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第9話 冒険者に

夜。


リリアの部屋で寝ることになったが、二人で一人用のベッドを使うのは不可能なため、自分が床で横になることになった。


さすがに硬い床で寝る俺を哀れに思ったのか、クッションを枕として使うことを許してくれた。


スヤスヤと副交感神経が活発になってきたその時、彼女が話しかけてきた。


「…レン君、アウローラに知り合いとかいる?」


「…いるけど全員連絡が取れる状況じゃねえな」


「そうなんだ。みんな冒険者?」


「ああ、俺だけ遅れて来た」


「ふうん…ま、明日は頑張って試験受けてきてね」


「応援ありがとよ」


「おやすみなさい」


「おやすみ」


窓の開いた隙間から流れてくる風の音を聞きながら、床でぐっすりと、深い眠りについた。



朝だ。


これから朝食を食べた後、一人で冒険者ギルドへ向かう。


「はいこれ、レン君の朝のパン」


「サンキュー」


モグモグとパンを食べながら、ギルドの試験について考える。


(試験って具体的に何をするんだ……どれぐらい戦えるかを測るのか?)


一旦、自分のステータスを確認することにした。


「なあ、トイレってどこにあるんだ?」


「出て右側にまっすぐ進めばあるよ」


教えてもらった通りに進んでトイレの中に入り、そこで数日振りにステータスボードを開く。


すると、驚くことに以前と内容が変わっていた。


『真核権限執行度:2.80%』

【職業】未定

【魔力】8000

【精神力】40000

【スキル】【適合者】


(…魔力増えてるー!!)


魔力量が8000まで増加している。


【魔力】8192


(また増えたぞ…)


ステータスボードを眺めている間に、魔力量がさらに増えた。これまでに見なかった現象だ。適合者が新しい能力を解放したのだろうか。


(…まさか、魔力が回復するようになったのか?)


一般的に、魔力量は自然回復するものだが、レンはそうではなかった。


だが、今それ確認した。


(『真核権限執行度』が0.01%から2.80%に上がったのが関係してるのか…?いや、そもそも真核権限執行度が何で上がったのかが謎すぎるな…)


ともかく、試験を受けられるほどの魔力があることは確認できた。もし回復しなければ、銀貨に加えて、魔法薬もおねだりしていただろう。


自分がそこまで無神経な人間にならずに済んでホッとした。


トイレを出て、部屋へと戻った。 


「長かったね。じゃ、門まで見送ってあげるよ」


リリアにそう言われ、一緒に敷地の門まで歩く。


門につくと、彼女は元気に別れの挨拶をしてくれた。


「またね!ちゃんと冒険者になって、活躍してきてね!お金はいつでも返しにきていいから!」


「ああ、じゃあな!」


彼女と別れ、一人で冒険者ギルドへと向かう。


王都でこれほど素晴らしい人に出会えてとても幸運だった。もし彼女がいなければ、路頭に迷っていたかもしれない。



ギルド前の通りに辿り着き、試験について思考を巡らせる。


(まだ試験までは時間がある。それまでに、何を試されるか情報収集しないとな…)


通りは相変わらず人盛りが絶えない。


(場所は覚えているから大丈夫だ)


身体を紙にして、人と人の間をすり抜けてギルドまで向かう。


ギルドに入ると、まず、単刀直入に受付に聞きに行った。


「前ここで今日行われる試験の申し込みをしたんだが、試験って何をするんだ?」


受付にいたのは昨日とは違う人物だった。


「スキルで何をできるか、どれぐらい戦闘センスがあるか、どれぐらいスキルの威力または継続力があるかを、測ります」


意外にも、あっさりと答えてくれた。どうやら、難しい内容ではなさそうだ。


「わかった。ところで、試験がいい結果だったら、最初から高いランクになるんだよな?級ってどれぐらいあるんだ?」


「ええ、そうです。ランクは、下から順に『アイアン』『ブロンズ』『シルバー』『黄金ゴールド』『ワイバーン』『オリハルコン』『ドラゴン』『帝王竜カイザードラゴン』です」 


「いっぱいあるんだな。ありがとう」


「試験が始まる時間になったら、私にお声がけしてください」


受付から離れた後、開いている席を見つけたため、始まるまでそこで待つことにした。


(…俺はどの級になるんだろ…)



「冒険者試験が間も無く開始します!!受験される方は受付までお越しください!!」


来た。


とうとう、試験が始まる。


自分の魔力量は9000だ。研究所にいた時の20000よりは少ないが、これならかなりの『解放』が出来る。


受付に向かい、試験を受けることを伝えると、スキルが何かを聞かれた上で、ギルドの裏へと案内された。


勿論、光魔導士と答えた。


ギルドの裏には、自分と同じように試験を受ける人が数十人いた。


「冒険者を志望の皆様!今お集まりになっているのは、攻撃スキルを持っている方のみです!最初の試験は、スキルの威力の測定!」


試験官が声を張り上げながら、説明を続ける。


「あの的を見てください!あそこにある的は、ミスリル製で、魔獣を模しています!右から順に、ゴブリン、オーク、ゴーレム、ワイバーンです!皆様には、あれにスキルを撃ってもらいます!」


「近接スキルを使用する方は、近づいてから撃ってください!」


番号札が渡され、順番に呼ばれる。


(俺は…32番か…)


「4番!」


「【火球ファイヤーボール】!」


「5番!」


「【氷槍アイスランス】!」



「31番!」


「【暴食グラトニー】」


これが終われば、次は自分の番だ。


準備を整え、心を落つかせようとした。


が…。


「は?」


的が全て消えてしまっていた。


どうやら、31番のスキル【暴食】の効果により、的が全て食われてしまったようだ。


(え…どうすんのこれ…)


「…ふむ、【暴食】か。久しぶりに見るスキルだな。相変わらず馬鹿げた能力をしている」


試験官がそう呟くのが聞こえた。


「えー、最後の32番さん!的は無くなってしまいましたが、大丈夫です…。おい!防衛魔術を用意しろ!」


しばらくして、目の前の的までに何層かの防衛結界が並んだ。


「32番さん、スキルをその結界の真ん中に放ってください」


「わかった」


紫色の結界を睨む。


どれほどの強度かは知らないが、これが何枚壊せるかで自分の最初の級が決まる。


勿論力は込めるが、ギルドを破壊したらたまらない。


細く、鋭く、速く。貫通力が大事だ。


右腕を結界の方に突き出し、左手で押さえる。


目を閉じ、集中する。


(ふぅー…)


そして、目を開く。


「『解放』!!!」


ビュオオオオオン


バリン!!と大きな音を立てて、重なっていた全ての結界が同時に破壊された。


流石に力を込めすぎたのか、思っていたよりも光線が太い。空にまで到達した光線は、雲に穴をあけ彼方まで伸びていった。


「……かなりの威力ですね…。あなたの実力は十分に知れたので、もう試験受けなくて大丈夫ですよ」


周りの皆が驚き固まっている中、試験官にそう言われてしまった。


「え、受けなくていいのか?」


「はい」


(マジかよ…そんなことあるのか…)

 


試験が終わり、ギルドに戻ると、すでに自分の冒険者ライセンスが発行されていた。


「試験お疲れ様でした。レンさんの級は、『ワイバーン』です。初めてでこれは、とてもすごいことですよ。依頼はあちらの方から受けられます」


ギルドの端の方にある掲示板を手で指しながら、受付が教えてくれた。


ギルドの窓から外を見る。


気づいたらもう夕方になっていたため、冒険者のみが泊まれる宿とやらに向かうことにした。


少し歩くと、その宿らしき場所が見えてきた。


とても大きく、外見だけならいい宿に見える。


場所はギルドからとても近く、おそらく五百歩もせずに着くだろう。


中に入り、受付へ向かう。そして先程手に入れた冒険者証を見せる。


「すまん、これ見てくれ。冒険者なんだが、これからここに泊まりたい。


「1泊銀貨2枚です。朝食付きなら3枚。朝食付きで当宿に泊まり続けるのであれば、本日から30日ごとに銀貨40枚をお支払いください」


とてもリーズナブルだ。どこかの御者にも見習ってほしい。


自分の部屋まで向かい、ベッドの上に飛び乗る。


(明日から、依頼受けるのか…俺も本当に冒険者になれたんだな…)


ここまで長かった。半年以上の苦痛と努力が、ようやく報われたのだ。アウローラに来る途中、危ない目にあったが、それもなんとかなってよかった。


(……そういえばあのオークはなんだったんだ?)


眠る前、急にあの変異オークが頭をよぎった。


(魔獣が突然変異するのって、よくあることなのか…?それに、なんであの魔獣は一直線に俺らの馬車まで向かってきたんだ。木々の中からじゃ馬車は見えないはずなのに…)


あの場面で、仮面の男…シャオヤオがいなければ、全員死んでいたかもしれない。


(やっぱりおかしい。明日ギルドでその事について報告してみよう)


モヤモヤを胸に抱きながら、明日に備えて早めに目を閉じた。



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