11.契約と願い
「何してるって、言わなくても分かるよね。この格好が全てだよ」
「いつから……」
「最初から。春が悪魔と出会った事も、葛木君と戦った事も。そして今吸血鬼と関わってる事も全部知ってた」
「なんで隠してたんだ……。俺だって──!」
「知らなくていいからだよ。春には悪魔とか魔法とか、そういうの知って欲しくなかった。普通に人間として生きていて欲しかった。だから黙ってたの」
「なんで……なんでなんでなんで! じゃあずっと戦ってたのか! あいつみたいに悪魔とか殺し合いをしてたのかよ! ずっと!」
「うん、してたよ。そして、これからもする。その二人を殺して。春の中の悪魔も引きずり出して殺す。春が普通の人として生きれるまでずっとやる」
日向がゆっくりと一歩ずつ近付いてくる。それに連れて手に持っている金色の剣に光が帯びていく。
そういえば桜木が言ってた。すぐに俺たちの所に来るって。理由はその時に分かるって。そういう事か……。ずっと近くで見てたんだもんな。
「待ってよ! その二人は友達なんだ。人も殺してない。だから──」
「それは駄目。実際に何かしてるかじゃない。吸血鬼って存在自体がここにいちゃ駄目なの。だから殺す。ごめんね」
「……分かった」
地面を蹴り日向との距離を詰める。思いっきり突き飛ばして日向を二人から引き離した。
「──二人は渡さない。日向が殺すっていうなら俺が止める」
「無理だよ。春は私に勝てない。昔からそうだったでしょ。喧嘩しても泣いてたのはいつも春だった」
「それは昔の話でしょ。俺にだって色々あったんだ。あの時よりも強くなった。いくよ──!」
日向を傷付けたくない。それでも、やらなきゃ二人が殺される。
日向に殴りかかる。顔目掛けて数発パンチを繰り出すが、その全てを躱される。
突然日向の姿が消え、脇腹に衝撃が走った。足の踏ん張りが効かず吹っ飛んで家の塀へと身体がぶつかった。
「痛ッ──。まだだ!」
再度距離を詰め、腹に掌底を放つ。それも片手で受け止められ、そのまま地面へと転がされた。
「もう止めよ? 春だって分かるでしょ。これ以上は無駄だって」
「止めない! だって二人と約束したんだ。守るって……何とかするって!」
「そっか……。じゃあ、ちょっと寝てて」
腹に熱が走った。見下ろすと光の槍が突き刺さって穴が空いている。
喉に込み上げてくる血を吐き出して地面に倒れた。立ち上がろうと力を込めるが言う事を聞かない。
徐々に薄れていく意識の中、頭の中に男の声が聞こえた。
「お前に叶えたい願いはあるか」
あの時出会った悪魔の声だ。
願い……。そうだ、あの時は思い付かなかった。でも、今なら分かる気がする。
俺の願い。それは……皆だ。水奈と火奈がいて。日向がいる。少し前までの日常がずっと続いてくれればいい。
何も無くていい。それが守れるだけの力が欲しい。
自然と言葉が溢れる。
「俺は力が欲しい……。皆を守れるだけの力を……。俺も一緒に戦えて一緒に傷付ける力が欲しい」
俺の中で何かが弾けた気がした。身体を襲う痛みが無くなり腹に空いている穴も塞がっている。
頭の中の声が俺の力の名前を伝えてくれる。それをそのまま声に出す。
「白雷」
全身を光が包み白い稲妻が俺の体をなぞるように走る。それを見た日向が顔を歪ませた。
「なに……それ。なんで分かってくれないの! なんで諦めないの! あとちょっとだけ大人しくしてくれてたら全部終わったかもしれないのに」
「嫌なんだ、友達が傷付くの。水奈も火奈も。そしてお前も。だから俺も戦う。全部守るために。知らないフリをしなくていいように」
地面を蹴って日向との距離を詰める。拳を握り相手の胸目掛けて突き出す。が、それは腕で受け止められた。直後、俺の纏う雷が日向の体を勢いよく走り刃のように肌を切り裂いていく。
「ごめん! でも──」
俺の言葉を遮るように風切り音が鳴った。身体の重心がズレて膝が崩れ倒れた。
「あれ……?」
両腕と右足が無くなっていた。不思議と痛みはない。ただ、火傷するかのような熱が傷口から流れてくる。
「あ……ああ……あああああああああああああ!」
「ごめんね。すぐ治すから……」
振り下ろされた一撃が俺の意識を絶ち切った。




