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自尊心

俺たちは、

冒険者ギルドに戻り、

ゴブリンの耳や装備品を換金した。

報酬は山分けということではなく、

その時々の討伐数や、

役割で変化するようだった。


討伐数こそ少なかったが、

以前に渡された金額より多かった。


俺らは冒険者ギルドに、

併設されている食堂で飯を食う事にした。


「じゃあ、

ミックの初ゴブリン討伐を祝って乾杯!」

コマはエールの入ったジョッキを持ち上げる。

(乾杯)

俺らはエールを飲む。


薄くてぬるいビール。

キンキンに冷えたビールとまではいかないが、

マズくはなかった。


テーブルには、ゆでた豆とパン。

そして干し肉が運ばれてくる。


質素だな。

そう思い、他のテーブルを見る。

他も似たり寄ったりだった。


ゆでた豆。

たんに、

ゆでただけの豆だが、ほくほくして、やけに美味かった。


「それで、初戦の感想は?」

コマは俺のほうを見た。


「はじめはぶるっちまったが、刺すのに慣れると、作業のように感じる」

俺は答えた。


「そうだろうな。俺もはじめては怖かった」

コマは笑った。


「初めての晩は興奮して眠れなかった」

ニコは豆をほおばり、エールで流し込む。


「はじめてか……。懐かしいな」

アラは遠い目をした。

その目の先を追うと、受付嬢がいた。


「アラさんは、本当に女性が好きですよね」

ニコは笑う。


「勘違いするな。俺は魅力的な女性が好きなだけなんだ」

アラは新しいエールを注文する。


くだらねぇ会話だな。

俺はそう思った。

しかし、

そのくだらない会話を、

ずいぶんしてなかった事に気が付く。


博打を始めてから、

飲みに行く機会が少なくなった。


最後に飲みに行ったのは、

いつの事だろう。


酒に酔い、

すこし紅くなった仲間たちの顔を見る。

こんな表情をするんだ。

そんな風に思う。


くだらない。

即座に、

思考を否定する。


でも、

そのくだらなさに、

ほんのりとした温かみのようなものを感じた。


なんなんだろう。

この感情は。


博打にハマっていた時。

いつも血でたぎっていた。

人生が、

すべて賭け事のように思えた。


野球、サッカー、道が空いているかどうか、店が混んでるかどうか。

全ての出来事の結果が、

白黒で決定する博打のように見えた。


生まれという親ガチャで始まり、

才能という能力ガチャ、

環境ガチャ、めぐり合わせガチャ、

あらゆるガチャで、

人生が決まり、

まるで自分に決定権はない。

そう思っていた。


でも博打は違った。

白か黒か。

それが決められる。


人生の主導者になった気がした。


でもニコの話で悟った。

博打は破滅ガチャだ。


そのルートで進めば、

遅かれ早かれ、

破滅に向かう。


極上のワインのような甘美な香りがする。


しかも、

一度飲み始めると、

いつまでも酔いから覚めない。

そんなガチャ。

そう思った。


「なぁアラ。イカサマってどうやるんだ?」

俺は尋ねた。


アラは俺をじっと見る。

酒に酔っているのか、

少し目が座っている。


「それ知りたい」

ニコも言った。


「こほん」

アラが咳ばらいをする。


「イカサマにはいくつか種類がある」


アラに注目が集まる。

ニコはもちろん、

コマも興味があるようだ。


「まずはサイコロ。これはサイコロに仕掛けを施す」


「どんなだ」

俺はじっとアラを見る。


アラはカバンの中の古びた革袋から、サイコロを取り出す。


「こっちが6が出やすいサイコロ。

こっちは1が出やすいサイコロだ」


「振ってみて良いか?」


「あぁ」


俺はサイコロを振ってみる。

百発百中とはいかないが、

かなりの確率で同じ数字が出る。


「これどうなってるんだ?」


「手の上で放り投げて、感覚を見てみ。こっちが普通のサイコロだ。比べてみろ」

アラはもう一つサイコロを渡した。

俺は手の上で何度もキャッチをした。

ほんの少しの違和感がある。


「なんか違和感がある」


「そうだろ。サイコロの中心から少しずらした部分に小さな重りを入れている」


「こんなサイコロどうやって作るんだ」


「これはな。こういうのを専門に作る職人がいるんだよ」


俺はじっとサイコロを見る。

つなぎ目などはまったく見えない。


「つなぎ目がまったく見えない」


「そうだろ。これが熟練の技術だ」


俺たちはしばし、イカサマサイコロで遊んだ。


「他にもイカサマはあるのか?」


「カードならイカサマし放題だ」


「カードでイカサマ?どうやるんだ?」


「カードって目の前でシャッフルしたら、公平に見えるよな。まぁ見てろよ」


アラは手際よく、

カードをシャッフルしていく。


「ゲームは10に近いほど勝ち。

そういうゲームだとする。

11なら1、23なら3だ。

そして手元にある札の数で勝負をする」


「数が10に近ければいいんだな」


「そうだ。そして納得いくまでカードは交換してもいい。ただ捨てるカードは見えるように置く。そして相手がOKを出してからのカード交換は2回まで、こういうルールだ」

アラはカードを配る。


「じゃあ始めるぞ」


俺は頷く。

開始して、

2回ほどカード交換をしたあと、

アラはOKを出した。


俺の数字は8。

勝負を受けた。


「俺は8だ」


「こっちは10。俺の勝ちだ」


「強いな」


「強いんじゃない。カードを配った時から、勝負は決まっていた。これもイカサマだ」

アラは笑った。


「イカサマって、お前はたしかにカードを目の前で切った。カードに仕掛けをしてるのか?」


「じゃあカードを見てみろよ」


俺はカードをまじまじと観察する。

コマもニコも観察した。


「わからない」

俺はテーブルにカードを投げ捨てた。


「カードは普通のカードだからな」


「じゃあ何をやった?」


「カードをシャッフルする時に、俺に有利な手が来るように、あらかじめ調整していたんだよ」


「そんなことできるのか?」


「あぁ、それをするのがイカサマ師だ」


俺は、

あらためて思い知らされた。

食い物にされていた事に。


「カモか……」

俺は呟く。


鳶だと思ってたら、

俺はカモだったのか。

そう思うと、

無性にバカバカしくなった。


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