番外編1 氷龍のくしゃみ 後編
『鼻がムズムズしてな、それで思わずくしゃみを・・・。』
あっけにとられるイリューシャとアッシュビー軍曹。国が凍り付いた原因がまさか氷龍のくしゃみだとは。
「・・・悪意が無いとはいえ、ケルヴィンのその一撃であたしらの国がエラいことになってるんだけど?」
『正直すまんかった。しかし元に戻す手段も無いものでな。我が大人しくするくらいしかない。』
「・・・そう。じゃしばらく大人しくしててくれる?あと、これ、もらっていくから。文句ないよね?」
ルーシアが先ほど加えた二撃によって折れた牙と角を雪原から拾い上げる。
『構わぬ。我を倒した証明として必要なのだろう。素材として使うなら、我の力が宿っているから役には立つだろう。』
「・・・話が早くて助かる。じゃ懲らしめたってことで、しばらく姿を見せないようにしてくれる?」
『承知した。さらばだイリューシャ、冷の精霊様の寵愛を受けたエルフの娘よ。』
そう告げると氷龍ケルヴィンは人型の姿のまま羽ばたき雪山の向こう側へと姿を消した。
「イリューシャさんという名前だったんですね。」
しまった!という表情のイリューシャ。ケルヴィンとの会話でアッシュビー軍曹に名前がバレてしまった。
「・・・軍には黙っていてくれる?」
「大丈夫です、秘密にしておきます。ところで、雪で埋まった皆さんを魔法で助け出したりとか出来ますか?」
「・・・そのくらい大丈夫。」
ルーシアは部隊が埋まっていると思われる辺りに手をかざすと、雪が降るのとは逆の感じでゆっくりと舞い上がり、埋まっていた討伐隊員たちが姿を現した。
そして巨大な氷龍の姿が消えていることに戸惑う一同。
「・・・氷龍は退けた。これがその証明。」
部隊長にそう報告し、牙と角を差し出す。部隊長は安堵の表情を見せながらも、辺りを見回し、氷龍の骸が無い事を確認するとルーシアに問いかける。
「退けた、ということは、取り逃がしたということで良いか?」
随分とまたどストレートに言ってくれるなと思いつつも、ルーシアはいつものジト目の表情を崩さずそのまま返答する。
「・・・生きてはいるが、大人しくすると約束させた。あたしのほうが強かったからね。」
折れた牙や角があり、話が通じたのならと部隊長はひとまず納得し、部下に撤収の指示を出す。隊員らが被害の確認や帰り支度を始めたところで、アッシュビー軍曹がイリューシャに歩み寄る。
「手足とか冷えてないですか?熱魔法で温めますよ。」
実はイリューシャ、手足の冷えが極限に達しておりすごく我慢していたので、その為に来ているロバートの申し出を有難く受けることにした。
「・・・それじゃお願いしようかな。どうやって温めるの?」
「手袋を取って頂けますか?手の状態を確認したいです。」
言われるまま手袋を取り、手を差し出す。見れば血色を失い青白く冷え切ったイリューシャの手が。
「これは・・・お手を失礼します。」
「・・・!」
手を取られたイリューシャは一瞬ドキッとした。今まで異性に手を取られたことなど無かったからだ。でもまぁこれはアッシュビー軍曹の仕事だと割り切って気持ちを落ち着かせた。そんなイリューシャの気持ちを知ってか知らずか、アッシュビー軍曹はイリューシャの両手を取り拝み手の状態にすると、自分の両手で挟み込み、じわりと熱魔法を発動させる。
「・・・へぇ、手の芯から温かくなる感じ。」
「熱を身体の内部に届けている感じですね。外側から温めるより、内から温めたほうが身体の冷えには効果あります。」
次は靴越しに足先を温めてもらう。程よく暖まり、改めて熱魔法が羨ましく感じたところで、部隊の下山準備が整ったようだ。イリューシャ達も移動の態勢を取る。
「・・・アッシュビー軍曹。」
「はい、なんでしょう。」
「・・・・・・ありがとう。」
部隊は下山を開始した。
* ⁑ ⁂ ⁑ * ⁑ ⁂ ⁑ * ⁑ ⁂ ⁑ *
クーレシア共和国首相官邸。ここではいま氷龍の顛末について報告が行われていた。一連の話を聞いた首相はこう言い放った。
「すると〈クーレシアの霧〉はドラゴンスレイヤーだな。さすがマギが誇る魔導士だ。」
(ドラゴンスレイヤーだとッ?!やめろそんな称号面倒臭いだけじゃないか!)
「倒さずとも退けたのであれば、それでよろしいかと思います。ドラゴンより強ければ誰も文句は言いますまい。さらにドラゴンスレイヤーの誕生ともなれば国威発揚にもなります。」
首相の側近までこの調子である。
褒美として何か欲しいものはと聞かれたイリューシャは、折れた氷龍の牙と角を希望した。ドラゴンスレイヤーの称号を押し付けられたからには、そのドラゴンの素材を使った魔道具でも作り身に付けようと考えたからだ。
牙と角をマギに持ち帰ったイリューシャは、加工部に魔道具の製作を依頼した。加工部の面々は珍しい素材だと大い盛り上がり、製作にはだいぶ気合いが入ったようで良いものが出来上がった。
牙はナイフに加工してもらったが流石に余ったので、また何か作るときのために一部を持ち帰り実家に保管することにした。
角は杖に加工してもらい、泪は結晶にし杖の先端部に装飾した。そしてイリューシャと同調させ魔杖となった。その魔杖は〈クーレシアの霧〉を象徴するものとなり、軍と合同で行動する際は何とも目立ち、根暗で引きこもりなイリューシャとしては何とも遣る瀬無い状況となってしまった。




