第534話頬
「お疲れさまでした。
ギャマナ部長、頬、切れておりますよ」
「っ、ほんとだわ。
ちゃんと全部防ぎきったつもりだったのだけれど、最後の攻防の時にちょっと掠めてしまったみたいね」
ギャマナは頬に手を当てて、自身の頬が切れ、出血していることを認識する。
なんと、ウィリィンの攻撃を防ぎきったと思われたギャマナであったが、実のところ防ぎきれてはおらず、集中していた影響でナタトに指摘されるまで気づいていなかったが、攻撃のうち一つが掠めていたようだ。
まあ、クリーンヒットというわけではないので、ギャマナが最初に提示していたご褒美が与えられるわけではないのだが、完封するつもりであったギャマナにとっては一本取られた形である。
「掠っただけですので、ギャマナ部長の勝利に変わりはありませんが、観察眼に作戦の組み立てに実行力、どれをとっても私の予想を超えていました。
私が同条件で戦った場合、安定して勝つことは難しいでしょう」
ナタトはウィリィンの戦闘に対して手放しの賛辞を述べる。
「まあ、ナタトは私みたいに色々な属性というよりは空間魔法特化だもの、魔力量を制限した出力しかできないとなると、手数で押し切られるでしょうね。
ホント、戦ってみて感じたことだけど、もっと手数が増えればこの子はどんどん化けるわよ。
あとは地力ね。
魔力、構築速度、展開量とかはどうしても地道に何度も繰り返して伸ばしていくしか無いもの」
ウィリィンの魔法の基礎となる部分、構築速度等は当然同世代に比べると頭1つ、いや2つぐらい抜けているわけであるが、魔法部のトップを担うギャマナ達に比べてればまだまだ遅く、拙い。
「それで、ご褒美についてはどうなさるおつもりですか?」
「それは部屋に戻ってからにしましょうか。
ウィリィンちゃん、回復は済んだかしら?」
「は、はい」
ウィリィンはギャマナによって打ち負かされた後、少しの間気絶していたが、ナタトが戦いの終了を伝えたぐらいで目を覚まし、話を聞きつつも回復に努めていた。
「まだちょっとダメージが残ってそうね、服も汚れてるし。
はい、これでいいでしょ。
んじゃ、戻りましょう」
「っ、ありがとうございます」
ギャマナはウィリィンに回復魔法と服、身体の汚れを取る魔法を使って綺麗にし、そのまま抱えると、杖を取り出し、自身と一緒に乗せて運んでいく。
ナタトの先導の元、元の部屋へと戻ると、先程の席へと降ろされる。
そして、ギャマナが向かいの席に座ったタイミングでナタトが紅茶とお菓子としてクッキーをテーブルに運んでくる。
「戦いの後はやっぱこれよねー。
ウィリィンちゃん、お話は食べてからにしましょ」
「は、はい」
ウィリィンは紅茶を飲み、クッキーを食べる。
どちらも甘過ぎなくて食べやすく、口の中にふわっと素材のフレーバーが広がり、戦いの後の疲れが癒される。
ギャマナはそれほど疲れてはいないはずであるが、既に指輪を外し、クッキーと紅茶でリラックスしている。
そして一通り食べ終わり、満足したのか紅茶のカップを置いてウィリィンの方を向く。
「さてと、ウィリィンちゃん、さっきの戦い、素晴らしかったわ。
私が課している制約から、的確に戦略を立てて、行動に移す一連の動き、将来が今から楽しみよ」
「良いものを観させていただきました。
特に最後、余裕を崩さないギャマナ部長が真顔になっていましたからね、中々見れるものではございませんよ」
「あら、やけに達者な口ね。
まあ、今日は気分がいいから見逃してあげるわ」
ギャマナはナタトの場を和ませるのが目的ではあったと思うが、挑発的な発言に対しても手をひらひらと振って聞き流す。
「っと、ご褒美の件ね。
ウィリィンちゃん、弟子になるつもりはないかしら?」
「弟子・・・ですか?」
意味合いとしては分かるが、どういったことをすることになるのかは想像が今一歩できない。
そもそも、何か制度として決められているのだろうか。
「っ、確かにこの展開は考えられましたが、ギャマナ部長、あなた何回か弟子を取っていますが、何人も途中で辞退されているでしょう?
これではご褒美にならなくなってしまいますよ?」
「なによ、そんな私の下で学ぶのは罰ゲームみたいに言って」
何やら何人も辞退したや、罰ゲームやら不穏なワードが飛び交っている。
ウィリィンは何をやらされそうになっているのだろうか。
「なぜって、ギャマナ部長。
意識はされているのかもしれませんが、自身の理解力が高すぎて、完全に弟子にとっている子が置いてけぼりになっていて、それが積み重なった結果、いたたまれなくなって自ら身を引いているのですよ?
それにこれは理由の1つに過ぎません」
ナタトが弟子として取った人たちがなぜ辞退されてしまうのかについて言及する。
まあ、先ほどの戦闘、魔道具のグループで見た部員達の態度から慕われているのは分かっていたのでこのようなマイナスの表現をするのかは不思議に思っていたが、ギャマナの能力が高すぎることが問題であったようだ。




