イカサマ師
「じゃあ、ゴブリンの装備品から売れそうなものを取るぞ」
コマは言った。
倒れたゴブリンの装備品から、
使えそうなものをはぎ取る。
「まるで強盗だな」
俺は呟く。
「まぁ最初はそう思いますよね。でも店で売れた時には、印象が変わりますよ」
ニコは言った。
ゴブリンは頭が良いらしく、
ナイフなどの道具も持っていた。
道具類は一か所に集められた。
「よし次はゴブリンの両耳だ」
コマは叫ぶ。
皆はゴブリンの耳にナイフを入れ、
切っていく。
「ナイフを持ってない」
そう言うと、
「そのゴブリンのナイフを使え」
コマは言った。
俺はゴブリンのナイフを使うが、
皆のようにキレイには切れない。
よく見ると、
ナイフの刃はこぼれていた。
俺は仕方なく、
切れないナイフで、
ゴブリンの耳を削いでいった。
ゴブリンの耳は麻の袋に入れられた。
「じゃあ行くぞ」
コマは言った。
「埋めなくていいのか?」
俺は尋ねる。
「なんでゴブリンを埋めるんです?埋めるのは人間だけですよ」
ニコは不思議そうに言った。
「いや。なんか病気の原因とか」
「ゴブリンの死体が病気?
よくわかんねぇが、埋めても動物が掘り返して食うだけだぞ」
コマは笑った。
「こいつらの死体を食う?」
「あぁ。餌があれば、誰でも食うだろう。まぁ俺らはゴブリンは食わねぇけどな」
コマは俺の背中を叩いた。
生きているうちは厄介でも、死ねば餌。
その単純な図式が、妙に心地よかった。
俺たちは森を出る。
途中であちらこちらに骨が転がっているのを見つけた。
姿形はたしかにゴブリンのようだった。
ミイラ化したというより、
食われて白骨化した。
そんな雰囲気だった。
「どんなものでも、あぁなるのか?」
俺は呟いた。
「そうやな。大概のやつは、あぁなるわ。捕食者の少ないところやったら、稀にミイラ化してる奴もいるけど」
アラはそう言った。
「そうか……」
俺たちは川に着く。
街に入る前に、ゴブリンの血と臭いを洗い流すためだ。
コマは少し離れた下流のほうに、
ゴブリンの耳の入った麻袋を浸す。
流れてしまわないように、
石で袋を押さえて。
「あれは何をしている」
「あぁ、あれは血抜きですよ。耳は討伐の証拠ですが、持ち込む際に臭うんです。ギルドの中でも臭うので、できれば水にしばらく晒してから、うちは持ち込むようにしてるんです」
ニコは言った。
「臭うと受付嬢に評判が悪いからな」
アラは笑った。
「この方法。誰もやってなかったんですが、アラさんの友達の受付嬢が、耳の匂いが不評なんだよと教えてくれて、それでアラさんが、血抜きをしようと言い始めたんです」
ニコは言った。
「うちは、これをしてるから、若干良い仕事を回してもらってる。だからな。少し面倒でもやってるんだよ」
コマは言った。
「じゃあ、まずはゴブリンから奪った装備品を洗おう」
コマは作業にかかる。
草を刈り、束ねて、簡易なたわしのようなものを作る。
そしてそれで装備品を洗っていく。
原始的な方法だが、意外と汚れが取れた。
アラは薪を集め、
火を起こし始めた。
皆、川に入り、服や顔についた汚れを水で洗い流す。
街の川は汚かったが、ここはキレイだ。
皆こざっぱりした顔になっていく。
そして薪火の側に皆集って来る。
「ほら皆、食料だ」
コマが何か茶色のモノを配る。
気味が悪いな。
俺は皆の様子を見る。
茶色のものを口に含み、噛んでいる。
俺も一口噛む。
堅い。
そしてしょっぱい。
何だ。これはつまみのようなものか。
皆、一口を噛む回数が多い。
見よう見まねでしっかりと噛む。
ビーフジャーキー。
干し肉のようなものか。
俺はひたすら噛み続ける。
「これは干し肉か?」
俺は尋ねた。
「あぁそうだ」
コマは言った。
「なんの肉だ?」
「なんの肉? 干し肉だよ」
「いや。どんな獣からできた肉だって聞いてるんだよ」
「どんな獣? わからないな。
干し肉屋は、その時手に入る肉を、干し肉として売ってるからな」
コマはそう言った。
俺はずいぶんいい加減な世界だなと、
そう思った。
「ミックさん、ずいぶん変わりましたね。前とは違う人みたいです」
ニコは不思議そうな顔をした。
俺は源二で、
ミックとは別人なんだよ。
身体は同じだけど。
と言いたくもあったが、
どうしようか悩んだ。
「あの。俺も混乱していて、言いそびれてしまったんだが、俺は源二という名前で、ミックとは別人なんだ。
身体は同じだけど」
俺は言った。
「あぁ。そうなのか。どうりで雰囲気が違うと思った。じゃあミックはどこに行った」
コマは冷静にそう言った。
「驚かないのか?」
俺は尋ねる。
「いや……、そういう人もいますからね。冒険者とか、たまにいますよ」
ニコは言った。
「あぁそうなのか。俺ははじめての経験だし、驚いた」
「そりゃそうだろうな。源二だっけ、お前さんはどこから来た」
コマは尋ねた。
「ここみたいにゴブリンのいない世界」
「ゴブリンのいない世界って、冒険者はどうやって稼ぐんだ?」
アラは言った。
「俺は建築現場で足場を組む職人だった」
「足場を組むなんて、左官の仕事だろ」
コマは言った。
「前にいた世界では、左官は壁を塗るだけだった」
「それはすげぇな。足場を組むだけの仕事があるのか」
コマは目を見開いている。
「冒険者の仕事とかはあるんだよな」
アラは言った。
「冒険をする人はいる。でも魔物を討伐して、という仕事はないな」
「じゃあ、俺じゃ生きられないな」
アラは言った。
「アラはずっと冒険者なのか?」
「いや。イカサマ師とシーフをやっていた」
アラは答えた。
「イカサマ師?」
「あぁ。賭場でカモをひっかけて稼ぐ仕事だ」
俺は理解した。
賭場で勝てない理由を。
「なぁアラ。賭場で勝つ方法ってなんだ?」
「そんなの決まってるじゃないか。たった一つ。カモを見つけて、ひっかける。それだけだ」
頭が真っ白になる。
「ちゃんと勝負しようと思わないのか?」
「ちゃんと勝負?
そんなもの、胴元が勝つに決まってるだろう。
胴元もイカサマ師を雇ってるんだから」
俺はいままでギャンブルに賭けてきた金額を思い起こす。
年間250万は突っ込んできた。
10年だと2500万。
「イカサマしねぇで賭博に勝つ方法は?」
「胴元だな。それしかない」
アラはきっぱりと言った。




