↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載】優しいオーマ  作者: シロヅキカスム


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/8

07 上階 〜円形回廊と蔵書と〜

 息を切らす前に、僕は軽快に階段を上りきって上階へとたどり着いた。


「よいしょっと……ねぇ、どうしたっていう──」


 思わず、言葉尻をすぼめてしまった。

 段を上りきり、集(つど)っている顔たちを見まわして……ようやく気づいたのだ。

 場に漂う、なんとも微妙な空気というやつを。


「──の、さぁ……」

「…………」


 上階には僕以外の全員がそろっていた。そのうちの五人が困ったような、呆れたような曖昧な表情をして、一人を見据えていた。


 みなの視線を集めているその一人は、わなわなと無言で肩を震わせている。なにに打ちのめされたかは知らないが、床に膝を崩して大げさにうつむいていた。


 そんな妙な沈黙が漂う真っただなかだったのだ。

先程、僕が発したお気楽なひと声が、浮いた余韻を残す。


「どうしたか……ですって?」


 一拍挟んでから、返事がかえってきた。

 声を返したのは、いままさに全員からの注目を浴びて、床で震えている──ニバン、その人であった。


「よくぞ……よくぞ、訊いてくれましたね! ナナバンくんっ!」


「うげっ……!」


 突然の甲高い叫びに、僕の顔が引きつったのも無理はない。

 ニバンはすくっと立ち上がると、つかつかまっすぐこちらへ歩み寄った。逃げる間も与えず、彼は両手を伸ばすとバシンッと僕の肩を捕まえた。


「えっ! ちょ、ちょっとなにっ?」


 肩をつかまれ、反転させられ、体の向きが変わる。無言のニバンが隣立ち、背を押されるままに歩みを促された。


 僕とニバン。なぜか並んで、上階の円形回廊を外周するはめになる。まわりながら「一大事なんです……じつに由々しきことが発覚したのですよ、君」と、ニバンは僕に話しかけてきた。


「賢い君なら、わかってくれるでしょう。この、見るも耐えない酷い有り様を……」


 一変して声色は淡白だが、抑揚のなさが押し殺した強い感情を滲ませている。


「は、はぁ……」


 酷い有り様?


 思い当たる節なんてまったくなく、僕は視線を泳がせた。回廊を歩きながら、その解を目に映る光景のなかで探ってみる。


 先程までいた下階には、昇降機や各個室といった出入りの扉が多々あったけれど、ここ上階にはそういった類いは一切ない。

 部屋がないのだ。代わりにあるのは、すべての仕切りを取っ払ったような、ひと繋がりの空間である。


 吹き抜け構造のため、上階は中央がくり抜かれた『輪』のような形状をしていた。


 輪の内側と、外側に分けて説明しよう。

 輪の内向きの部分が、下階への階段が続いている出っ張った円形回廊に当たる。一方の輪の外向きになにがあるのかというと──本棚であった。


 この階は、本ばかりなのだ。


 外向きの壁はすべて棚と化していて、隙間なく書物の背表紙が並べられている。また外壁と内向きの回廊とのあいだのスペースにも、放射状に本棚が均等な円をつくっていた。

 その棚の表裏の両面にも、本がぎっしり詰めこまれている。


「君はこの光景を見て、なんとも思わないのですか?」


 話は続いていた。

 僕は慌てて横目でニバンの顔を捉えつつ、とりあえず感じたままを口にした。


「……そうだね、本がいっぱいあってすごいなーって思うかな?」


 雑感ではではあったが、「おおっ、わかってくれますか!」と、ニバンが歓喜の声を響かせた。

 ひとまず安堵した僕であったが、そこを皮切りにニバンの舌に拍車をかけることとなってしまった。


「私もここへはじめて足を踏み入れたとき、感激の落雷に打たれて危うく気絶しかけてしまいました。知の宝庫、いえ、知の楽園とはまさしく、このような絶景のことを示すのでしょうね。

 ごらんなさい。見渡すばかりの知らない言葉たちを。彼らは待っているのですよ、我々が好奇心のままにいざなわれることを!

 『はじめてのお茶の作法』『古城の画集』『剣伝、達人への道』『楽しいお話の王国』……未知への扉が勢揃いです! すべて学びきれるか、胸を痛くするほどにっ!」


 はぁ、そうですか。

 などと合いの手を入れる間もなく、「だからこそ、許せないのです!」と、僕の片側の肩をつかむ手に力を入れて、ニバンはこう言った。


「ええっ、許せませんとも! この……叡智の整列を乱す、悪しき不調和には!」


 ちょうど、一周まわってきた。

 おかえりーとは口には出さないが、五人が視線を向けて迎えてくれた……一心に同情を込めて。


 ──ともあれ、ニバンが怒っている理由がわかった。


 背丈も厚さもバラバラの本達たち。用途も種別もすべてごちゃまぜで、乱雑に棚に押しこめられていた。


 とどのつまり、書物の管理の悪さに原因があった。

▼気に入ったエピソードには、ぜひ【リアクション】をお願いします。執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。