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⑨聖地アヴァロンの羊 1879年5月
フレディは三白眼を光らせながら語り出す。
――二十年前の故郷、聖地アヴァロン。
春の丘を、やわらかな風が撫でていた。
美しい朝だった・・・羊飼いが、羊の死骸を見つけるまでは。
生き残った羊は、どれも無残だった。
片目だけ潰され、片足だけちぎられている。
食われたのではない・・・見せつけられたのだ。
家畜は道具だ・・・人間を恐怖に陥れるための。
知らせを受けた領主は、領内の女という女をすべて館にかくまった。
人狼は、家畜の次に女を狙う。
女が無傷のままで男が襲われることは、稀だった。
アヴァロンの館の舞踏場は、緊急時の避難施設でもある。
巨大な純銀のシャンデリア。
至る所に刻まれた占星術の紋様。
ジプシーの魔除けを織り込んだ西洋建築。
庭には人狼撃退の罠。さらに、領主率いる自警団が目を光らせている。
七歳のフレディは、狩人である母の背を追いかけて、館に駆け込んだ。
舞踏場へなだれ込む女たちに突き飛ばされ、母を見失う。
怒鳴り声が響いた。
「ここは男子禁制のはずよ!」
母は振り返り、静かに言った。
「もし我が子が人狼なら、私がこの銃で仕留める。それで文句はないだろう。」




