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「おじゃましまーす……」
何とか教会へと辿り着いた俺は恐る恐る扉を開けた。中は埃が舞っていてお世辞にも綺麗とは言い難い。その中で一人。女の人が祈るように膝をついている。
さっきまで戦っていた……というか一方的にボコってきた男の人と同じように白いコートのような物に身を包んでいる女は俺に気付いたようで目を閉じたまま口を開いた。
「そう警戒しなくていい。私は敵じゃない」
「でも、その格好。聖騎士協会ってやつだろ」
「ああ。だが私はお前の味方だ」
「そんな事言われても……」
信じられない。と言おうとしたが、先に痺れを切らした女が立ち上がり俺に近づいてきた。
「ウザい!」
「──痛っ!?」
頭を思いっきりぶん殴られて身を屈めて女を睨む。女が振り返って再度俺との距離を離す。
「私の名前は桜木天音。お前よか少しだけ世界の事情に詳しい美少女だ」
身を翻し俺の方へと改めて振り向く桜木と名乗った女が自身の胸に手を当て誇らしげに名乗った。
「世界の事情……?」
「ああ、そうだ。昨晩お前と出会った男は何者なのか。そして、その男と出会ってお前は何をしたのか。結果お前の置かれている状況。私は全て知っている。勿論他の事もね」
「なら、教えてくれ。俺はなんで殺されなきゃいけないんだ。それに手が爆発したんだ。その事も」
「分かってる。順番だ。まず、昨日お前が見た男は人間じゃない。悪魔だ」
「……はい?」
悪魔って、あの悪魔? そんな馬鹿な、と言いたい所だが、桜木の顔はいたって真面目なものだ。それに、余計なことを聞いてまた叩かれたくない。
「お前の言いたい事は分かるぜ。悪魔なんてものが本当にいるのかってな。その答えは、いる。だ。さっきお前も言ってただろ、手が爆発したって。それはお前の中にある悪魔の力が出てきたんだ」
目線を落とし手のひらを動かす。当然だが、俺にはあんな不思議な力はない。悪魔ってのが本当にいて、ああいう力があるってのも信じられないわけじゃない。
「お前達が行ったのは契約とは名ばかりの魂の同化。つまり、融合だ」
桜木が何処からか透明のコップを取り出し床へと置いた。そして、そこに水を注ぐ。
「いいか。人間は本来、グラスって肉体の中に魂という名の水が入ってる。ここまでは理解できるか?」
桜木の問いに小さく頷く。それを確認した桜木が今度はオレンジ色の液体をコップへと注いだ。水は色の着いた液体と混ざり合い溢れ床を濡らす。
「対してお前はこうだ。本来の形に悪魔の魂が注がれ混ざり、そしてグラスから溢れている。そして──」
再び近づいてきた桜木が俺の手に触れる。直後、小さい爆発が起こった。
「うおっ!?」
「お前が驚くな。お前の力だろ。──そして、特定の物体に触れると悪魔の魂が反応し、魔法が反射的に発現する」
「なるほど……。でも、さっきより爆発が弱いぞ?」
「魔法は魂の揺らぎ。つまり、感情の大きさに比例して強くなる。さっきの戦いじゃ死にたくねぇって想いが魔法を強くしたんだ」
「へぇ……なるほど」
「んで、ここからが本題だ。悪魔の目的とお前がこれからやるべき事。まずは悪魔の目的だが、レガリアと呼ばれる石を探すことだ」
「レガリア……?」
「ああ。悪魔や天使の世界に伝わる御伽噺に出てくる手にした者の願いを叶えるという不思議な石の事だ」
「それが、この町にあるって?」
「ああ。詳しい場所は分からないが、最後に使用された痕跡がこの町にあるって話だ」
「ふーん……。なら、それを探す事が俺のやるべき事ってやつか」
「違う」
「 え?」
「お前のやるべき事は……特訓だ!」
少し無言の時間が流れた。特訓って、あの特訓だよな。強くなる……的な。理解が出来ず思ったままの言葉が口から零れる。
「なんで?」
「さっきも言ったが、お前に流れる悪魔の力は肉体から溢れた魂の力が勝手に引き起こしているものだ。つまり、町中で意図せず触れた物が爆発する可能性がある」
「確かに……。それはまずい気がする」
「それに、その力は悪魔由来の物だ。この世界には悪魔を憎む奴なんてごまんといる。それがバレた途端お前は殺される可能性だってあるんだ。隠せるなら隠した方がいいだろ?」
「それはそっすね……。じゃあ、最初は何をすればいいんだ?」
「まずは……体を作れ。魔法の使い方はそれからだ」
「はい? いや、でも……さっきの奴とか、また襲ってきたら」
「それは大丈夫だ。あいつは私がけしかけた奴だから」
「……どういうこと?」
「まずは実感してもらおうと思ってな、悪魔の力ってやつ。あることないこと吹き込んで襲わせたんだ。全部嘘だって言えば暫くは信じるだろ。その間に十分な体を作れ」
「お前……。俺、どんだけ怖かったか。マジで死ぬかと思ったんだぞ! 」
「はいはい。ほら、時間が勿体ないぞ。早く帰れ」
これ以上話すことはないと言いたげに手をシッシッと振る桜木。大分言いたいことはあるが、一度家へと戻ることにした。
家へと戻ると日向が玄関で腕を組み待ち構えていた。どう見てもお出迎えってテンションじゃないな……。
何事もなかったかのように話しかけてみる。
「えっと、ただいま」
「それだけ?」
「……えっと、ごめん。ちょっと野暮用が……」
「へぇ、学校をサボらなきゃいけない野暮用って何かな?」
「ごめんなさい。もうしないので許してください」
「それ、朝も言ってたよね」
「う、うん……。一応違う事だから……」
「そう。じゃあ、気を付けてね。次から」
怖い……。日向の後ろを付いていくように居間へと入る。既にご飯の準備は済ませてあり、テーブルの上には料理が並んでいる。
「着替えたらご飯にしよ」
「はい……」
日向の言葉に従い一度自室へと戻る。何かに触れる度に爆発するんじゃないかと思って緊張するが、何も起こらない。そういえば桜木も条件がある、みたいな事を言っていた気がする。なら、基本的には何も起こらないのか……?
「お待たせ」
「うん」
着替えを済ませた俺は居間へと戻り、既に席へ着いている日向と向かい合うように座った。
互いに両手を合わせ一礼した後、ご飯を口へと運ぶ。死にかけた後だからだろうか、いつもより美味しい気がする。
黙々と箸を進める日向に話しかける。
「あ、あのさ……俺、筋トレしようかと思ってて」
「急にどうしたの? 今まで誘っても嫌だって言ってたのに」
「ちょっと色々あってさ。それで、ちょっと手伝って欲しいなぁって」
日向は少し悩むように視線を動かした後、短く答える。
「いいよ」
「ほんとに!? 一人だと続かなそうだからさ、助かるよ。じゃあ、ご飯食べた後、いい?」
「うん。ちゃんと片付けした後だよ」
「うんうん、分かってる」
その後、洗い物を済ませた俺は日向の指導の元、筋トレを始めるのだった。




