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第2話 船に乗るのは簡単じゃないようで

 「旅に出ます。東方諸島に行きます。しばらくしたら戻ります。」

 そう家に書き置きを残し、彼女は実家を後にした。


 ここはクーレシア共和国。北大陸と呼ばれる地域を治めている国家である。

 季節は秋口。短い夏が終わり、秋が過ぎると、長い冬の季節がやってくる。慌ただしい収穫作業の真っただ中、畑の中の一本道をゆく乗り合い馬車。


 数名の旅客の中、身元を隠すような出で立ちの少女が一人。ローブを纏い、フードを目深に被り、布が巻きつけてある長物は身の丈より長い。


 彼女はエルフで、いわゆる「魔法使い」である。長い耳と特徴ある魔杖ですぐに身元が割れてしまうため、月並みではあるがカムフラージュしているつもりだ。フードの奥の眼鏡を掛けたその顔がふと外を向いた。


 (・・・氷龍のくしゃみ事件でどうなるかと思ったけど、農作物はちゃんと育つもんだね・・・収穫できて良かった。)


 作物の心配をしつつも、国を出る決意をした少女を乗せた馬車は、南へ向けて駆けていく。


 道中の宿場町に着く頃には陽が沈みかけており、空気はひんやりとしていた。この大陸から脱するには港町から船に乗る必要がある。その港町までにはまだ馬車で数日かかるので、今日はこの町で一晩過ごさねばならない。


 金を節約したい者は野宿、余裕がある者は宿へ泊るのが一般的であるが、時期的に夕方以降は寒い季節である。


 彼女は迷わず宿を選択する。北大陸脱出に備えてきたので、それなりの貯えがあるからだ。幸いにも空きがあったので泊まることが出来た。


 宿の女将に頼み桶にお湯を貰い、部屋に持ち帰る。椅子に座り、桶に足を突っ込み、前かがみになって手も突っ込む。何とも間抜けな姿だが、冷えた手足を手っ取り早く暖めるには有効な体勢である。


 「・・・はぁ~、癒される~・・・」


 彼女は寒いのが苦手、いや、大嫌いだった。勤めていた国の機関を辞め、家を飛び出し、寒さとは無縁の南国で生活したいと決意させるほどに寒さを忌み嫌うのには理由がある。


 彼女は、極度の冷え症なのだ。


 (・・・本格的に寒くなる前にこんな国、脱してやる・・・暖かい南国でスローライフを楽しんでやるんだからッ!)


 冷えた手足を温めて決意を新たにした彼女は、暖かい南国ライフに期待を寄せる。手足が冷えて辛い思いをすることがない、快適な生活を・・・。


* ⁑ ⁂ ⁑ * ⁑ ⁂ ⁑ * ⁑ ⁂ ⁑ *


 数日後、北大陸南岸の港町、ジーマリング。

 船着き場に到着し、港湾職員のイカツイ兄貴に中央大陸行きの船に乗りたい旨を告げると


 「嬢ちゃん、父ちゃん、母ちゃんとかは一緒じゃないのか?」


 エルフで数十年生きてるとはいえ、見た目は少女で耳も隠れているから、子供と見られても仕方ない。


 「・・・あたし一人だけ。一応エルフの魔導士だけど。」


 「おぉ魔導士さんか、そりゃ失礼した。身分を証明するモノはあるかね?」


 (・・・身分証だとッ?! しまった、職員証は辞めた時に返してきたから何もないぞ・・・)


 焦っている様子の彼女を見て兄貴が続ける。


 「すまんなぁ、身元がよく分からんヤツぁ乗せられねぇんだわ。・・・まぁ、アッチの良くワケの分からんフネなら、金額次第で乗せてくれるそうだが?」


 と。言われてアッチを見ると、いかにもヤバげな雰囲気の船が・・・

 それに、貯えがるとはいえ、余計な出費は避けておきたいところだ。


 「身分を証明するモンがなけりゃ、手っ取り早いのは何らかのギルドに属することだな!比較的簡単に登録できそうなのは冒険者ギルドか。魔導士なら需要あるだろうから登録もすぐに出来ると思うぞ?」


 「・・・そうなのか、ありがとう。行ってみる。」


 ぺこりと頭を下げ礼をし、少女は冒険者ギルドへ向かう事にした。

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