第531話ハンデがあっても
「私としては事務作業が面倒になってきたから、早く後任に任せてしまいたい気持ちもあるのだけれど、ね」
「・・・これでも事務作業はほぼ私が対応しているのですけれどね?
それに部長だからこその特権もありますでしょう?」
ナタトが笑みの中に静かな怒りを乗せつつ、ギャマナに対して述べる。
確かに、結構気ままに振舞っているところはある上、管理に関してはナタトがほぼ行っているといっても過言ではないようだ。
「ま、ナタトも負けるとは全く思っていないでしょう?」
「そうですね、ただ、私の立場からするとご褒美については納得していないという姿勢は崩すことができませんので」
ないとは思うが、もしギャマナがわざとウィリィンにわざと負けた場合にナタトがご褒美について認めていたという話になると本当に辞めると言い出した際に面倒なのだろう。
あくまでギャマナ個人として言っているだけであり、副部長ナタトは納得していないという体を取った方が反論もしやすい。
まあ、ナタトもギャマナが威力を絞ったうえで片手しか使わなかったとしても、ウィリィンが勝つ可能性は無いと考えているというわけであるが。
「うーん、そうするとなんだか報酬をぶら下げただけみたいになっちゃうわよね。
ま、そこはウィリィンちゃんの動きを見て、終わってから考えることにしましょ。
大丈夫、悪いようにはしないわ」
ウィリィンの動き次第で報酬のグレードが切り替わるようになったようだ。
部長としての業務にも支障が無いようにはするようである。
まあ、ウィリィン的には元から手に入るものとも考えていないので、思うことはない。
「では、私が戦闘開始の合図を取り仕切らせていただきます。
お二人とも準備はいいですか?
では、はじめっ」
ナタトの合図により戦いの火蓋が切って落とされた。
「速攻っ」
ウィリィンは炎を纏い、最高速度でギャマナに対して詰め寄る。
「あら、いい動きね」
「っ!?」
ウィリィンはギャマナが飛ばしてくる石の礫を間一髪で避ける。
その後も連続してウィリィンを的確に狙ってくるので、ギャマナの周りを旋回するように避ける。
「攻撃の予備動作が短すぎるっ」
基本的に魔法は構築し、狙いを定め、放つという工程が必要になるわけであるが、ギャマナの場合、放つまでにかかる時間が認識できないぐらいに短く、それに加え、その予備動作が一切読めない。
そのため、ウィリィンからすると急に虚空から自身を狙う攻撃が飛んでくる上、ウィリィンの動きを正確に読んで急所かつかわしにくい場所を狙ってくるので、ギャマナに詰め寄るのをある程度放棄して、大きくかわす必要がある。
それに今はギャマナとまだ距離があるので、見てからかわすことに成功しているが、これ以上近づけば、ウィリィンが反応するより早く、攻撃が当たることとなるだろう。
「あら、詰めて来ないのかしら?」
「くっ!?」
ウィリィンは諦めて一旦ギャマナから距離を取る。
ウィリィン的には油断している最初が一番好機と考えており、この瞬間にできうる限り距離を詰めて攻撃を物理魔法どちらも総動員して飽和攻撃をしかければどうにか攻撃を与えられるのではないかと考えていたが、厳しいようだ。
ダメージ覚悟で押し切る手も考えたのだが、まだ戦いは始まったばかりであるため、被弾前提で動くには時期早々と判断し、距離を取ることにしたのだ。
そして、ウィリィンは次なる作戦を実行する。
「今度は魔法による飽和攻撃ね。
濃密な弾幕だわ、素敵よ」
ウィリィンは自身の周囲にありったけの魔法を待機させ、ギャマナに対して一気に放った。
全て、威力は散らして設定しており、全てギャマナの制限している威力では一発では相殺できないようにしている。
「・・・まじかっ」
ギャマナは的確に魔法同士を誘爆させ、飽和攻撃を防いでいく。
ならばと、それぞれの魔法が干渉し合わないように弾幕の密度を減らし、その代わり全ての魔法に対しての1つ1つ相殺を強要してみたが、それも相殺する際にウィリィンの魔法を利用し、周囲を巻き込む力を増幅させることでこの問題を解決して見せた。
これ以上弾幕の密度を減らしてしまうと、単体ごとに処理をしても間に合ってしまうため、意味が無い。
それに、ギャマナが防戦一方かと言うとそうでもなく、油断していると誘爆した際にウィリィンのところまで余波が飛んできていたり、石やら風の刃などが飛んできており、大きなダメージとまではなっていないものの、ウィリィンへのダメージは蓄積され始めている。
「ここまで、的確に見抜いてくるか・・・」
ここまでウィリィンの攻撃が届かないのはギャマナの驚異的な観察眼にあり、ウィリィンが魔法の構築を終える短い時間の間で、魔法の構成及び、脆い部分などを的確に見極め、それに合わせた魔法を放ってきているのだ。
ウィリィンも2重構造にしたりして弱点を誤認させるように対策しているものの、そのことごとくはギャマナが感心した様子を見せるだけで、通用している様子が無い。




