番外編1 氷龍のくしゃみ 中編
『人間共よ、何用で我が領域に立ち入った?』
イウォーゼンに踏み込んで三日目、進軍していた部隊の前に蒼白い巨体が舞い降りた。巨大なトカゲのような姿だが、青い瞳に鋭い牙に爪、二本の角、背中の翼、当にドラゴンと呼ばれる生物の姿、それこそが氷龍である。
着地のときの羽ばたきで発生した猛烈な地吹雪で部隊は雪に埋もれ機能不全に陥る。
「ぶはっ!・・・〈霧〉さん?!」
埋もれていたアッシュビー軍曹が雪を蹴散らし飛び出す。地吹雪発生の瞬間にすぐ熱魔法を行使し体温が奪われるのを防いでいたようだ。
隣に雪の固まりを見つける。掘り進め、雪中から凍えたイリューシャを発掘した。何時にも増してジト目が険しく、震えているのは寒さか、怒りか、または両方か。手を口元に当て吐息で手を温めようとして眼鏡が曇る。
「よかった、すぐ温めますね!」
「・・・今はいい。」
イリューシャが曇った眼鏡を外すと、魔力が一気に溢れ出す。
『ほう・・・人間がこれほどの魔力を持つとは・・・?』
真っ白な息を吐きながら氷龍はイリューシャの魔力に関心を持つが、まだ余裕の表情だ。
「・・・お前の・・・お前のせいで・・・なぜあたしがこんな目に!!」
イリューシャが右手で平手打ちの素振りをすると、氷で出来た巨大な手のひらが出現し氷龍の左顔面を打ち付ける。牙が折れ、氷龍はよろめいた。
『な・・・ッ?!』
続けてイリューシャは跳躍すると、くるっと前転しかかと落としが空を切る。今度は巨大な足型の氷の塊が氷龍の脳天を直撃する。
『げフッ?!』
堪らず氷龍は雪原に突っ伏す。今の攻撃で今度は左の角が折れた。イリューシャの身の丈ほどもある大きさの角が雪原に落ちる。
氷龍は堪らず目から泪を流したが、それをイリューシャは見逃さなかった。
「あ、素材にいいかも。」
素早く試験管を取出すと突っ伏した氷龍に近づき泪を回収する。素材を見た時の切替の早さやこういうのを持ち歩いている辺り、さすが調査で来たマギ職員である。
『お・・・おのれ人間共、いきなり手を出さんでも良いではないか・・・よりによって氷龍たる我を氷で屈伏させるとは・・・ん、お主のその魔力・・・冷の精霊様の寵愛か。それなら我では敵わんはずだ。』
急に情けない声で語りかける氷龍。
「・・・話し合いも何も、いきなり雪で埋めておいて何を?そしてあたしを寒い目に遭わせた罪は重い。で、話せるんなら、話したいけどね。人型に化けたりとか出来ないの?」
『出来ぬことはないが・・・これで良いか?』
氷龍の全身が光り、人型に収束すると、さわやかイケメン青年男性っぽい姿になった氷龍が姿を現した。が、牙、角、翼と尻尾は隠せないようだ。そして人型になっても牙と角は折れたままである。
「・・・へぇ意外。その人型の姿というか、外観に意味は?」
『冷の精霊様の趣味嗜好だな。』
「・・・あの精霊、こんなのが趣味なんだ・・・で、氷龍と呼ぶにもアレだから、名前とか無いの?」
『であれば、精霊様から賜ったケルヴィンという名がある。それで呼んでくれ。』
精霊は精霊獣と呼ばれるモンスターを創造し従えており、それぞれを象徴するような姿をしている。冷の精霊は冷気を操る龍を創造し、ケルヴィンという名を与えた。
そして氷龍が精霊獣であることを知っているのは冷の精霊の寵愛を受けたイリューシャだけであるが、面と向かって会うのはお互い初めてであった。
「・・・あたしはイリューシャ。で、これから春だってのに麓に寒波を飛ばしたのはケルヴィンの仕業?」
『あぁ、アレか、実はだな・・・この山にも春の訪れが感じられてな、心地よい風が吹いてきな・・・』
「・・・それで?」
『鼻がムズムズしてな、それで思わずくしゃみを・・・。』




