06 下階 〜ホールと個室と〜
「はぁ~、キレイだなぁ」
塔の壁を、僕はうっとり見つめていた。
たかが壁なんかにため息をこぼすこともないだろうと、ほかの連中は笑っていたけれど放っておいてほしい。僕が見たまま、感じたままの想いなのだから。
ぺたぺたと、表面に触れてみる。なめらかで、ひんやりとした感触がまた心地よかった。
エリシアさまは僕たちがいるこの場所を『石の塔』なんて呼んでいたけれど、正直味気なくって、もったいない名前だと思う。
もっとよく目をこらして見てほしい。
この美しく冴えたブルーを。
僕だったら『宝石の塔』とか『青い輝石の塔』なんて、シャレた名前をつけるんだけどな。
この塔は、不思議な青い石材で造られている。
吹き抜け構造の上階の壁まで、混じり気のない純な青色が続いている。そのせいか見上げてみれば、まるで水底に沈んでいるかのような錯覚を覚えた。
この石は、なんという種類なのだろうか。
今度エリシアさまに会ったら訊ねてみよう。うん、ぜひそうしよう。
僕は壁に手をついて、そのまま円形型の塔の曲線に沿って歩み出した。
わかりやすく説明するために、そうだなぁ……下階にある昇降機の入口を、時計の文字盤の『12』と位置づけることとしよう。
閉じられた昇降機付近から、僕は逆さまわりで移動をした。すると、一定の間隔ごとに、アーチ状のドアに手が触れる──それも七つも。
七。
僕らの人数ぶんの数字。
そう、このドアは七人の個室なのだ。
ドアの先は、二歩ほど短い廊下があって、四角いワンルームに通じている。さっき覗いてみたが、生活に必要な家具と雑貨が備えつけてあった。
具体的に挙げるならば、ベッド、戸棚、小さな文筆机と椅子、それから手提げのランプか。連絡係のオウム曰く、頼めばほかの道具も調達してくれるとか。
個室の振り分けも、イチバンの提案で目覚めた順の並びに決まった。つまり歩いている僕の、手前に触れたドアがイチバン本人の部屋になる。
その次のドアがニバンで──といった具合に進み、だいぶ飛ばして最後のドアがこの僕、ナナバンの部屋となるのだ。
時計の文字盤でいうなら、『5』の位置だ。
僕はこの部屋の位置をとても気に入っている。こればかりは遅く目覚めて、幸運だったと思うほどに。
どうしてかって?
半周した僕の目が、ソレを捉える。
答えは至極単純で、上階へ続く階段にもっとも近い位置だからだ。
文字盤でいうと、ちょうど『3』の位置から階段は伸びている。壁の曲線に合わせて、ぐるりと大まわりの弧を描いていた。
階段の建材も、もちろん青い石である。
塔の壁から四角い石柱が順々に突き出して段差をつくっている。段の内側の手すりも、ご丁寧におなじ石材で造られていた。
どうやら、かなり万能な石のようだ。
「おおーいっ、ナナバァーン!」
「!」
階段のことを考えていたせいだろうか。さっそく頭上より、声が降ってくる。
ナナバン、ほかでもない僕の名を呼んで。
反射的に見上げれば、階段を上った先の先──上階の円形回廊に人の姿があった。手すりに寄りかかり、三人のおなじ顔がこちらを見下ろしている。
サンバン、ゴバン、それからロクバンだ。
声を張り上げたのは、サンバンであった。相変わらず明るく無邪気な振るまいで、僕に向かって手をブンブン振りまわしている。
「全員、上に集合だってさー! 早くキミも上ってきなよーっ!」
どうやら招集がかかったらしい。
もうちょっとだけ自分の世界に浸りたかったのだが、呼ばれたのなら仕方がない。僕の腹から声を出して、「わかったぁー!」と応えてから階段口へと急いだ。
駆け足で青い段を上るも、途中、名残惜しさに振り向いてしまう。吊り下がったシャンデリア越しに、下階ホールの全体がよく見渡せた。
僕らは青い筒のなかにいる。
床も壁も真っ青。中央に置かれた七角のテーブルと椅子も、もれなく同色に沈んでいる。
下階にあるのは昇降機の入口、七つの個室、上階への階段──。
……そうそう、忘れるところだった。
僕は階段の手すりから身を乗り出して真下を、正確には裏側を見やった。ちょうど僕の立っている位置──文字盤の『12』と『3』のあいだに、もう一つの謎の扉があるのだ。
その扉は昇降機同様に塞がれているため、行き先は不明だ。イチバンが試しに体当たりしても、ビクともしないくらい頑丈であった。
まぁ、扉も青い石で出来ているから……当然なんだけどね。
きっと時が来れば開くだろうと、冷静なヨンバンが推測していた。
「早くってばー!」
「っつ! うん、いま行くよー!」
再び急かされ、僕は慌てて上階へ向かうのであった。
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