03 その昔、オーマありけり
「稀代のゴーレム使い。その者の名を『オーマ』と言う」
そんな切り出しから、白髪の少女エリシアは僕ら七人に説明をはじめた。
昇降機での移動を経て、一同は居住階とやらにたどり着いた。降り立ったとき、七番目の僕は思わず「うわぁ……」と感嘆の声を上げてしまった。
目覚めた部屋とは打って変わって、広々とした空間がそこにあった。
円形の床に、壁も合わせて筒状に曲線を描いている。上階、下階の吹き抜け構造になっているようで、天井がものすごく高かった。
上階へは曲がる壁に沿って階段が伸び、目で追って見上げれば、その先の回廊の手すりがきれいな弧を描いていた。回廊の輪をくぐって、天井から吊り下げられたクリスタルのシャンデリアも見事なものであった。
僕は感激した、すべてがダイナミックだった。
さっそく室内の探索に出かけたかったが、ほかの六人と同様、エリシアに止められた。
まずは昇降機を出て、すぐの──下階ホールの中央を占める大きな七角テーブルに着き、彼女の話に耳を傾けることになったのだ。
「世界がまだ二つに分かつ前の時代じゃった。
その時代の終末期を飾った、かの有名な『魔法大戦』において、彼は……オーマは、魔法使いとしてすばらしい戦歴を築き上げていった」
ご丁寧に大判のタペストリーを広げて、エリシアは七人に語りかけた。
彼女が使役しているのか、布を広げているのは二羽の白いオウムだ。左右の端と端をくわえて、忙しげに翼を羽ばたかせている。
エリシアが杖で床を突くと──それが合図なのだろう──器用に足の爪を使い、表の一枚を落として次の布へと切り替えた。
「彼の魔法は特別なものじゃった。物言わぬ石や大岩たちに命を吹きこんでな、岩人形として従わせたのじゃ。
岩人形は頑丈で、オーマの命令には絶対忠実……戦場でこれ以上ない兵として活躍したんじゃ……」
示された絵は写実的ではなかった。タペストリーだから仕方がないが、ほとんどシルエットに近い簡略化された図で、語りとは裏腹にいまいち迫力に欠けるものであった。
僕はその、水色の人型をぼんやり見つめる。
あれが、オーマの操る岩人形か。
「オーマは自ら戦場に立った。時には空を塞ぐほどの巨大な岩人形の軍勢を操り、各地を襲った恐ろしい戦火を次々に鎮めていったそうな……」
「…………」
「あの姿はまさしく英雄……うむ、そうじゃな、オーマほど強力な魔法を操る、正義に燃えた魔法使いは見たことがない。
少なくとも、ワシは思っとるよ」
語りながら、エリシアは七人の座るテーブルの外周をまわりはじめる。全員の耳によく聞かせるためだろう。背後を通り過ぎる彼女を目で追いつつ、僕は複雑な面持ちでその話を受け止めた。
ほかの六人もおなじであった。
「まぁ、それからいろいろあって戦いは終わった。二つに分かれた世界の片方──つまりこの地に、魔法使いだけの世界が築かれたというわけじゃな。
しかし新しい秩序の創造を前に、オーマはひとり隠遁を決意したのじゃ。これから訪れるであろう平和な魔法社会に、己のような厄介な魔法使いは相応しくないと……自ら身を引いたんじゃな。うーむ、泣ける話ぢゃ……」
正面に戻ってきたエリシアが懐からハンカチを取り出し、よよと目元をぬぐった。
そのあと盛大に鼻をかむと、彼女は杖で床を強く突いた。カーンッとひときわ高い音が天井まで響き渡ったと同時に、またしても二羽のオウムがタペストリーを切り替える。
金色の太陽を背に、人々が踊り賑わう姿が描かれている。明るい絵だ、祝いの風景だろうか。エリシアも沈んだ語りから一転、声を弾ませた。
「そして時は流れて、現在っ! 魔法大戦が集結し、今年で九十八年目を無事迎えることとなったのじゃ!」
ぽんっと、小気味よい音が響く。頭上より、色とりどりの花びらが舞い落ちてきた。これも演出のうちなのだろう、エリシアはひとり声高に話を続けていった。
「あと二年もすれば、めでたく百周年というわけじゃな! その記念すべき節目を前に、オーマはあるとき決心したのじゃ──自らの魔法の力を『次世代』に継がせることを、なぁ!」
「!」
オーマの力を『次世代』に引き継がせる。
そう言い切ったエリシアはこの場に集う七人の、一人ひとりの顔を見つめた。
当然、僕もそのうちに含まれる。
真っ白な髪色とは対照的な、彼女の紅い瞳を真正面から受け止める。熱い眼差しであった……思わず息苦しくなり、自分の胸を押さえつけてしまうほどに。
次世代。
それが意味すること、すなわち――。
「稀代のゴーレム使いの最強の力を授かり、新たな『オーマ』として、その名を冠する継承者。その候補として集められたのが──チミたち、七人というわけじゃ!」
ババーンッ!
エリシアから振り上げた杖を向けられ、指名を受けた七人は誰もがお互いの顔を見交わした。
興奮しているのは一目瞭然であった。僕だって、そうだ。目覚めて間もない身で、不明瞭なことは多いけれど……とかく、自分たちが選ばれた者だというのはわかった。
オーマ。
彼の名のもとに、この七人は集められたのだ。
沸き立つ一同に、エリシアは咳払いして「静かに」と促す。彼女は急に丈の短い背筋を伸ばして、これからが重要だと言わんばかりに厳かな口調で切り出した。
「しかし、チミたち……チミたちはあまりに青い。
ゴーレム使い、もとい魔法使いにしても、未熟すぎるという大きな欠点がある。ピヨピヨ可愛い雛ではなく、まだまだ生まれてもない卵の段階じゃな。
そこでじゃ、卵の諸君! このワシが手助けをしてやろう。ここ──石の塔で、これから一年間、みっちり魔法使いの勉強に励んでもらうぞいっ!」
そう言って、エリシアは腰に手を当て、のけ反るよう大きく胸を張った。感謝したまえとでも言いたげに、ワーハハハッと哄笑するのであった。
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