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 夜。石油会社の家主についての調査を進めていたダイランは、老夫婦の屋敷の家宅捜査の為に一度パリに戻ったフィスターから、遺書の内容を聞き、眉を潜めた。

あの家主には剣のコレクションは無い事は分かっている。

 家主の姉の屋敷に赴いた先で、再び姿を現した2人を冷たく見据えた。悪魔の様な名を持つ男ダイランと、天使の様に綺麗な名前を持つフィスターは、海と宇宙程性質が異なるコンビだが、今度はやり方を変えた。まるで地と核の様に。家主が邪険に追い払おうとしたのを強引に屋敷に2人で押し入って来た。

「剣のコレクションくらい、誰でもしている」

「その人物を言えって言ってるんだよ」

「知らないね。私は剣には興味が一切無いんだ」

そう冷たく言い放ち、奥へ歩いていく自分に付いて来続ける2人を疎ましそうに肩越しに見た。

「引き下がって頂こうか」

フィスターは食い下がってその背を振り向かせた。

「本当にあなたはこのマークについての知識が無いとは思えません。なんらかの真実を知っているのでは無いのですか?」

練習した成果が出て、その言葉は綺麗に淀み無く言い切った。

家主は振り返り、溜息を付いて彼等を応接室へと招きいれた。背後のバトラーに手を上げ、彼は慇懃に礼をすると引き下がった。

 ソファーに座り、沈黙が流れた。気品漂う見かけに寄らず、剣呑とした目をくれてくる青年の事は秘密裏で調べを進めさせている最中だ。こちらが今の時を聞きだす事も出切るが、堅い口は開かれそうも無い。

 この家主と同じ事を、DD弟も少年時代に言っていた。彼は不気味な黒刃の日本刀と華美な西洋サーベルを祖父から貰い受けてコレクションにしていた。実際、昔から質悪かった弟は少年時代その日本刀を持ち行動しては工場廃墟横の部品広場で居合をし、大乱闘で斬りつけていたような人間だ。

日本刀を愛刀している者は殆どが愛用し、一振りや二振りはする。あいつの手にはその後がついていた。

「あんたの妻は東洋文化に興味があるようだな。どうやら日本の奥地も好きだという話だ」

彼女はパリの奥地にホテルを作らせていた。フィスターが続けた。

「その為、英国問わずにどうやらオリエントなお茶にもかなり深いたしなみをもたれているとの事で」

「女性である妻が剣をコレクションする事など私は認めない。私自身も興味にはそそられない。兄が以前アメリカで商売中に発砲され殺されていてね。今でも武器関連の所有禁止活動には投資している。私も妻も武器という部類に入る物を持ち歩く輩が大嫌いなんだ」

たしかにその調べは事実つけられていた。

「出て行ってもらおうか」

有無を言わせない鋭い目が真っ直ぐ2人を射抜き、家主は颯爽と立ち上がった。

 バトラーが現れ、家主に何かの包みを持たせる。それを持ちエントランスへ進んで行き、玄関扉まで来ると2人を身を返し振り返った。

「これは私が用意させた最高品質の紅茶葉だ。君に差し上げよう」

「いいえ。捜査時の貰い物は受けません」

「ぜひ、君にこの香り高い素晴らしさを知ってもらいたいという心からだ。どうぞ」

穏やかだが、非を打たせない微笑みで彼女に差出、フィスターはしばらくしてからそれを受け取った。ダイランは家主を剣呑と睨み見下ろし、彼はその視線を無視していた。

 屋敷から追い出され、2人は閉ざされた扉を見てからダイランは切る様に身を返し歩いて行った。

車に乗り込み、フィスターはいつもの様に後部座席に乗り込むと家主から貰った包みを開いた。

包みを開けると、紋章の押された麻の袋が出てきた。それを開ける。

「まあ!素晴らしい!」

それは、年月をかけ艶を持ち硬質の丸みを帯びた銘木だった。それを器にし、くり貫かれた中に香り高い紅茶葉が入っていた。

陶器のさじが添えられている。その器を取り出し、フィスターは何かに気付いた。

車は発信し、静かに進む中をフィスターはその麻の内部を見てぱちぱち瞬きし、即刻器を戻して紐を結んだ。

 夜闇の中を街路灯が所々暖色に照らす。車両は木々の陰に停車するとダイランはフィスターを呼び降り立った。

「張り込みだ」

「はい!」

彼女は降り立ち、ダイランの背を追いかけた。

家主の姉の事を調べ始めると、様々な噂が知れ渡っている事を知った。

 門の見える塀角のこの場所からは、若い女客達がリムジンで何度も訪れている。塀フェンスから木の生い茂る中から覗く広い庭を見て、今女達は誰もが帰って行った。

塀にもたれティアードロップを下げて彼は眉を潜めた。

「警部、彼」

「ああ」

甥っ子を片腕に抱えて家主が歩いていく。どうやら、別館にいた彼を本館に連れて来た様だ。

蜂蜜色のボブの髪を撫でて、フィスターはしなやかな細身を包む白フェルトのコートの立つ襟を引き寄せ上目になった。群青のシルクの上質なブラウスの丁寧なフリンジ裾が覗き、細い手で支えている。

ダイランは自分のすぐそこにいる彼女のそのボブを見下ろした。白百合と蜂蜜の薫りが彼女からはいつもする。艶のボブが揺れ、フィスターはふと顔を上げ、ダイランは顔を反らした。

 背を浮かせてトレンチの身を返し、彼女の細い肩を腕で退けて歩いて行った。フィスターは彼のすぐ後ろを小走りし、腕に手を回して前方を窺う様に上目で街路灯の下を歩き出した。

 ダイランは自分の行動に、しまった、と思った。彼女をどついてしまっていたのだ。

「きゃ!」

彼女は石レンガの道に尻餅を付き、彼はまたコートに手を仕舞った。彼女は起き上がらずに俯いたまま地に付け握る手は震えていた。

その曲がる膝にぽろぽろと涙がこぼれた。

自分はまた身を返し歩いていっていた。

フィスターは立ち上がらずに顔を押えて静かに泣いていた。何故彼女をどついて、しかもそのまま歩いて行ってしまっているのかも分からない。ただ、彼女を置いてそのまま歩いて行っていた。振り返る事も無く。

 フィスタはその腕を誰かにそっと引かれた。

顔を上げ、それは一人の男性だった。

「大丈夫かい?酷い旦那だ」

渋い感じのする男は彼女を立たせるとコートを払って口端を上げた。

「大丈夫です。ありがとう御座います」

 ダイランは振り向いて、フィスターの横に男がいた。

その背後の街路灯の横に、黒で巨大な豪華リムジンが佇んでいる。

彼は戻って来て、男の手からフィスターをまるで奪い取る様に手首を掴み引き寄せ男を睨んだ。

その男は片眉を上げて、彼を黒のマフラーの上とフェードラの下の上目で見て、しっかりしめた洒落た牛革ジャケットのコートから何かを取り出した。彼女の頬をハンカチで拭いてあげてから彼女の手を離し、フィスターはダイランの方へ行った。

「妻を泣かせたいのなら路上はどうだろうな」

「関係ねえ人間が口出しするんじゃねえ。自分の物に何しようが俺の勝手だ」

「え!」

フィスターは驚いて真っ赤になり彼の顔を見上げて、肩をそのまま抱かれ身を返したのを歩いていき、男はくすくす背後で笑った。

 ダイランは肩越しに一度睨んでから歩いて行った。

角で曲がるとフィスターを抱き寄せていた。ボブの髪に頬をつけ、小さな肩と背をしっかり抱き寄せ目を閉じた。

真っ赤なフィスターは頭が真っ白になり、リムジンは通り過ぎていきダイランは閉じていた目を開き視線だけで門の中へ消えて行くリムジンを確認した。心臓は飛び跳ねそうだった。柔らかい肩。小さな背。温かい髪。彼女の心臓の鼓動まで聞こえそうだった。

「確認したか」

「え、え?」

彼女は真っ赤な顔を上げて目をぱちぱちさせ、体を離した。

「馬鹿野郎リムジンの方向だ」

フィスターはうつむいて頷いた。

彼女はそのままダイランの横を離れ俯いたまま歩いて行った。ダイランは塀のフェンスに背を付けたまま、視線で彼女の背を追うことすら出来ずにいた。

 そのフィスターが戻って来て、彼に抱きついた。フェンスが微かな音を立て、ボブがさらりと揺れた。リムジンは出て行き、逆方向の闇へ消えて行った。

「確認、しました?」

「してない」

「え?」

赤レンガの塀に彼女を背を付けさせ見つめ、木の緑が黒アイアンフェンスの背後から彼女を彩った。そのフェンスに腕を付けて彼女の柔らかい耳元にキスを寄せ、髪に頬をつけた。好きだ。そう言いたい。だが言えなかった。

フィスターは緊張しすぎて視線が定まらずにいて、彼の間近の胸部を見つめたまま顔を上げる事すら出来なかった。

「さっきは突き飛ばして、悪かった」

彼はそのまま横のフェンスに寄りかかり、フィスターは火が灯された横に顔を向ける事も出来ずに地面を見つめた。

分かっている。今は恋人を装っているだけだわ。彼が自分に本気で恋愛対照の枠を填めるなんて事は無い。

好きなんです。あたしはあなたの事が……。言えなかった。

華麗なリムジンが闇から現れた。

彼等は角で身を潜め、そのリムジンに先程の男と家主、甥っ子が乗り込み走って行った。

しばらくして他の女の友人の乗るシルバーで優雅な車体が流れ込み、例のようにドライバーが出て来ては巨大な扉をノックし、執事が対応していた。

今主人は出掛けられましたと。引き返す事に止むを得なくなったリムジンは再び引き返した。

 気になるのは家主の姉の事だ。

どうやら以前から有名なレズビアンだという話で、性癖に関してはとてつもない幅の広さを持つ事に加え、貴族だという物をその性癖を隠す風もせずに家族からは白い目を向けられているという。

その姉はまた癖のある資産家の所に嫁いだらしく、この彼女の屋敷も世界中に点在する中の一つだ。夫は世界レベルの裕資家であり、2人は常に世界中を飛び回っている。最も、妻は旦那の行く先の自分の屋敷で友人を呼んでは放蕩しているのだが。

 その為、幼い一人息子は殆ど弟夫婦に任せている。 弟にも姉の居所は大体掴めないことが多いようだ。ダイラン達もまだその女を見たことは無い。

 警官が張っているから家主まで使い演出しているのだろう。姉が屋敷から出入りした風は無かった。

 ダイラン達は車に戻り、リムジンを追った。

あの3人の乗り込んだ中に元から姉が乗っていた可能性は高いが、そちらに引き付けて置き、屋敷に残る姉が出る可能性も高い。

ホシは女と思われる中、疑わしかった。

追ったリムジンは闇に包まれては現れて、進んでいく内にまんまと巻かれた。

「消えたな……」

「ええ」

フィスターも淡い黄緑の瞳を闇に凝らし、どこにもあのリムジンは無い。深い色合いをしたチョコレートブラウンパール車体で、金の装飾はそれ毎に暖色の街路灯を反射させていたのだが。

 弟が姉を少なからず恐れていた風は受けていた。

元から姉の情報を探る事は困難で、人物像は、派手なパーティー好きでよく世界規模のイベントにも参加し、宴にも現れる。王家とも仲が良いようだ。そういった表向きの噂は流れた。

彼女は巨大な伝の広さを持ち、信頼も深くそれらは最近になってなおの事そうなのだそうだ。その伝の中に本来の隠された一面があるのだとすれば、彼女達が催す妖しいパーティーなどで集う根強い存在がある事は確かだ。

団体に関わる何かが。それを弟も知っていると見て不思議は無い。

 半端無く多い女関係の伝は、その姉が確率しきったネットワークだ。その中にマークの団体の主催者がいるのでは無いだろうか。グロテスクな余興の中の犯罪などどうも思わずに厭わない趣向のイカレた種類の人間共のリーダー格だ。

 姉と老夫婦の表面上での交流は無い。弟と老夫婦の因果関係も無く、老人の宝石職人としての不審点も無かった。

敷いて言えば、大作のデザイン完成を目前に、彼はお得意の一人からパーティーに誘われた内に見切られた出来事から、妻と共に自殺した。

 憶測だが、家主の姉が彼の腕を見込んで装飾品作りに手を貸しスポンサーを買って出ていたものの、職人はある依頼を断った、あるいは買って出たスポンサーを断った為にプライド高い彼女を怒らせ、今回の事に至ったのではないだろうか。

事実、その姉を怒らせる事は誰もが避けている事らしい。かなりのコネを有している人物という事だけが理由なのだろうか。

 確かにトップレベルの彼女からしたら、5本の指にようやく入る程の者は目に映らなかったのかもしれない。

そんなバックには何者かがいる筈だ。

もしくは、彼女自身がマークの団体の主催者と置くには大胆過ぎるだろうか。

 5時間音沙汰の無い屋敷の張り込みをした9時、車は動き出しフィスターの空腹と共に停まった。

ダイランは彼女にホットサンドイッチを買ってきてジュースを持たせた。彼は空腹は無く湯気立ち上るコーヒーだけを飲んだ。

沈黙の中をフィスターは食べつづけ、屋敷の様子を窺う彼の横顔をちらりと上目で見てはサンドイッチを食べていた。

頬を染めて視線を落とし、ポケットベルが鳴った。

「あの警部」

「なんだ」

「ラヴァスレッイリ氏が彼女の行動範囲を調べた所、パーティーの参加を目論んでいるそうです」

「大胆だな」

「ええ。ですが、接触するにはそれしか無いのではないでしょうか」

「それを進めさせろ」

「はい」

もう一度、動かない屋敷を見てから発進させた。


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