第543話結局戦闘に結び付ける
そして、今度はウィリィンが伴奏に合わせて歌う番である。
ウィリィンは先ほど聞いた音程に合わせて、歌声を響かせる。
『声が小さい』
『もっと、感情を込めて』
『抑揚が足りません』
『ここは盛り上がるポイント』
『ここで息継ぎ』
『ここは息継ぎせずにまとめて』
『その調子』
『お手本をもう一度聞いてみましょう』
『身体を無暗に動かさない』
『お腹から声を出して』
こんな感じで怒涛のように指示を受けながら歌声をより聞きごたえのあるものへと変えていく。
喉を痛めないように水分をあたえられるものの、基本的には歌って、指示を元に再度聞いて、歌い直す、これの繰り返しである。
ウィリィンの耳と再現する能力はやはり凄まじくハイスペックであり、基本的に一度聞いただけで、ほぼ完ぺきに模倣することができる。
ただ、ウィリィンにはあまり歌の良し悪しが分からない為、何がいけないのかよく分からない部分も結構あり、いわゆる盛り上がりであったり、敢えて抑える部分といった抑揚が、音量の大小としてしかとらえられていないのだ。
そのため、真似ができていてもこれだけの指示が飛んでくるわけで、最初の方こそ、イライラしてしまったものの、その指示をうまく反映させていくと、自身が歌っている歌に深みが生まれてくるのが感じられるようになってきた。
「なるほど・・・。
やっぱ奥が深いな」
今ウィリィンが行っているのは指示に合わせ、お手本となるような歌声にチューニングをしてもらうところまでであり、ゴールを教えてもらい、更にその上で道筋について軌道を修正居てもらい、なんとかゴールに辿りつけるといったレベルである。
野に対してプロと呼ばれるような人たちはどうすれば音程が良くなるといった内容を自身の感性を元にゴールを自身で見出し、そこまでをウィリィンと比較にならないような速度で突き進むような人のことを指すのだろう。
「でも、そういえば、キュス姉様にライブに連れて行ってもらった時は感情を音楽に乗せるのはうまくできていたんだっけ・・・。
記憶ないけど」
能力はあっても才能は無さそうと考えていたウィリィンであるが、オルキルのライブでの出来事を思い出す。
ウィリィンは暴走状態にあったため、当時の記憶はなく、後から周りの人達から話を聞いただけである。
その際は悲しみの感情を音楽に乗せ、オーラと魔力を複合された冷気が会場中を襲ったわけであるが、今、歌う中ではあまり共感というか、ノッてきて、感情が揺さぶられるような感じはない。
「リズムに乗っている感じはあるんだけどな・・・。
やっぱり感情まで合わさっていた方が戦闘にまで応用が利きそうなんだけどなぁ。
ああ、歌詞が共感できないのが原因か」
ウィリィンは原因に思い至る。
今歌っている歌は朗らかな雰囲気で戦闘を楽しむ歌であり、恐らくだが、童謡の類として歌われる、誰もが幼少期に聞き、覚えるような曲なのであろうが、ウィリィン的には朗らかと戦闘という2つの要素が致命的にアンマッチであり、朗らかな曲調にノッてくることはあっても、完全に歌詞が共感できずに死んでしまっているのだ。
まあ、それでも持ち前の能力で求められたように歌声を出してはいるものの、感情までは表面上は同調しているように見えてもそこまでである。
「となると、もう少し、共感できる曲ならもう少し話は変わるかも。
呪いと祝福を作る際のスイッチに良さそうではあるし、ちょっと研究してみよう」
今、ウィリィンは呪いや祝福を即席で生み出す際に歌を起点、スイッチにする方法を考えて居るわけであるが、ウィリィンが祝福を作る際に実際に身体の一部を湯につけたりしたのと原理的には同じだ。
感情に対する没入が強ければ強いほど強く、安定した呪いを生み出すことが可能なわけで、歌は声に出して、感情を表すことができ、他にも自身に聞こえる声や、音の振動自体が身体を振るわすなど、多方面から感じることができる。
となれば、しっかりと練習して、イメージを十全に持つことができれば、いいものが作れそうである。
それに声自体に魔力を乗せることで攻撃などにも使用できるため、同時に複数の行動を準備できるだろう。
「まあ、その代わり、歌で何をしようとしてるか、予測されちゃうだろうけどね。
あんまり歌っている内容と外れたことをやろうとすると、効果自体が弱まって本末転倒になりそうだし。
いや、防音すればいいし、やりよう次第か」
感情を乗せる前提である以上、歌の内容はどうしても歌詞に引っ張られる。
歌詞を無くした場合でも曲調などから推察はされるはずである。
それに対して、防音できる結界を自身の周りに展開することで聞こえなくさせることは可能であるだろうが、そのために魔法を別途用意する必要性が当然発生するわけで、それに見合うだけのリターンを得ることができるのか、それが論点となってくるだろう。
そんな感じで、考えつつも歌っていると、授業終了の合図が鳴り響いた。




