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俺、桂木春は高校二年生だ。
勉強も並。運動も波。顔もまあ……並だ。そんな何処にでもいるような普通の高校生の俺にも一つだけ、普通じゃないことがある。
それは目の前で朝食のご飯を頬張っている白く長い髪の女の子。如月日向だ。
「どうしたの? 美味しくなかった?」
「ううん、そうじゃなくて。頬っぺたに米付いてる」
「え!? 嘘……。あ、ほんとだ!」
日向が慌てて頬に付いた米粒を取り口へと放り込む。
こいつは十年来の友人で、所謂幼馴染みってやつだ。本来は隣の家に住んでいるんだが、色々あって俺の家に来て身の回りの世話をしてくれている。
「ご馳走様でした。じゃあ、先行くね。洗い物だけお願い」
「ん、いつもありがと。でも、別に毎日来てくれなくても良いんだからな。俺だって料理くらい出来るし」
「春の言う家事ってお湯入れるだけのやつでしょ。それに、四季パパと約束したの。春をちゃんと大人の人にするって」
「はいはい、そうですか」
「うんうん、そうですよー。春も遅刻しないようにね。あと、行ってきますも忘れないように」
「はーい、行ってらっしゃい」
部屋を出ていく日向を見送って俺も自分の身支度を整える。最後に部屋の片隅にある仏壇へと手を合わせて目を閉じた。
「んじゃ、俺も行ってきます」
俺の両親は十年前に起こった地震で命を落としている。一度祖父母に引き取られた俺は高校への進学を機にこの町に戻ってきた。暫くは一人で生活を続けていたのだが日向と再会し今に至るってわけだ。
暫く時間が経ち、昼休みになった。周りの人達が弁当を取り出したり、食堂へと向かっていく中、俺は窓の外を見上げていた。
「飯食わねぇの?」
目の前の席に座っているプリンのように金色と黒色の混ざりあった髪色の男子生徒が話しかけてきた。
こいつの名前は雪城大牙。一年の時に出会い、なんだかんだずっと一緒にいる。腐れ縁ってやつだ。
「んー、食べるよ。食べるけどさ……」
視線を周りへと向けるとチラチラとこっちを見ている人達が何人か見える。そして、その奥には日向が俺の反応を伺うようにしていた。
「なーんか食べにくいんだよなぁ……」
「そりゃそうだろ。なんたって、あの如月日向の手作り弁当なんだぜ」
「そんなに気になるかね、これが……」
鞄から弁当箱を取り出すと感じる視線が強くなった。箱を開くと中身は一般的な物と大体同じだと思う。鳥の唐揚げと彩り良く野菜のご飯が敷き詰められている。
「誰が作ったかが大事なんだよ。お前だって分かってんだろ、如月の人気具合」
そう、大牙の言う通り如月日向はよくモテる。
雪のような真っ白い髪。宝石のような瞳。同年代の女子と比べて背は高く手足は細く長い。モデル顔負けのスタイルと顔面に明るい性格に男女問わず惹き付けられてる。そして同時に、半同棲のような生活を送っている俺には羨望の眼差しが向けられていた。
「そんな良いものじゃないけどな。日向も、日向に世話してもらうのも」
「そうなのか?」
「そりゃもう、カップ麺は食べるなだの、洗濯物にはアイロンを必ず掛けろだの、うるさいんだよなぁ」
「ほうほう。それで?」
「それでさ、夜は遊びに行くなって言うんだぜ。小学生かよって感じ。そのくせ自分は出かけていったりするの。おかしいだろ」
「うんうん、それで? まだあるのかな?」
突然横から聞こえてきた声に言葉が止まる。恐る恐る声の方向を見るといつの間にか日向が横に立っていた。
「まだ、何か言いたいことあるのかな?」
「いや、無いです……。いつも感謝してます」
「いいよ。感謝されたくてやってるわけじゃないもん。……そうじゃなくて、今日私家行けないから。自分でご飯作って食べてね。分かってると思うけど──」
日向の長い話が始まった。まあ、要はコンビニの弁当は禁止。カップ麺は勿論禁止。栄養バランスは考えて作れ。ってことだ。
聞いているフリをして適当に相槌を打っている俺を大牙が苦笑いをしながら見ていた。
「まるで親みたいだな」
日向が自分の席へと戻っていったのを確認して大牙が言った。
「実際親みたいなもんでしょ、あそこまでいくと」
「そうだ。今日は一人なんだろ? じゃあ、俺ん家来ないか?」
「大牙の家?」
「おう。新しいゲーム買ったんだ。一緒にやろうぜ。お前も飯考えなくていいし、ウィンウィンってやつだろ?」
「んー、確かに。そう言われればそんな気もする。でも良いのか? そんな急に」
「大丈夫大丈夫。んじゃ、そういう事で。絶対だからな!」
チャイムが鳴り休憩の時間の終わりを告げる。急いで弁当を掻き込み授業の準備を済ませるのだった。
更に時間が流れ夜になった。時計の針はてっぺんを回り日付けも変わった頃、俺は大牙の家を飛び出した。
「おい、ほんとに帰んのか? もう泊まってけよ」
「大丈夫! 楽しかった。ありがと」
「でも、危ねぇよ。如月には俺から説明するから。な?」
「いやほんと大丈夫。じゃ、また明日な」
「あ、おい!」
大牙の制止を振り切って走る。スボンのポケットに入っている携帯が震え続けている。つまり、日向が家に帰ってきているってことだ。そして言うまでもないが門限はとうに過ぎている。
日向にする言い訳を考えながら走っていると何か水のような物を踏み付けた。だが、最近雨が降った覚えがない。足元を見ると血のような赤い液体が水溜まりのように広がっていた。そして、それは点々と路地の裏へと続いている。
血の跡を追うとそこには黒い長髪男の人が倒れていた。腹に穴が空いているのかそこから血が流れているように見える。
「なっ!? あの、大丈夫ですか!?」
駆け寄って声を掛ける。が、反応らしい反応はない。小さく息をしているから生きてはいるみたいだ。
救急車を呼ぼうと携帯を取り出した瞬間、その手を掴まれ動きを止められた。
「いい……」
「良くないだろ! このままじゃ死んじゃうって」
「どの道もう遅い……。それよりもお前、名前はなんていう」
「名前!? そんな事どうだっていいだろ! とりあえず止血するから手離してくれ」
「良いから早く言え。名前は」
「桂木……春。これで満足か!? 早く手を離せ」
「桂木……。そうか。春、お前には叶えたい願いはあるか」
「願い? それも今じゃないといけないのか?」
「……ああ」
「分からない。すぐには思い付かないけど、多分ある」
「それでいい。……契約だ。いつかお前に願いが出来た時、俺がそれを叶えてやる。その代わりお前が俺の目的を果たせ」
「さっきから何言ってんだ? 全然分かんないぞ」
「良いから契約をしろ、早く」
「一つ良いか? それでお前は助けられるのか」
「……ああ。少なくとも今は、な」
「分かった。なら、する。お前の目的でも何でもやってやる」
「ああ、これで契約は成された。あとは頼む」
男の体が光だし俺の体を包む。そして、糸が切れたかのように俺の意識は闇の中へと消えていった




