その四
「どっちを選べばいいんだ」
こちらを振り返った教頭が問う。
「それは教頭が決めることです」とぼくはいう。
教頭は迷った挙句、一の選択肢にカーソルを合わせ、クリックした。
──嫌だ。俺はあいつと戦う。
しかし、主人公である田中英雄はその選択肢を拒む。
「……なんだ、これは?」
困惑する教頭の間抜け面に、ぼくは笑いのツボを刺激されてしまっつた。
教頭は苛立たし気に、何度もマウスをクリックするも、
──嫌だ。俺はあいつと戦う。
──嫌だ。俺はあいつと戦う。
──嫌だ。俺はあいつと戦う。
──嫌だ。俺はあいつと戦う。
──嫌だ。俺はあいつと戦う。
──嫌だ。俺はあいつと戦う。
十度目のクリックで、ついに田中英雄はあきれた口調でこういった。
──これは俺の物語だ。お前みたいな腰抜けに指図されてたまるか。いいから黙って、二.共に戦う。の選択肢をえらびやがれ!
「……なあ、漆原」
怒りに肩を震わせた教頭が言う。
「……こいつはわたしのことをコケにしているのか?」
「仕方ないですよ。その男、覚悟決めちゃったみたいですから」
ぼくの代わりに河野が答えた。
「これが、あなたのKanon問題に対する返答ってわけね」
半ば呆れた顔をして九条が笑う。
「──ああ、これがぼくの選択だ」
教頭の手からマウスを奪い、ぼくは二.共に戦う。の選択肢をクリックする。
すると満身創痍の二人は、ぼくを見る。よくできましたと不敵な笑みを浮かべ、手を取り合って空を飛んだ。
二つの覚悟を待ち受けるのは、大いなる敵だ。大いなる苦難であり、挫折であり、そして破滅であるかもしれない。
いつかの九条の言葉を思い出す。
「はじめに忠告しておくけれど、これは誰かに誇れる仕事ではないよ。穴掘りみたいな活動になると思う。真剣になればなるほど、カースト制度の下へ下へと沈んでいくことになるだろう。おそらくみんなの笑いものになって、社会的には死んでいく。もしかすれば、その挙句になにも見つからないかもしれない。夢が冷めたあとに急いで地表にでたってあとの祭り、一生を棒にふってしまって、きっとこの手にはなにも残らなくなる」
──それでも、思うんだ。
ただぼんやりとした現実行かされるなら、
夢に殺される覚悟を決めたいと。
だって、ぼくに必要なのは、ありきたりな幸福ではなく、きっとぼくだけが掴み取れる不幸なのだから。




