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筋トレを始めてから一週間が経ち、改めて教会へと訪れていた。
筋トレの成果らしい成果は今の所感じられないが桜木は何かを察したかのように俺の体を見て頷いている。
「えっと、なんかあるのか?」
「あ? お前、何も感じないのか?」
「え、いや……なんも」
「肉体は魂に引っ張られる。悪魔の魂が混じった結果、お前の体は悪魔の物に近い物になっている」
「え……!? それって大丈夫なのか!?」
「ああ、問題ない。ただ、気を付けろよ。悪魔の体は人間の物より遥かに身体能力が高い。油断してるとバレるぞ」
「なっ!? それはヤバいんじゃないの?」
「遅かれ早かれ体はそうなる。なら早い方が良いだろ」
「そういうもんなのか……?」
「そういうもんだ。次、魔法の練習するぞ」
教会の外へと出た桜木を追い、俺も外に出る。教会の周りは広い庭のように平坦な土地が広がっている。その中心で桜木が言う。
「ここは建設中の教会が地震のせいで中止になった場所だ。だから基本的には誰も来ないはずだ」
「ああ、うん。知ってるけど……」
「魔法の練習にはうってつけって事だ。目を閉じて手を前に出せ」
桜木言う通りに従って体を動かす。
「いいか、イメージしろ。今、お前の体は拳銃だ。前に突き出した手は銃口。そこから打ち出す魔法は銃弾だ。ゆっくりでいい。お前の中の力のイメージができたら打ち出してみろ」
力のイメージ……。一番最初に思い付くのはやはり爆発だ。あの聖騎士協会の男を一撃でぶっ飛ばした爆発。それをイメージして右手に力を込める!
「あれ……?」
何も出ていない。手応えはあった気がするんだけど……。
桜木が近付いてきて俺に触れる。だが、爆発が起こらない。
「なるほど、ね」
「なんか分かったのか?」
「お前の体、変だ」
「はい?」
「魔法は基本的に四肢から放たれる。つまり、手や足から体の中心に向かって魔力が通る神経が通っているはずなんだ。だが、お前にはそれがない」
「ん? うん、なるほど……?」
「だとしたら何故お前は魔法が使えたのか……」
「桜木が教えてくれたんだろ。力が溢れてるって」
「ああ。だが、お前の体には口がないんだ」
「口?」
「言わば蓋の着いたグラスとでも言おうか。本来ならば溢れるはずがない物だった。なのにお前は魔力を纏い魔法を使った。有り得ない」
「えっと……? 俺ってもしかして凄い?」
「お前、本当に人間か? 悪魔か天使。いや、その以外の生物の可能性も……」
「いやいや! 人間だよ。父さんも、見たことないけど母さんも人間だって聞いてる。そもそも一週間前まで悪魔の存在も知らなかったんだから……」
「それもそうだな。なら、悪魔との同化による弊害か……」
ブツブツと何やら考え込んでしまった桜木を置いておいて改めて魔法の練習を試みる。
目を閉じて、体は拳銃。そして力を打ち出す! やはり何も出ない。
そもそも、初めて魔法を使った時みたいな感覚はないんだよなぁ……。体が熱くなるって感じの。
「うーん……。何回かやってみれば違うのか?」
「今のやり方は悪魔がガキの時に習うやり方だ。魔法に適性がある奴は少なからず魔法が発現するって聞いた。このまま続けたって意味は薄いだろうな」
「じゃあ、魔法は諦めるってこと?」
「いや、優先順位の話ってだけだ。他のことをやりながら少しずつ魔法も試す。お前みたいなのは初めて見たんだ。色々やってやるさ」
「うん。じゃあ次は何すんだ?」
「次は組手だ。実際に戦いながら感覚を悪魔の身体能力に慣してやるんだ」
「それは……必要か」
以前に聖騎士協会の男に襲われた事を思い出す。魔法の存在を隠せない以上次もあんな事が起こらないとは限らない。強くなるに越したことはないはずだ。
「理解が早くて助かるな。んじゃ、早速やるか」
構える桜木を真似るようにして拳を握る。睨み合いが永遠にも感じる程長く続いた後、桜木が迫ってきた。
繰り出されるパンチを躱しながら隙を伺う。凄い……。一週間前は殆ど何も出来なかったのに、今は相手の動きにちゃんと付いていけてる。
僅かに大きく振りかぶった攻撃の隙を突いて拳を突き出す。それは桜木の胸に当たり小さな体を吹っ飛ばした。
地面を転がりながらも体勢を立て直した桜木が手で招くように挑発をしてくる。
思いっきり地面を蹴って距離を詰める。瞬きすら許さない程の連続攻撃。桜木はそれを全て捌きカウンター気味に蹴りを俺の脇腹目掛けて振り抜いた。
まるで金属バットで殴られたかのような衝撃が体を襲う。上手く息が出来ず蹲る俺に桜木が言う。
「高い能力に身を任せすぎだ。動きが大雑把だし、私の動きを見ていない。相手をちゃんと見ろ」
「……うす」
短く小さく答える。その後も何度も桜木に転がされて一日が終わった。
翌日、俺は日向を連れて博物館へと足を運んでいた。まあ、日向は勝手に付いてきただけではあるのだが……。
早速中へと入り展示物を眺めている俺に日向が問うてくる。
「なんで急に博物館なんて。こういうの興味あったけ?」
「んー、まあな」
勿論目的はレガリアって石を探すこと。日向にはそんな事は言えないので適当に誤魔化した。
次々と展示物を見ていくがそれらしき物はない。というか、よく考えたらどんな物なのかも知らないんだった。
「ね、見て。恐竜の化石だって。大きいね」
「あ、うん。そうだな」
袖を引っ張り目の前の展示物を指さす日向を横目に携帯を開く。アカウント名『不明』にメッセージを送る。
「あのさ、レガリアってどういう物なの? 見た目とか」
「さあ? 私も見た事はないからな。ただ、一目見れば分かると聞いた」
一目見れば、ねぇ。悪魔とかそういうものの特有の感覚で分かるのか……?
色々考え込んでいると急に手が引っ張られ思考が止まる。
「あっちは期間限定なんだって、行こ。ね?」
「分かった! 分かったから……。手離してくれ」
「嫌だ。ほら、見て」
正直俺にはよく分からない物だが、それを見て目を輝かせている日向を見ていると不思議と少しだけ気持ちが理解出来るような気がする。
日向が見ている展示物へと視線を移す。それは人間の骨格の模型のように見える。説明文には「悪魔の骨」と書いてあった。
「期間限定の展示物ってこういうのか」
「うん。でもね、本当にいたかもしれないんだって。ほら、見て」
次の展示物には天使からの贈り物というタイトルが付いている紅い宝石が展示されている。
一見普通の宝石に見えるが、なんだろう……。胸の奥が落ち着かないような感覚がする。
「春!」
突然日向に名前を呼ばれ体が跳ねた。無意識に宝石に手を伸ばしていたらしい。日向が俺の手を押さえつけながら見てきている。
「大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫。ごめん」
「びっくりしたよ、急に触ろうとするんだもん。怒られちゃうところだった……」
日向が小さく息を吐いた。周りを見ると警備員のような人が俺達をじっと見ている。日向が止めてくれなかったらと思うと……。
「もう出ようか」
「え!? うん! あのね、由梨が美味しいクレープのお店があるって言ってたの。あ、由梨っていうのは……」
「中島さんでしょ。さすがにクラスメイトの名前は覚えてるよ」
「そっか。安心安心。ね、行こ」
日向に手を引かれ歩き出す。視界の端に白いコートを羽織った男が見えた。確かに目が合ったそいつは口角を上げて笑っていた気がした。




