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「──る。春! 大丈夫!?」
継続的に体を揺らす衝撃と大きな声で目が覚めた。見上げると日向が心配そうに俺を見ている。
「あ、日向……」
「あ、じゃない! こんな所で何してたの、心配したんだから……」
「ごめん。なんか色々あって……」
後ろを振り返ると倒れていたはずの男が消えていた。それどころか、流れていたはずの血もない。まるで、昨日見たものが全て幻覚のようだ。
「とにかく話は後で聞くから帰ろ。あと、病院にも行って……」
「いや、病院は大丈夫。ほんとなんもないから」
「でも……でも……」
何か言いたそうな日向に立ち上がって体を動かしてみせる。
「な? なんともない。学校も行かなきゃだし」
「……うん、分かった。じゃあ、帰ろ」
歩き出した日向を追うように歩を進める。よく見れば日向は寝巻きのままだし、靴も履いていない。空の様子からきっと日が昇ってから時間もそう経っていないみたいだ。
「日向、ごめん」
「うん」
「もう、しないようにするから」
「うん」
その後、家へと戻った俺は日向にめちゃくちゃ怒られた。普段から外に出るなと言ってるでしょ、とか。友達の家に行くなら事前に言え、とか。そもそも何故そんな時間に無理矢理帰ろうとするのか、とか。そりゃもう鬼のように詰められた。そして、その結果、俺たち二人は遅刻した。
「よ、なんか手助け必要か?」
昼休みを迎え、大牙がニヤニヤしながら話しかけてきた。それに対して首を横に振って答える。
「大丈夫、一応説明したから。でもさ、超キレられた」
「ふーん」
「なんだ、その反応」
「いや、如月ってあんまり怒るイメージないなって」
「そうか? 怒ってばっかりだと思うけど。ほら……」
友達と話している日向を指差す。一見楽しそうに談笑しているように見えるが、目は一切笑っていない。
「あれは自分のご飯の時間を邪魔されて怒ってる」
「そんなわけないだろ。如月だぜ?」
「弁当作る時間が無かったからな。コンビニ弁当を買う事になったのが気に入らないんだ。しかもそれを見られている……。日向のプライドはもうガタガタよ」
「お前がそれを言うんだな……」
「まあな。俺はコンビニ弁当でも平気だから。……うま」
突然背中に悪寒のようなものが走る。その原因を探そうと周りを見渡すと……やはり日向が俺を睨みつけていた。
「コンビニ弁当って美味いよな」
大牙に話しかけてみると、感じる視線が強くなった。大牙と話すことじゃない。きっとコンビニ弁当を褒めるのが良くない。
何かに気付いたように大牙が口角を引き攣らせる。
「お前って結構大変なのな」
「まあね。それよりもさ、聞いてくれよ。昨日あの後さ──」
昨日起こった事を大牙に話した。男の人が死にかけていた事。謎の質問とその後にした契約。そして今朝には丸っきり無くなっていたこと。
「──っと事なんだけど、どう?」
「どうって言われてもな……。その目的ってのも分からないんだろ?」
「うん、まあ……」
「うーん……。お化け、とか?」
「何言ってんだ、お前……」
「でもそういうのしかないだろ。取り憑かれちまったんじゃねぇの」
くだらない話に変わりそうになった所でチャイムが鳴った。
ゴミを捨て改めて席へと着くとポケットの中の携帯が震えメッセージの到着を告げる。
「お前のやるべき事を知っている。外れの教会に来い」
アカウントの名前は『不明』
明らかに怪しい。だが、文面が気になる。お前のやるべき事……。恐らく昨日の事に関係してる……気がする。
教室に入ってきた先生に手を挙げて言う。
「お腹痛いんで帰ります!」
「はい!?」
素っ頓狂な声を上げる先生を無視して教室を出る。日向の人を殺しそうなくらい鋭い視線が気になるが無視だ無視。
教会へと足を運ぶ途中、白いコートのような服を着た男の人に声を掛けられる。
「募金、お願いしまーす!」
「あ、はい……」
「ありがとうございまーす!!」
よく見れば道の色んな所に同じような格好をした人達がいる。
彼らは聖騎士協会と呼ばれる人達だ。十年前に起こった地震を機に発足されたボランティア団体で、今のように募金活動とか細かい事だと町のゴミ掃除等、色んな事に取り組んでくれている……らしい。正直、俺にはよくわからん。
「ところで、お兄さん学生でしょ? こんな所で何やってんの」
「……え?」
募金箱を持ったまま男の人が話を続ける。
「もしかしてサボり? 良くないなぁ。ちゃんと行った方がいいよ。俺もさ昔はよくサボってたんだけど……」
話が長い。そして目が怖い。俺をじっと見て話さない。まるで獲物を狩る為に機会を伺っているかのようだ。
「あの……俺、なんかしました?」
「いや、全く。ただ、サボりは良くないな、って僕は思うんだよね」
募金箱が体に当てられた。あぁ……そういう事……。
財布から千円を出し、箱に入れる。だが、箱は俺の体を離れない。
もう千円。更に千円。それを続けて合計五千円取られた所でようやく男の人の顔が晴れた。
「ありがとうございまーす。ご協力感謝します」
ほぼカツアゲだろ、これ……。さっさと離れようと足早に歩きだす。だが、男は横から離れない。
「ね、君。昨日血だらけの男の人と会わなかった?」
俺の足が止まった。なんでそれを知っている。違う、そうじゃない。こいつはあの人を、あの状況を知っている。その上でそれを放置してた。もしくは……。
「ま、知ってたけどね。君が契約をしたの」
「契約……。なんでそれを」
「俺だから、アレを殺したの。んで、アレを助けた君も殺す」
いつの間にか周りに人がいなくなっていた。突然脇腹に走る衝撃に体が吹っ飛ぶ。
蹴られたのか……? 転がる体を起き上がらせて男を睨む。
「ゲホッ──ゴホッ! いきなり何すんだ」
「さっき言ったろ。殺すって、そういう仕事なんだよ。俺達」
募金箱を地面に置き、鼻歌混じりに近付いてくる。このままじゃ俺も殺される。でも俺喧嘩とかしたことないぞ。
逃げようと地面を蹴る。だが、すぐに追いつかれてしまい拳が顔面へと突き刺さる。
「何? 君は鬼ごっこが好きなのかな。いいよ、付き合ってあげる。ほら、次は何処に逃げるのかな」
あいつの方が圧倒的に速い。逃げて助けを呼ぶのは不可能だ。でも、何とかしてあいつを倒すのも難しい。
死ぬ。死ぬ。死ぬ。このままじゃ……死ぬ。
胸を打つ鼓動が早くなり体温が熱くなるのを感じる。一か八かやってやるしかない。
突っ込んでくる男。それに合わせて拳を握る。人を殴ったことなんてないヘナチョコパンチだが相手は油断している。
踏み込んで放ったパンチは相手の腹へと深く刺さる。そして、巨大な音を立てて爆発した。
「……え?」
吹き飛んだ相手は地面を転がり動かない。俺の手は若干焦げたように黒ずんでいるが痛みはなかった。
「あの、大丈夫ですか……?」
遠目から声を掛けてみるが反応はない。死んでないよな……?
どうするか迷っていると携帯が鳴る。
「お前の体の事を知っている」
また『不明』からだ。
もし仮に生きていて、また襲われたら溜まったもんじゃない。倒れている男を放っておいて教会を目指すことにした。




