笑顔
035
僕の後頭部には、
対戦車ライフルの銃口が突きつけられていた。
薄く覗く月明かりで反射したロッカーの扉でよく見える。
片腕で僕の頭に銃口を当てている。この形状。
ドイツのマウザーM1918だな。
僕と同じく旧世代の銃の使い手か。後輩らしいな。まぁ自分で言ってたっけ。
フフフ。
「全部思い出したみたいですね。先輩」
「ああ。僕の血に濡れた地獄の四年間を思い出したよ。僕は―」
「そう。『先代死神』です♡やっと思い出してくれてよかったです。
ではパスワードと指紋認識を」
「パスワードは5648。フフフ。単純だよな。殺し屋の当て字だぜ」
「それがわからなくて困っていたものですよ。私が『死神』の名を語れないのも、
『死神』正統継承者の証。黄金銃を手にしてないからなのです」
「ハッキングはできないのかい?まぁ強力なプロテクトをかけていたから、
無駄に終わるだろうけどね」
僕は自分のロッカーにパスワードを打ち込む。
5 6 4 8。
当時の『死神』だった、僕にとって笑える唯一の心のゆとりで番号。
5648を入力し、僕は左手をセンサーに翳した。
「ロックを解除します」
機械音声と共に僕のロッカーが開かれた。
「さようなら『先代死神』さん。これからは私が正真正銘の『死神』です♡」
檜山は対戦車ライフルの引き金を引いた。
ドガン!!!!!!!!!!!!
「・・・・・・あれ?」
「僕はこっちだよ檜山くん。ライフルの反動で僕を見失ったな。
今僕がこの銃を撃てば君は三回は、死んでたぜ?」
僕は教卓の上に立って腕を組んで待っていた。
ロッカーから教卓までは八メートルはある。
教室の机を足場に僕は『死神』の授業で習った、
移動術で檜山から離れたのだ。
「流石です。記憶と共に身体能力も戻ったんですね。そしてその黄金銃も。
いつの間に手にしたか見えなかったです」
僕の右手には自分のロッカーから取り出した黄金銃が握られている。
「僕が『死神』として四年間鍛えられた力と技だ」
僕は黄金銃を檜山に向ける。
「『死神』の名は欲しければあげるよ。僕はその名を捨てたんだ」
「ですが『死神』は一人で十分です。先輩はまだ『死神』ですから」
「・・・・・・だよな」
「殺し合いましょう。先輩『死神』の名を懸けて」
「ああ。一対一の決闘だ」
僕の言葉を皮切りに、
校内の電気は全て消された―ようだ。
檜山のやつ準備をしていたのだろうか。
そこまで襲用に僕を殺すことを考えているとは、
やはり一流の暗殺者の教育を受けているだけはあるな。
まぁこの暗闇。
決闘の舞台に相応しい。
『死神』に戻った、
僕の「目」には暗闇など関係ないのだけれども。
ハッキリと教室の中も明るく見えている。
本当に同時だった。
僕と檜山は上下のドアから飛び出し、廊下に出た。
そして先に僕が走り出す。
それを追う形に檜山はなった。
「パスワードを聞いたあとに、僕の左手を切り取ってスキャンすれば済む話だったろ。
君は僕を殺すチャンスを何度も逃しているんだぜ」
「あ!?それもそうですね。流石です先輩」
「・・・・・・一手も二手も甘いね」
「以後気を付けます♡ご指導ありがとうございます」
走りながらの雑談。
現役の処刑人と学生の殺し屋とのたわいのない話。
人はこのやり取りを異常と呼ぶのだろうけど。
ターゲットの居場所・状況を会話で読みとるのも殺しの上等テクニックの一つだ。
「じゃあ。私の為に死んで下さいよ。先輩。あなたはもう用済みですから」
その台詞と共に檜山は、
僕に向かってライフルを脇に構え発射してきた。
ドガン!!!!!!!!!ドガン!!!!!!!!
檜山は僕に向けて対戦車ライフルを放ってくる。
だが走りながらの射撃だ。
僕の胴体を射抜くことはできていない。
弾丸は僕の脇を通り抜ける。
でも一発でも貰えば僕の死は確定するだろう。
僕の胴体などバラバラに、床に落ちた豆腐のように破壊されるだろう。
「檜山くん。走りながらじゃ僕は射抜けないぞ!!」
「ブラフですよね。その言葉」
ドガン!!!!!!!!ドガン!!!!!!!!!
檜山はそれでも対戦車ライフルを連射し続けた。
かなりの精度だ。
僕の頭ギリギリを弾丸がかすめる。
狙いが定まって落ち着いてきた証拠だろう。
流石僕の・・・・・・いや『死神』候補生だなと僕は感慨を受けた。
しばらく躱しながら走り続けると、廊下が曲がり角につきあたった。
ずっと探していた、待っていた目的地だ。
僕は廊下の曲がり角を全速力で先に曲がる。
そして廊下の角に向かって黄金銃を向けて発射した。
バン!!!チュイン!!!
「・・・・・・うぐっ。ち、跳弾ですか!?」
そう言って檜山は床に倒れた。
僕の位置からは見えないがドサッという人が倒れる音と、
対戦車ライフルが手元から落ちた音がしたので、
間違いはない。
百パーセント檜山の腹に僕の放った弾丸はヒットしたのだ。
「鋭射角四十五度からの跳弾。ターゲットの目からは絶対見切れない撃ち方だ。
ライフルではできない。拳銃での高等暗殺テクだ。習ってないのかい?」
僕は廊下の角から歩いて出て檜山に殺しのテクを教授した。
「流石ですよ。本当に・・・・・・流石です油断していました」
血を吐き、腹部から血を流し、廊下の床に伏す檜山に僕は近づいて黄金銃を向ける。
あくまでも一人間の檜山だ。致命傷である。
せめてもの情け。楽にあの世に逝けるように。
僕は黄金銃の引き金に指をかける。
「さようなら。檜山後輩」
「はい。先に地獄で待っています。須藤先輩♡」
バン!!!バン!!!バン!!!
笑顔で檜山と別れた。
ここまで送ってくれて本当にありがとう。
僕を『死神』に戻してくれて本当にありがとう・・・・・・・




