↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
38/52

その六

そして、靴が脱げた。

より、正確にいうならば、靴からぼくが脱げたというのが適当なのだろうか。


前のめりに倒れてなすすべもなく額をうつ。

「なんだってんだよ」

 顔をしかめて後ろを振り返る。

 中履きが行儀よく地面に並んでおり、その靴底が床に接着されていた。

 だれかの悪戯などではない。廃部騒動のやり取りの最中(さいちゅう)に、河野がこぼしたキャラメルマキアート。それを誰も掃除していなかったというのが今回の転倒の原因だった。

「無理もないよな」

 零れたミルクを嘆くひまのないくらい、次から次へと恣意的な災難が続いたのだ。

「……いけるか?」

 ぼくは、おそるおそる靴の先を掴んで靴底をもちあげていく。ベリベリベリベリと、靴底が傷ついているんだか床板が傷ついているんだか判らない嫌な音がして、奮闘すること約数分。ぼくは、やっとのことで床板から靴を引きはがすことができた。

「あーあ」

 思わず声がでる。

 床には、くっきりとぼく自身の行いをとがめる何かのしるしのように靴跡が残ってしまっていた。まさかワックスまで剥離してしまったのか、爪で強くこすっても簡単には消えてくれない。こんなことしている場合ではないことは重々承知している。しかし、弁償だ、弁償だ、とこころのなかの自分がはやし立てるものだから仕方がない。

 

 そしてふと、ぼくの視界にそれがはいった。


 背中に冷や水をかけられた、というにはただの比喩でしかないが、ほんとうにそんな気持ちなって背筋がピンと伸びた。むしろ、ほんものの冷や水をぶっかけられた方がまだ、落ち着いたリアクションが取れていたんじゃないかと思う。

 

しかし、そんなぼくをよそに世界はまわる。日は勝手に昇っていくし、頼みもしないのに山の稜線に沈んでいく。そして、いつしか透徹とした星が瞬きはじめる。誰かの長年の恋が成就することがあれば、誰かが受験に失敗したり、エロ本をひろったり、横に生えた親知らずを抜歯されたりしている。ぼくが抱える問題が解決される前に、別の朗報が飛び込んでくることもある。


戸口にたった里崎先生はいう。

「漆原。九条の自宅謹慎がとけたぞ」

 ──また、みんなで部活ができるんだぞ、と。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。