日常
仕事終わり
ギルドの食堂。
俺らは、
それから、何度も何度もゴブリン討伐に行った。
そして来る日も来る日も、
ゴブリンを刺した。
刺しては川で水を浴び、
ギルドに戻る。
このくり返し。
がんばっている割に、
ゴブリンが減ることはなかった。
感情がなくなる。
というのは、こういう事だろう。
緑の血にも慣れた。
ゴブリンの死にぎわの顔も、
意味化しなくなった。
命を奪うことは、いくらでも正当化できる。
逆に、
命を奪うことを、いくらでも悪として決めつける事もできる。
仲間や他の住人が、
ゴブリンに殺されるより、
先に殺してしまったほうが良い。
そう思えた。
あの切れないゴブリンのナイフは、
道具屋では値が付かなかったから、
それなら俺がもらうと言った。
そして研ぎに出した。
「ただの汚くて切れないナイフを研ぎに出すより、
新しいのを買ったほうが良い」
そんな風にコマには言われたが、
始めての戦いで手に入れたナイフだ。
縁起物として、
持っておこうと思った。
俺はつくづく拾い物が好きな男だ。
神社で拾ったサイコロ。
あれを持っている時は、
ツイていた。
たしか安堂という雑誌記者に、
ケンカの仲裁に入ってもらったお礼に、
やったんだと思う。
人に恨みをかいやすい仕事だし、
刺されて死んでしまっていないといいが。
そんな事を思い出した。
ナイフは見違えるほどキレイになった。
そして切れ味もすこぶる良い。
ナイフの柄には、
ヒョウのような猫科の動物の柄が入っていた。
俺はナイフをコマに見せた。
「ただの汚いナイフだと思っていたが、細かい細工が入ってたんだな。
いいじゃないか。
いいもんかもしれない。
大事にしろよ」
そう言われた。
俺はゴブリンのナイフにあう鞘を探した。
道具屋、武器屋とイロイロ回ったが、
ピンとくるものはなかった。
ふと見ると、
コマやアラ、ニコもカッコの良い鞘を持っている。
「なぁ皆。その鞘はどこで買ったんだ」
「この鞘か? うちらはみんな特注品だ」
コマは自分の鞘をしげしげと眺める。
「特注品?」
「あぁ。だいたい討伐した中で、一番強い魔物の皮なんかを使うんだ」
アラは自分の鞘を見せた。
「じゃあ俺は……、ゴブリンか」
「ゴブリンの皮を使う人は見たことがないですね」
ニコは笑った。
コマもアラも釣られて笑う。
皆の鞘を見ると、雰囲気がかなり違う。
「みんな違うんだな」
「だいたい、とどめを刺したり、致命傷を与えたりした人が、その魔物の皮を使いますからね」
ニコは答えた。
「俺は大蛇の皮だ。このパーティに入る前に手に入れたものだ」
コマは言った。
「俺のはオークの皮。けっこう大きめのオークだったな」
アラはナイフの鞘に触る。
「これは蜂型の魔物ですね。丈夫なわりに軽いですよ」
ニコは鞘を俺に手渡す。
たしかに他のメンバーの鞘より軽い。
俺はいつ、
良い感じの鞘を手に入れられるのだろうか。
無性に、
鞘が欲しくなった。
あれは、冒険者の勲章だ。
そう思った。
俺はギルドの中を見渡す。
たしかに、
皆鞘が違っていた。
「特注品か……」
俺は呟いた。
「おいおい、聞いたか。片方の角が折れたミノタウルスが出たって」
遠くで声がした。
皆の表情が凍り付いた。
「どうしたんだ」
俺は尋ねる。
「ヤマを殺った相手だ」
アラは言った。
コマが立ち上がり、
ミノタウルスの話をしている男に近づく。
「おい! ミノタウルスはどこにいる」
コマの声がギルド中に響く。
「し、知らないよ。噂なんだよ。そういう」
男は明らかに怯えている。
「お前は知らないか?」
隣の男に聞く。
そうして、
コマはギルド中を聞いて回ったが、
ミノタウルスの居場所を知るものはいなかった。
「しかし、気味が悪いですね。
ミノタウルスは、ダンジョンのあの階層では出てこない魔物。
どうなっているのでしょう」
ニコは言った。
……
それからも、毎日俺らはゴブリン討伐に出かけた。
コマはミノタウルス探しを希望していたが、
皆の反対で断念していた。
コマの表情は、
少し曇っていた。
俺は自分が弱いことに、
申し訳なさを感じていた。
早くゴブリン討伐に慣れれば、
ミノタウルスを討伐することもできるだろう。
そう思った。
そして、
半年。
すこしずつ役に立てだしてきた。
しかし半年経っても、まだ新人扱いだった。
俺はアラに背後から忍び寄る技術を教わった。
「背後から忍び寄るのは、イカサマと同じだ」
そうアラは言った。
「どういう事だ」
「まず一つ目は、相手に気が付かれないように静かに行動する」
「なるほど」
「あとは敵を他に集中させる事だ」
「どっちが良い?」
「どっちが良いって事じゃない。それぞれバランスがある。両方だと思っとけ」
それから、
俺はゴブリン討伐の傍ら、
アラを観察し続けた。
アラはつねに周りを観察していた。
そして、
何かを見つけると、
何も言わずに消えた。
そして、
大体は敵を背後から襲い続けた。
しかも、
背中から切りつける。
そんなやり方ではない。
急所を一撃。
作業のように、
淡々とこなした。
俺は気が付いた。
他に集中させる。
その他とは、俺らの事だった。
アラにとって俺らは囮だった。
「なぁアラ。
お前の戦いを見てると、俺らが囮になっているような気がするが」
俺は軽く尋ねた。
「おいおい、囮というのは、言い方が悪すぎる」
アラは笑った。
「言い方が悪いだけで、まんざらハズレでもないってことか?」
「まぁそんなところだ。戦場ではな。なんでも利用する。それが鉄則だ」
アラは遠い目をした。
ある日、
俺は木に登ってみたくなった。
ふと鳶の血が騒いだのだろう。
俺はいきなり木に登りだした。
「おいおい。何をしてる。危ないぞ」
コマは言った。
「大丈夫だよ。髙い所は慣れてるんだ」
俺は言った。
木は俺が昔に登ったことのある木と同じような感じだった。
俺は暇ができたら、
木に登り遠くを眺めた。
木登りを始めて数日経ったころ。
「なぁ、木に登って、ゴブリンがどこにいるかわからないか?」
とコマに言われた。
俺は木に登り確認する。
「他の木が邪魔で、完全にとは言えないが、近場の動きはわかる」
そう答えた。
それから、俺は索敵の役割も任されるようになった。
鳶の技能が生かせるのが、
自分を肯定してもらったみたいで、たまらなく嬉しかった。




