9.吸血鬼殺人事件
「んー、なんも分からん……」
「だねぇ。どうしよっか……」
あれから時間が過ぎ、学校の前で俺と火奈は頭を抱えていた。
一通り事件があった場所を回ってみたが、手掛かりらしき物は一切ない。
「あの、学校……行くんですか……?」
一人横で立っていた水奈が俺たちの顔を覗き込んでくる。
今日中には何とかして吸血鬼殺人事件の犯人を見つけなきゃいけない。本来ならこんな所に来てる場合じゃないんだが、日向に怒られるのが怖い。とても怖い。なので、とりあえず登校はしてみることにした。
「事件現場を見ても、なんも分からなかったしね。一旦情報収集ってことで。続きは放課後にしよう」
「はい……。分かりました……」
何か言いたそうにしている水奈を置いて校舎の中へと入る。それに付いてきていた火奈が問うてくる。
「大丈夫なのかな、私たち」
「大丈夫だよ。最悪俺が何とかするよ」
「うん! 信じてるね、春くん先輩」
「おう、任せときな」
昼休みになり、目の前にいるプリン頭に話し掛ける。
「なあ、大牙。吸血鬼殺人事件って知ってる?」
「おー、知ってる知ってる。今朝のニュースでも見たぜ。怖えよな」
「それについて知ってることない? 噂とかでも良いんだけど」
「そうだな……。俺はよく知らないけど、そういうの詳しい奴なら知ってるぜ」
「マジ!? 紹介してくれない?」
「お、おお。良いけど、どうした? お前、そういうの好きだったけか」
「最近色々あるんだよ。ほら、行こうぜ」
「おう。つっても隣のクラスだけどな」
立ち上がり大牙と一緒に教室を出ようとしたその時、日向が俺たちの前に立ちはだかった。
「話、聞いてたよ。何する気なの」
「朝も言っただろ、友達を助けるんだよ」
「言ったよね、あの二人は危ないって。それに殺人事件に関わろうとするなんて……」
「しょうがないだろ。別に俺だって好きで関わろうとしてる訳じゃないよ。ただ、友達と一緒にいたいだけだ」
「友達って……」
「ごめん、あんま時間ないんだ。後で話すから」
日向の横を通り過ぎて教室を出る。最後に何か言っていたような気がしたがよく聞こえなかった。
大牙の後を付いていき隣の教室へと入り、扉のすぐ横に座っている男子生徒へと大牙が声を掛ける。
「由良君、ちょっといい?」
「おっ、雪城氏ではありませんか!どうしたのですかな。わざわざこっちまで来るなんて珍しいではありませんか」
「あー、えっと俺の友達が由良君の話を聞きたいんだって。桂木、こいつは由良崇。オカルトとか、そういうのが好きなんだ。で、こっちが桂木春っていって同じクラスの友達」
「よろしくお願いしますぞ、桂木氏」
「氏……?」
「さん、とか、君みたいな感じ」
「へぇ。よろしく、由良氏」
「おほっ! 良いですぞ〜桂木氏」
「お前まで変な事しないで良いから……。由良君は聖騎士協会にも所属していて悪魔とか吸血鬼みたいなの詳しいんだ。だから吸血鬼殺人事件にも詳しいかもって思ってな」
「巷を騒がせている事件ですな〜。ありますぞありますぞ。どんな話が聞きたいでござるか?」
「えっと……聞けること全部聞きたいんだけど良い?」
「桂木氏は欲張りさんでござるな〜……。良いですぞ、たっぷり話しちゃいますぞ──」
由良氏の話を一通り聞き、放課後それを水奈火奈の二人へと共有するために合流した。
「二人共、いっぱい話を聞いてきたぞ」
「ほんとに!? さすが春くん先輩! 聞かせて聞かせて」
「おう。まずは吸血鬼殺人事件ってのは遺体の血液が全て抜かれた状態で見つかった一連の事件の俗称だ」
「うんうん」
「んで、被害者の関係性は不明。性別もバラバラ。無差別の可能性が高いらしい。警察の人もそういう線で捜査しているって」
「うん」
「後は事件が起こった場所を起こった順に線を引くと……ほら、星型に作れそうって。だから次は最後の右下の辺りの地区で起こるんじゃないかって話」
「おー! ほんとだ。じゃあ、ここに待ち伏せして真犯人を捕まえよ!」
「その話本当ですか……? 目印の位置も桜木さんから貰った物と少しズレているような……」
「言われてみれば確かに……。んー、どうする?」
「行こ! 私たちにはこれしか情報無いもん。信じてみよ!」
火奈による鶴の一声で俺達二人も動き出した。暫くして目的地周辺へとたどり着いた。
周りを見ればお決まりの白いロングコートを羽織った人達が町を歩き回っている。
「私達、大丈夫なのでしょうか……?」
「分かんない。でも、目的は一緒な訳だし、ある程度は仕方ないって」
「うん。虎穴に入らずんばってやつだよね!」
「そうそう。ほら、まるで俺達に気付いてないみたい」
目の前を歩く女の人に手を振ってみるとなんの反応もない。
他の人もそうだ。目の前で暴れてみても、ちょっとイタズラしてみても反応がない。
「あれ……? さすがにおかしくない?」
「逃げましょう……! 罠です……!」
水奈が掠れそうな声で叫ぶ。が、もう遅い。突然前方から光でできた衝撃波が飛んできた。
「下がって! 大きな──盾! 」
火奈が俺の目の前へと飛び出し血液で盾を作る。衝撃波を受け止めた盾は崩れさり砂のように散っていった。
前方から大きな音を立てて全身甲冑を着た人間が歩いてきた。
「今ので倒すつもりだったのですが……。思ったよりやる」
甲冑が感情を殺したような冷たい声で言う。そして手に持っている金色の剣を振り上げる。
振り下ろされると同時に再び衝撃波が飛んできた。そして、それを火奈が盾で受け止める。
それをみた水奈が俺に耳打ちをする。
「桂木先輩……。私が隙を作ります……。火奈を連れて逃げてください……」
「隙って、あんなの相手にどうやって」
「いきます……。血族の隷属」
水奈が血液を地面へと落とす。するとコンクリートが剥がれ狼のような生き物の形へと姿を変えた。
「──行け」
水奈の命令と共に石の獣が甲冑へと襲いかかる。それと同時に火奈と水奈の手を引いて走り出す。
「なんで私まで……!」
「当たり前だろ!あんなやばいの相手に一人残せるわけないって」
「伏せて!」
火奈の声が響いて身を屈める。その上を何かが通った。
「なんなんだよ、いきなり……。あいつマジで人間か」
「違います……。あの魔法……。あれは光の魔法なので……」
「光? じゃあ、あれも悪魔とかそういう類ってこと」
「はい……。恐らく天使だと思います……」
「天使、ねぇ。悪魔がいるんだからそりゃいるか」
「桂木春。これは警告です。その二人から離れろ」
近付いてきた甲冑が言う。
「嫌だね。二人共友達なんだ。ここで見捨てたら目覚め悪いっての。それに、なんで俺の名前知ってんだ」
「もう一度言います。離れてください。さもなくば、貴方も害ある者として排除します」
「先輩……。私達は大丈夫なので……先輩だけでも……」
「嫌だって言ってんだろ。何とかするから見てな」
剣を振りかぶる敵に対して拳を構えて応戦する。一撃を身を翻して避けて顔面に向かって拳を当てる。
「痛ッ──! このッ!」
鎧を蹴り相手を突き飛ばして距離を取る。
「火奈、なんか武器作って」
「うん。……はい! あと、何とかして隙を作って。そしたら私達も攻撃するから」
火奈から両刃の剣を受け取って頷く。
思いっきり地面を蹴り剣を横薙ぎに振るう。が、いとも簡単にそれは受け止められた。
剣が弾かれ攻撃が迫ってくる。肩や腹目掛けて振るわれる剣を後ろに飛んで躱して小さく息を吐く。
「身体は銃身……。魔法は銃弾……。行っけぇぇぇ!」
頭の中で魔法のイメージは出来ている! が、甲冑に触れた手は何も起こらない。
「やっぱ駄目か。──でも動きは止まった」
魔法を警戒してガードをしようと動きを止めた甲冑。その隙を突いて俺の後ろから火奈が大きく跳躍する。
「血族の鎖──大きな槌!」
落下する勢いのままハンマーを作り出し頭をぶん殴る。それを受けて体勢を崩した甲冑に水奈が触れ呟く。
「血族の隷属──自害しろ」
水奈の言葉を受け甲冑は剣を自身の腹へと突き立て倒れた。
「凄ぇ……」
「罠でしたね……。応援が来る前に早くここを離れましょう……」
「うん。もう戦えないよぉ……」
その場から離れようと歩き出した瞬間、音を立てて甲冑が割れ始める。
氷のように崩れ消えていく甲冑。それを見た水奈が大きく目を見開いた。
「魔法……? 先輩! 早く逃げ──」
遠くから飛んできた光の衝撃波が水奈の身体を切り裂く。血を吹き出し倒れる水奈に火奈が駆け寄っていこうと駆け出す。が、それも光の魔法によって阻まれた。
「これは最後の警告です。その二人を渡して、春」
「なんで……」
ゆっくりと静かに歩いてくるその姿は、俺のよく知る人物だった。
「なんでお前がここにいる! ──日向!」
白いコートに身を包む日向が俺を睨み金色の剣を向けてきた。




