04 残された七人
オリエンテーションは終わった。
存分に笑い尽くしたのち、エリシアは煙を巻くよういずこへと消えてしまった。僕らの質問になぞいっさい応じることなく、彼女は去ったのだ。連絡用にと、二羽のオウムのうち片方だけが残された。
「んねぇー、これからどうするー?」
そう訊ねたのは三番目の顔であった。
全員、七角の大テーブルに着席したままだった。席に着いたまま、各々腕を組んだり、頬杖をついたり、あらぬ方向へ顔を向けて呆けている。
誰も三番目の質問に答えようとしない。
これからどうするか──答えあぐねているというか、むしろこっちが訊きたいくらいだ。じっさい僕も、消えてしまったエリシアがいた位置を眺めながら、ため息をついてふてくされていた。
「どぉするって……エリシアの言ってたとおりじゃねぇか」
声を上げたのは五番目であった。
「オレたちはオーマの後継者になるために集められた。んで、これからそのために必要なお勉強がはじまるってわけだよ。毎日毎夜、ここにいる七人、面を突き合わせてなっ」
三番目の質問にちゃんと答えるあたり、案外律儀な性格なのかもしれない。
が、白髪の少女どころか、あのオーマさまのことまで呼び捨てにするとは。やっぱり粗暴な部分は拭えないようだ。
「それから──」
「そうともっ!」
五番目が言いかけたところで、覇気のある声がかぶさる。一番目だった、椅子を引っくり返しそうな勢いで立ち上がる。
「我ら七人の目的は明快だ! なにも難しく考える必要はないっ! 偉大なゴーレム使い、オーマさまの魔法を継承する、それだけだ!」
初対面での印象どおり、強引な性格だ。影で五番目が舌打ちしそうな顔をしていたのを、僕は見逃さなかった。
「ほらみんな、シャキっとしないか。一つ屋根の下──もとい塔のなか、共通の目的を持つ者同士として、切磋琢磨しようではないかっ! はーははっ!」
笑う一番目に、五番目が「脳天気なやつ」と唇を尖らせていた。
しかし、この強引なまでの明るさにつられて、場の空気もやわらいできたようだ。質問を投げた三番目も「そうだよねぇー」と、不安がなくなったのか納得するようにうなずいていた。
その三番目の同意の声に、二番目が「そういえば、エリシアさまがこうもおっしゃってましたね……」と補足する。
「去り際に、我らのためにこれからいくつかの『試験』なるものを用意しておくと。きっとその最初の試験の準備をするために、彼女は早々に出ていったのでしょう。
それから……そのときが来るまで自由に過ごしてよし、とも言っていました」
試験。
そういえば、さりげなく彼女はそんなことを言い残していたような。いったい、どんなことをするのだろうか。
「あのぉ……試験って、どんなことをするんでしょう?」
思考とかぶった声が耳に入る。
今度は控えめな六番が、おずおず会話に混ざっていった。
「い、痛かったり、怖い目に遭ったりしなければいいのだけれど。わたし、そういうのは苦手なみたいで……」
「バーカ、はじまる前からなにビビってんだよ」
怯える六番目を、五番目が嘲笑う。
「エリシアが話してただろ、オーマの力の凄まじさを。
なんとか大戦だか、とにかく争いのパワーバランスを引っくり返しちまうほど強烈な魔法なんだ。そいつを授かる試験ってんなら、そりゃもう……ハードなもんに決まってらぁよ」
「ひぃ、そんなぁ……」
気づけば、テーブルでそれぞれが勝手にしゃべりはじめていた。もっぱらエリシアの試験の内容や、継承に必要な魔法の勉強に関することで議論に活気がついた。
「あ……」
呆けている場合ではない。
僕も、会話に混ざらなくては。
「え、えーっと……」
しかし、会話に加わりたいのだが……なにを切り出せばよいのかわからず、僕はひとり喉を詰まらせる。全員初対面同士のはずなのに、打ち解けるスピードが早い気がするのは──あれか、やはり僕だけが目覚めが遅かったせいなのだろうか。
「みんな、あの……その……」
会話の切れ端を声に出しつつ、きょろきょろとテーブルを見まわす。ダメだ、みんな自分がしゃべっていることに夢中で気づいてくれない。
どうしよう……。
焦っていると、僕の目にある人物が留まった。テーブルに談話の華が咲くなか、たった一人、頑なに口を閉ざしている顔があったのだ。
四番目の顔だった。
相変わらずむっつりと、表情のパーツ一つすら動かさずに静かにたたずんでいる。
よし、やつならいける。
そう思って声をかけようとした矢先、当人はおもむろに席から立ち上がった。そして無言のまま踵を返して、テーブルにいる一同に背を向けるのであった。
「おい、どこに行くんだ?」
そう四番目の背中に問いかけたのは僕ではなく、一番目だった。その問いに対して「騒がしいのは苦手だ」と、四番目は淡々と答える。
「試験の訪れまで自由でいいのなら、先に失礼させてもらう」
一見、協調性を欠く言動であるが、それもそうだと、その場にいるみんながうなずいた。
席を離れた一人に続いて、ほかの者の立ち上がりはじめる。特に二番目は、四番目の足先が上階に続く階段へと向かったため、「先に書棚を閲覧するのは自分です!」と張り合おうとした。
一番目と三番目の好奇心は元より、五番目、六番目もなんだかんだ室内が気になるようだった。
「──みんなっ! 待ってよッ!」
とっさに、僕は大声で叫んでいた。
バラバラになる彼らを前に、無性に心が揺さぶられたのだ。あのときとおなじだ。謎の部屋から昇降機で上がる前──自分だけ置いていかれそうになった、あの寂しさと惨めさに似ている。
僕の声は天井高く反響した。思った以上の声量に、全員がいっせいに振り向く。六人の視線を浴びて、僕は、僕は……。
「えっと、なんて言うか、その……」
気まずくて肩をちぢこませる。
なにを言うか、まったく決めてなかった。「い、言いたいことがあって……」と、適当に言葉を繕って間を稼ぐも、頭のなかは真っ白になっていた。
真っ白。
白い。
白い、オウム……。
そのときだった。僕のすぐ真後ろで、例のエリシアのオウムがけたたましく翼を広げたのは。
「オーマ、オーマ!」
「!」
「卵ハ七ツ! オーマノ卵、七ツ! ケケケッ」
止まり木から飛び立ち、シャンデリアを中心にグルグルと室内をまわりはじめる。オウムの急な挙動を見上げて、五番目が悪態をついた。
「ったく、うるさい鳥だぜ。あとで翼とくちばしを紐で縛っておくかぁ?」
その物言いに対して、「やめなよー」と三番目が文句を口にする。
そして──。
「あとさぁ、鳥って呼ぶのもつまらないし、アタシたちで名前でもつけてあげようか? ねぇねぇ、なんて名前がいいと思うー?」
三番目の言葉に、僕ははっと思いついた。
「そうだっ、名前だよ!」
テーブルに身を乗り出して、僕は無我夢中に六人に提案をした。頭にさっと閃いた、このすばらしいアイデアを。
「オウムだけじゃなくて、僕たちにも呼び名がほしいと思ったんだ!
お互いを呼び合う、名前がね!」
じゃないと不便だろう?
▼気に入ったエピソードには、ぜひ【リアクション】をお願いします。執筆の励みになります!




