↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
34/52

その二

いつまでも青春ごっこに興じる時間的猶予はぼくたちにはなく、まずは状況を整理するところからはじめた。

「俺たちの目標は、あと一四間以内にノベルゲームを完成させることだ」

「だけど、それには九条の力が必要不可欠だとぼくは思う」

「同感だ。部長をぬきにしての完成はありえない。となると、」

「まずは、九条を学校に連れ戻す」

「だが、しかしどうやって」

 二人して投了一歩手前の将棋棋士みたいな顔して、考え込む。

「九条が不純異性交遊なんてしていないことを前提に、話を進めてもいいか?」

「当たり前だ」

「OK。そもそもさ、どうして学校あてにあんな手紙が届いたんだろう? 九条っていっちゃなんだけど、もともと他人と深く関わらないタイプだろ? それこそ、あいつに恨みをいだく人間がいるなんてこと自体考えられないが」

「まあ、友達の絶対数が少ないぶん、犯人がしぼりやすいとも考えられるな」

「教頭とかは? あいつ文芸部の部室明らかに狙ってただろ。それにほら、九条のことだってどことなく目の敵にしていたし」

「残念だがその線は薄いと思う」

「どうして?」

「たしかに、九条の心象は悪かった。教頭も、もしかしたら赤っ恥の一つや二つかかせたいと腹のなかで考えていたかもしれないな。しかし、あのひとも教頭という役職をもった社会的人間だ。部室や活動予算欲しさに、ここまでリスクある手は打つかといわれれば、それは考えずらい」

「なるほどね」

「俺たちは別に、安楽椅子探偵じゃないんだ。犯人が誰かに焦点をあてるより、どうやって九条の潔白を証明するかについて話し合ったほうがいいだろう」

「ううん」

 ぼくは頬に手を添えて唸る。

 九条が無罪と証明する方法か。

「簡単に言えば、四日前九条がホテル街と別の場所にいましたってことを証明できればいいんだよな」

「そういうことになるな」

 簡単に言ってみたものの、それが難しいからぼくと河野はこうしてあたまを悩ませているわけだ。ぼくと河野が口裏をそろえて、九条をどこそこで見かけたと声高に叫んだところで、物的証拠が揃わない限りはそれも徒労に終わることだろう。

 ぼくは立ち上がり、部室をぐるぐる歩き回る。

 そして、試験前夜に何を思ったか部屋の掃除をはじめる受験生よろしく、さきほどの殴り合いで床に散らばった小説の束を拾い集めた。

 しかし、元通りに整頓することは不可能だろう。小説は五〇音順に並べればいいのだろうが、流石に付箋代わりのレシートをもとの場所に差し込むことは至難の業だ。

まさか、レシートもあいつなりの美意識で挟めている可能性だってある。例えば、この小説にはこのコンビニのレシートを使おうという具合に。あるいは、商品を購入した時間帯順にレシートを挟めていっている可能性も、

「待てよ」

 と、ぼくは言う。

言って、自分の独白をはじめから指でなぞるように辿りなおす。

「どうした?」

「河野、いまぼくなんて考えてた?」

「それは、読者に聞け」

 頓珍漢な受け答えをメタ発言でかえされる。

 金保留をあとにひかえたパチンカーのような胸の高鳴りに、自分自身が困惑する。

「しかし、元通りに整頓することは不可能だろう。小説は五〇音順に並べればいいのだろうが、流石に付箋代わりのレシートをもとの場所に差し込むことは至難の業だ。

まさか、レシートもあいつなりの美意識で挟めている可能性だってある。例えば、この小説にはこのコンビニのレシートを使おうという具合に。あるいは、商品を購入した時間帯順にレシートを挟めていっている可能性も、」

独白をコピペしてみる。

字数をかせいでいるのではない。

そんな惰性で働く外注ライターみたいなことをぼくはしない。

「マジか」

 そして、ぼくは思い至る。

まるで、つむじの上に豆電球でも浮かんだ気分だ。

「おい、河野!」

 レシートをドル紙幣のように掴みあげ、ぼくは叫ぶ。

「このなかを血眼になって探せ! 商品名はなんでもいい! それが、肉まんでも、少年ジャンプでも、生理用品でも、厚さ0.02ミリのコンドームだって構わねえ! 大事なのは印字された日付と時間だ!」

 察しのいい河野はすぐにぼくの意図に気づく。

「四日前の二十一時前後だな!」

 ぼくは頷く。そして、部屋の三方を囲む本棚をざっと見回した。小説に、設定資料集に、画集に、アニメ。その全部をひっぱりだして、中身を確認する必要はないはずだ。

 最近あいつが読んでいた書籍を思い出す。

 部屋の隅に座り込んであいつが読んでいたのはそう、パソコンパラダイスのバックナンバーと安倍吉俊の原画集だ。

まったくぼくは、ほんとうにどうでもいいことばかり覚えている。決して普段から、九条のことばかり目で追っているわけじゃないんだからな。幾分ハイになったあたまで一人ツンデレをかまし、パソコンパラダイスに挟まった付箋を引っこ抜く。

 そして、見つけた。


【ローソン東岩城店、21:38 オオツカヤオロナミンCドリンク120ml】


見つけてやった。

見つけてやったぞ。


こっちの気も知れず暢気にビタミンC補給している場合じゃねえよ、九条。お前には、これから馬車馬三頭分働いてもらうことになる。せいぜい覚悟して待っておくがいいさ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。