その三
これは、ヒーローの物語だ。
そして、選択の物語でもある。
主人公である田中英雄の夢は、ヒーローになることだった。
それは、子供の絵空事のような夢だった。周囲からは馬鹿にされ、気づけば英雄自身もいつの間にかその夢を忘れてしまうような、くだらない夢だった。
死んだように毎日を生きる英雄は、ある日ひとりの転校生と出会う。
──わたしの夢は、ヒーローになることだ!
その女の子は、
向こうみずともいえる実直さをもち、
高飛車かつ傲慢で、
おまけにとぐろのように性格のねじ曲がった女の子だった。
──お前も手伝え! 田中英雄!
その女の子は、
深紅のマフラーを首にさげ、
腰にはお手製の変身ベルトを身に着けた、
とても、あたまのおかしな女の子だった。
一目見て、英雄は思った。
こいつとは、知り合いにならない方がいいと。
今後の学生生活を平穏無事に送りたいのであれば、無視を決め込むのが賢いやり方だと。
しかし、結局のところ田中英雄は伸ばされた手を掴んでしまうのであった。
なぜかって?
なぜだろう?
それは、英雄にはわからない。
──結局のところ、田中英雄は伸ばされた手を掴んでしまった。そして、あたまのおかしな女の子がヒーローを目指す姿をずっと隣で見守っていた。
徒手空拳で巨悪へと立ち向かい、膝や向こうずねに擦過傷をつくって、今日も世界を救ってやったぞ、と勝鬨をあげる彼女の姿は、街ではもっぱら嘲笑の的だった。
だって、彼女が敵と呼ぶものは、誰の目にも見えはしなかったのだ。
もしかしたら、ほんとうは見えていて、見て見ぬふりをしている可能性も少なからずあった。
賢明な判断だと、英雄は思った。
立ち向かわなければ、傷を負わずにすむ。
いっそのこと諦めてしまえばいいと、誰かがいった。そうすれば、確かにこころは苦しくなるかもしれないが、致命傷にならずにすむ。いずれは、諦めてしまったことだって忘れることができるだろう。失うことが恐ろしければ、そもそもはじめから価値のないことだったと笑い飛ばしてしまえばいいのだ。
しかし、彼女はそれを許さない。
なぜかを、英雄は知っている。
なぜなら、彼女のいう敵こそが、まさにそれであったからだ。
戦いは熾烈を極めた。
頬に青たんをこさえ、肩でぜいぜい息をはき、そしてついに彼女は地面に膝をついてしまった。戦うのをやめなければ、彼女を待ち受けるのが破滅であることは、火を見るより明らかだった。逆をいえばそれは、戦うことさえやめてしまえば、彼女の命が助かるということを意味していた。諦めてしまえ。その一言で彼女は救われるのだ。
一.諦めてしまえ、という。
二.共に戦う。
天に浮かぶ異形の敵をバックに、二つの選択肢が表示される。
決断の時、だった。




