ゴブリンの巣
冬前のある日のこと。
俺たちは、
他の冒険者パーティと組み、計5組で、
少し遠方の森へ遠征した。
その森には、
4~5のゴブリンの巣があるらしい。
秋は、
冬眠をする獣が、
冬を越すために、
多量のエサを必要とする。
ゴブリンは冬眠すると聞いたことはないが、
動きは活発化するらしい。
今のうちに、壊滅しておきたい。
そういう事情らしい。
討伐前、
コマはこう言った。
「ここには巣が沢山ある。俺ら全員で一つの巣ずつ潰せば、消耗は少ない」
俺もその案には賛成だった。
しかし、
「それだと手柄を横取りされる恐れがある。一つのパーティが一つの巣を落とす。これでやろう」
という意見が出て、
コマの意見は潰された。
俺たちは南側から攻めることとなった。
俺は木に登り索敵を行う。
半時間程探し、ゴブリンの巣が見つかった。
数はおよそ50ほど。
囲まれたら、まずい。
俺たちは周囲のゴブリンを削いでいった。
討伐は順調に進み、
俺たちの分の仕事は完了した。
ふと息をつき、
俺たちは装備品と、耳の回収を行う。
一通り装備品と耳の回収を終えた時、
(うぎゃー!)
大きな声が聞こえた。
「あれは人の声か?」
俺は木に登り、
叫び声のした方を確認する。
(ばきばきばき)
木が折れる音がする。
なんだあれは?
俺は目を凝らす。
人が吹き飛び、
ゴブリンが空を飛ぶ。
3mはあろうかと思う。
大きな角の生えた人型の化け物がほかのパーティを襲っていた。
手にはゴブリンを持ち、
冒険者に投げつけている。
「どうした?」
コマが叫ぶ。
「大きな角の生えた人型の化け物だ。でかい。3mはある」
俺は答えた。
「角は片方だけじゃないか?」
コマが尋ねる。
たしかに、片方だけだ。
「そうだな。たしかに片方だけだ」
俺は答える。
「行くぞ!」
コマは叫び、アラとニコも荷物を置き去りにして、音の方向へ向かう。
まさか。
あれがミノタウルス。
俺は嫌な予感がした。
あんな化け物と戦う?
想像しただけで、吐きそうになった。
気が付くと、
他の冒険者パーティも、
ミノタウルスのほうに向かっている。
俺は3か月前に張り出された依頼書を思い出した。
「ミノタウルス 討伐報酬1000G」
100Gで1年生活できるから、
一体討伐しただけで10年分だ。
そりゃ討伐したくなるのもわかる。
俺は木を降り、
皆のあとを続く。
ミノタウルスの周りは、
倒れた人とぐちゃぐちゃになったゴブリンで無残な有様だった。
立っているのは、
コマ、アラ、ニコの3人だけ。
他は死んでいるわけではなさそうだが、動けるような様子ではなかった。
ニコのファイアボールは、火の粉でも払うかのように、効かない。
コマの一撃もまったく入らない。
アラは隙を伺っているが、間合いに入ることができていない。
やばい。
完全に終わる。
俺は焦った。
そして思い出す。
俺が死んだってことを。
なんで今なんだ。
俺はそう思った。
そうだ。
俺はパチンコで10万円すった日、
やけ酒を朝方までくらい、
もうろうとしたまま、現場に向かった。
そしてその日は猛暑で、
立ち眩みを起こし、
落ちて亡くなった。
安全帯をつけていたのに、
フックを足場につけるのを忘れていたんだ。
そうか、これは二度目の人生なんだ。
俺は強く生きたいと思った。
そして、
仲間を見捨ててまで、生きたいとは思えなかった。
あいつらがいなければ、
俺はまだ賭場で人生を捨てていた。
(うごぅおー)
ミノタウルスは、怒りで興奮している。
俺はミノタウルスの背後の木に登り、チャンスを伺う。
俺は鳶だ。
高所に恐怖はない。
アラが背後にいる俺に気が付く。
アラは前に突っ込む。
ミノタウルスは思わず、後ろにのけぞった。
今だ。
俺はミノタウルスの肩に飛び乗り、
ゴブリンのナイフを掴み、
その首に、すーっとナイフを入れた。
前日砥ぎに出してすぐだ。
いとも簡単に、
ナイフが入った。
鮮血が飛び散る。
(うごぅおー)
ミノタウルスは暴れる。
俺は振り落とされ、ゴブリンの死体の山の上に落ちた。
ミノタウルスはしばらく暴れもだえ、あちこちを破壊したあと、
どすんと大きな音をたて倒れた。
「よかった」
俺は力が抜けた。
辺りは血まみれだった。
「ウォー」
なんて叫び声は聞こえなかった。
皆がボロボロで、
生き延びたのが奇跡のように、
ただボーっとなっている。
アラは俺の肩を叩いた。
「今度は俺を囮にしやがったな」
アラは笑った。
「まぁそんなところだ。戦場ではな。なんでも利用する。それが鉄則だ」
俺は遠い目をした。
勝利はとても、
あっさりとしていた。
勝どきの声もない。
ファンファーレも鳴らない。
パチスロのように派手な演出もない。
射幸性を煽らない。
ただ淡々と、
勝利は訪れた。
俺は特別なことは何もしなかった。
ただ自分の持っていたモノを使っただけだ。
鳶の技術。
そして、
ゴブリンのナイフとアラのイカサマ。
日が傾き始めた頃、
ようやく冒険者ギルドから応援が到着した。
俺らは怪我人こそ出したが、
誰ひとり欠けずに戻った。
ミノタウルスの討伐報酬は、
通常討伐したパーティが総取りする。
本来なら、
全員でわけるところが、
ゴブリン討伐をする際に、
個別のパーティごとでやると決まったので、
俺らのパーティが総取りできることとなった。
ただ、皆ボロボロだ。
しばらく働くことはできない。
コマは言った。
「お前さえよければ、皆でわけないか?」
アラもニコも頷いている。
俺は鳶の頃を思い出す。
怪我をした鳶は……、
仕事に出られない。
家族は路頭に迷うことになる。
そんな光景を何度か見た。
「ミノタウルスの皮は俺のもんだよな」
俺は言った。
「あぁもちろんだ」
コマは笑った。
「じゃあ。みんなでわけよう」
俺はそう言った。
俺は冒険者ギルドに戻る途中、
夕焼けを見ながら考えた。
俺は博打で沢山失った。
時間、金。
そして信頼も失ったと思う。
でも俺は、
博打で得た事もある。
それは自分の信じたことに賭ける勇気。
これがあれば、
苦しくったって、生きていける。
自分を信じれば、道は開ける。
俺は自分を信じて、
自分に賭けようと思った。
全ての人が俺のことを信じなくても、
俺は自分を信じて、
自分に賭けようと思った。
ただ一人の博徒として。
ただ一人の冒険者として……。
俺は自分の人生にベットする。
END
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
この作品は完結していますが、
反響があれば続編を書く可能性があります。
ブックマークしておくと、もし更新された場合に追いやすくなります。
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