12.吸血鬼殺人事件、2
目が覚めたらそこは、見慣れた部屋だった。無くなっていたはずの腕と足はくっ付いていて包帯が丁寧に巻かれている。
「おはよ。痛い所ある?」
ベッドの脇に座っていた日向が俺の顔を覗き込んできた。
「ん、大丈夫」
「良かった……。ごめんね、ちょっと焦ってやり過ぎちゃった。治癒魔法掛けたんだけど、ちゃんと治るか心配だったんだ」
「二人は? 水奈と火奈はどうなった!?」
「二人共気絶したふりをしてたみたい。春を治してる間に逃げられちゃった」
「そっか……。良かった……」
「でも、次はちゃんと殺すから」
「日向、あのさ──」
「動かないで。もう一回治癒魔法掛けるから」
日向が俺の言葉を遮って包帯を外していく。その下から現れた一直線の切り傷をなぞるように日向が手をかざす。
淡い光が当てられると傷が少しずつ小さくなっていった。
「なんでこんなことしてるの」
「四季さんとの約束だから。春を大人の人間にするって」
「違う。聖騎士協会の方。知らん顔して普通に生きてても良いじゃんか」
「今は……言えない。春がもっと大きくなったら話すよ」
「なにそれ。結構デカい思うんだけど」
「うん。でもそういう事じゃないかな。じゃあ、私行くね。やる事があるから」
「二人を殺しに行くの?」
「……うん。邪魔しても無駄だよ。もう春の力は私には通じないから」
日向が部屋を出ていった。
身体がちゃんと動くか確認してから身支度を始める。俺は日向には勝てない。でも諦める訳にもいかない。
「んー、やっぱ真犯人を見付けるしかないかぁ」
「うん! でも、今度は気を付けないとね。またあの白い人に見付かったら今度こそ殺されちゃうよ……」
「はい……。それに時間もありません……。急がないと……」
「──ッッ!?」
いつの間にか横に立っていた金髪の双子の返答に身体が跳ねた。
「なんで!? だって、さっき日向が出ていったばっかり……」
「うーんとね、交換条件みたいな?」
「私達にも色々あったんです……」
「それも言えないってやつ?」
「んー、そうかも。言って欲しく無さそうだったもんね」
「そっか。でも……良かった」
「少し猶予を貰っただけです……。犯人を見付けないと殺されてしまうことは変わりません……。先輩の準備が終わったらすぐに行きましょう」
「行くってどこに?」
「決まっています……。昨日の事件が起こった場所です……」
というわけで、時刻は深夜の二十四時。俺達は最後に起こった事件の現場へと足を運んでいた。
当然のように規制線が張られていて中に入れそうにない。
「如月先輩が認識阻害の結界を掛けてくれています……。これで人間には私達を見ることはできません……」
「これで入れるね! 早く行こ!」
先に進んでいく二人の背について行く。事件現場となった家の中は小綺麗に整頓がされている。知っていなきゃ人が殺されているなんて思わなかった程だ。
「綺麗……ですね……。抵抗等はしなかったのでしょうか……?」
「それか抵抗する間もなく殺された、とか?」
「でも遺体には傷がないんだよね? 一瞬で殺すのって無理だと思うなぁ」
「なら受け入れたとか。自分から死ぬことを望んでたり……」
「全身から血を抜かれる方法を……ですか?」
「んー、とりあえず何かないか探そっか。考えてても分かんないし」
見れば見る程綺麗だ。床には埃一つ落ちていないし家具には傷や汚れの一つもない。
「そういえば、日向が作った甲冑の人も魔法なの?」
「うん、そうだよ。氷の魔法には物質の模倣をする特性があるの。他にも武器を作ったりしてる人もいるんだよ」
武器……。そういえば葛木も氷で剣を作ってたっけ。あれもそういう力なのか。
「じゃあさ、この家具も作れたりすんのかな」
「……できます……。というよりそれです……」
水奈がソファに触れ目を閉じる。
「これ……魔法で作られている。他の家具も……」
「壊すか」
「うん。白い先輩の魔法の時みたいにね!」
「駄目です……! 本当に犯罪者になってしまいます……。例えば、この部屋に存在する家具が全て魔法で作られていたら……。それは人間に出来る事じゃなくなります……」
「つまり?」
「人間以外の生き物……。つまり、悪魔や天使。私達と同じ吸血鬼の可能性があります……。それに、遺魔法が使えるのならば傷跡がないのも治癒魔法で説明がつきます……」
「えっと……じゃあ、氷の魔法と治癒魔法が使える人が犯人の可能性が高いってこと?」
「はい……。さらに言えば認識阻害の魔法も使えれば可能性はもっと高まります……」
「それってさ……」
「はい……」
「日向じゃん」
「……はい」
いや、はいじゃなくて。それは有り得ない、と思う。最近帰り遅かったけど……。
俺と水奈の間に無言の時間が流れた。それを断ち切るかのように火奈が間に飛び込んできた。
「見て見て! 千円見付けたんだ。あと赤い宝石」
「何をしてるんですか……!? 早く戻してください……」
「でも氷の棚の中から出てきたんだよ。それに、この宝石不思議なんだ。魔力を感じるっていうか……」
「魔力? それ、魔石ってやつじゃないか!?」
「魔石? なにそれ」
「人間が魔法を使う為に必要な物なんだってさ」
赤い魔石……。何処かで見た事あるような……。それに千円……。
「……分かったかも」
「何がですか……?」
「地図持ってる!? 桜木から貰ったやつ」
水奈から地図を受け取り眺める。やっぱりそうだ。
「これ、鬼ごっこだ」
「鬼ごっこってあの?」
「ああ、見て。今いるのがここだろ。んで、前回がここ。それでその前がここ……」
「うん。また線で繋ぐの?」
「これさ、星じゃなくて丸だと思うんだ。んでさ、一番最初の所、俺が葛木と戦った場所なんだ」
「じゃあ、その人が犯人かもってこと?」
「ああ。あいつに五千円取られたし、この千円もそういう事だと思う。それに、この赤い魔石も見た事あるしな」
その後、他の現場も見て回ってみると同じように氷の魔法で作られた物と、その中に千円札が入っていた。
そして夜明けが近くなってきた頃、俺と葛木の戦った道へと着いた。
「んー、ここじゃないか」
「鬼ごっこ……なんですよね……? それなら戻ってこないんじゃないですか……」
「確かにそうかも……。えー、じゃあ何処だろ」
「丸……円……。これ、魔法陣じゃないですか……?」
「魔法陣?」
「はい……。魔力を込めた指で円と魔族文字を描くとその文字に込められた意味が発現するというものです……。それを町の中で作ろうとしているとしたら……」
水奈が地図上の印を繋げるように円を描いていく。
「円を描くのなら等間隔で事件が起こるはず……。なら、ここら辺……。分かりました……。恐らく円の中心にいます……」
「中心……? なんで?」
「魔法陣の起動には魔力が必要になります……。中心部に魔力を溜め込んでいるはずです……」
「なるほど。よし、行こうか」
地図に描かれている円の中心。それは俺が悪魔と出会った場所。俺たち三人はそこに向かって駆け出した。




