第3話 悪意のある善行
「――というわけで、首の心当たりってのが、これ?」
数日後、ハイドランジアたちは、とある貴族の屋敷にいた。
「超有名な首コレクターだそうだ。通称”ヘッドハンター”」
種族問わず、首が好きだという、変わった趣味を持った貴族だそうだ。
しかも、コレクションは人に見せてこそだという思考らしく、見せてほしいと伝えたところ、簡単に招待してくれた。
「これはこれは! シスター・ハイドランジア。ようこそお越しくださいました」
「急な申し出にも関わらず、ご招待いただき感謝いたします」
一先ず、お礼を述べておくが、疑問がないわけではない。
「こういっては何ですが、警察と連携した、摘発とは思われなかったのですか?」
コレクションしているものが首である以上、何かしらの犯罪に手を染めている可能性は高い。
というか、確実に黒だろう。叩けば、埃どころではなく、汚点しか出てきそうにない。
「まさか! シェルトグラム教会が、まともな教会だと思っているのは、モグリくらいですよ」
「ハッハッハッ! さすが、我がマスターだ! 教会の名前も、随分轟いてるじゃないか」
「あらやだ。神の名を穢すつもりはないわよ。ねぇ? エレ・フット」
「もちろんです! 主の名を穢すなら、私が浄化します。えぇ、はい。すぐにでも」
冗談だと、VDT’sがエレ・フットから距離を取れば、ヘッドハンターも興味深げに視線をやっていた。
案内されるケースには、確かに多種多様な首が置かれていた。
「これらのほとんどは、魔法で腐敗を遅らせていますが、やはり、永続的なものではないのが悩みどころですね」
「はく製でいいんじゃない?」
「はく製とは、生命の躍動感が違います。これなんか、表情が特にいい……!!」
「俺様の好みは、こっちだな。サイコーにいい顔をしてる」
「お目が高い!! それは、本当に作るのが難しく――」
熱く語り出しているヘッドハンターに、ハイドランジアは疲れたように息を吐き出すと、同じく興味なさげなエレ・フットへ目をやる。
堕天使ではあるが、天使であると認識しているエレ・フットにとって、明らかに生命を冒涜しているこの展示に、興味は引かれないのだろう。
だが、ハイドランジアと目が合うと、目を輝かせて、とある場所を指さした。
「おぉ……! 実にお目が高い! そちらは、デュラハンの首が並んでおります」
エレ・フットが指を指したのは、デュラハンの首が収められているケースだった。
「こちらは、魔法などはかけずとも腐敗せず、そのままの最高の状態で保存されています。しかも、美しい顔ばかりが揃っています」
ヘッドハンターの言う通り、どれも眠るように目を閉じているが、整った顔立ちをしている。
「今まで、奴らは首に興味がないおかげで、この美しい顔が手に入りやすかったのですが……ここ数年、奴らも首に興味が湧いたらしく、新しく手に入れることが難しくなったのですよ」
「あら、何かあったの?」
確かに、首の持ち主であるデュラハンも、突然、首に興味を持ったようだった。
個人レベルならば、何かあったのだろうで、済ませる。
だが、種族レベルで、今まで、失くしても気にしていなかったにも関わらず、突然、興味を持ち始めるのは、珍しい。
ハイドランジアが、ヘッドハンターに質問すれば、ヘッドハンターも困ったように語り出した。
「小さな国の話なのですが、そこの王子が、舞踏会に参加したデュラハンに一目惚れしまして」
しかし、デュラハンであることを隠していたデュラハンは、王子の求婚から逃げ出し、走って逃げる際に、その首を落としてしまったのだという。
王子は、その残された首を見て、デュラハンであることに気が付きこそしたが、それでも、そのデュラハンを愛すると、国中を探し、めでたく結婚した。
その噂がデュラハンの中で広まり、デュラハンたちの中では、首に興味を持つものが増えたのだという。
「原典だと結構、血生臭いとは聞いたことがあるけど、さすがに、ここまでじゃないと思うのよね」
「元々繋がってないから、血生臭くはねェがなァ。その王子様とやらが、トンダ性癖の面食いで良かったじぇねェか」
「めでたしめでたしですね!」
理解しているのか、していないのかはわからないが、嬉しそうな笑顔を浮かべているエレ・フットに、ハイドランジアもVDT’sも、一瞬だけ目をやるが、すぐに反対方向へ目をやった。
「しっかし、そんな話があるなら、デュラハン共は、ここに首の返却を求めに来るんじゃないか?」
心配など一切していないとわかる態度で、VDT’sがケースに肘をかけ、大切に飾られている首たちを眺めながら、ヘッドハンターへ問いかけた。
VDT’sが、少し調べたくらいで、すぐに調べがつくほど有名な存在では、本来の首の持ち主であるデュラハンたちも、すぐに首のありかに気が付く。
「腕利きの物を配置していますし、なにより、私は敬虔な信者なのですよ?」
ヘッドハンターの首元に揺れているのは、敬虔な信者へ教会から送られる、特別なマジックアイテム。
悪魔族を筆頭とした、魔族たちからの攻撃を防ぐアイテムだ。
この世界の教会は、素直なもので、お心付け次第では、実際に悪魔の強力な精神攻撃を防ぐこともできる、マジックアイテムをくれるらしい。
VDT’sへ微笑みを向けるヘッドハンターに、VDT’sもバカにされたと怒るわけでもなく、呆れたように手を振った。
「信者って言うものは、どいつもこいつも目が腐っていらっしゃるようで? 俺様は、今、このマスタァーに心身を捧げている。あぁ! 俺様ほど、敬虔な信者はないだろォ? なァ? マスタァァ?」
大袈裟な手ぶりで、ハイドランジアの肩に手をかけ、勝手に自分で頷いているVDT’s。
ハイドランジアも、もはや慣れたもので、未だに勝手に一人で話を続けているVDT’sを無視して、ヘッドハンターのマジックアイテムに目をやる。
あのマジックアイテムがあっては、VDT’sが洗脳して、穏便に首をもらい受けるわけにはいかないだろう。
力技で首をもらい受けることは、決して不可能ではないが、今の平穏な生活の事を考えると、避ける努力はしたいところだ。
「? ご主人様、どうかされましたか?」
ふと、目があったエレ・フットは、不思議そうに首を傾げていた。
少しばかりの逡巡を終えると、ハイドランジアは、困ったように頬に手を当てた。
「困ったわね……わりと心は広い方なんだけど、一応宗教上の理由で、そのペンダントは外しい欲しいわね」
そのハイドランジアの、気が抜けたような声を聞いた直後に、エレ・フットの雰囲気が一瞬にして変わった。
ヘッドハンターは、その変化に反応するのが、ほんの少しだけ間に合わなかった。
「お任せください!!」
間に合ったところで、どうにもならなかっただろうが。
「人々の願い、主の願い、ご主人様の願い。その願いを叶えるために、天使は存在るのです」
まるで祈りを捧げるように、エレ・フットは、ヘッドハンターの首にかかるマジックアイテムを両手で包み込むと、青い光を放ち破壊した。
「な――」
上級悪魔の洗脳すら防ぐ、マジックアイテムが砕ける音に、ヘッドハンターは息を飲む。
「よォォうやくッ腹を割って、お話ができるなァ? ヘェッドゥハァンタァァァ???」
砕けたマジックアイテムの向こう側は、卑しく嗤った悪魔の姿。




