体の魔物が立っていた。
人間の女性に近い形。
だが。
その身体は、生身の人間とは大きく異なっている。
淡い色の長いスカート。
整えられた上半身。
頭部からは、緑がかった髪が短く伸びている。
そして。
その左右には。
岩と植物を組み合わせたような巨大な腕が浮かんでいた。
スポンジゴーレム。
ミレイア。
彼女は洞窟の入口を見上げた。
「……ここで、合っていますわよね」
何度も何度も手元の書類を確認する。
「大丈夫ですわ」
そう言いながら。
声が震えていた。
これまで。
何ヶ所のダンジョンを受けただろう。
何度面接を受けただろう。
そして。
何度断られただろう。
その数はもう、覚えきれないほどだった。
「今度こそ……」
ミレイアは両手を胸元で組んだ。
「今度こそ、働けますように」
そして。
ゆっくりと洞窟の中へ入る。
案内された道を進む。
足元には薄く光る水が張られていた。
そこでは、数匹のスライムが楽しそうに跳ねている。
「可愛らしいですわね」
ぷるっ。
一匹が返事をした。
ミレイアに少しだけ笑顔が戻る。
そして。
指定された小部屋の前で止まる。
扉があった。
その向こうから。
誰かの話し声が聞こえる。
「よし」
ミレイアは深呼吸した。
大丈夫。
礼儀正しく。
落ち着いて。
失礼のないように。
コン。
コン。
コン。
三回。
ゆっくりと扉を叩く。
「どうぞ」
男性の声が返ってきた。
ミレイアは扉を開く。
部屋の中には。
一人の魔人。
一人の少女。
そして。
机の上に一匹のスライムがいた。
三者の視線が、彼女へ集まる。
ミレイアは背筋を伸ばした。
スカートの端を軽く持ち上げ。
美しい所作で頭を下げる。
「ミレイアと申しますわ」
静かに顔を上げる。
そして。
穏やかに微笑んだ。
「以後、お見知りおきを――」
もし少しでも
「続きが気になる!」
「面白かった!」
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それではまた次回!




