その七
──結局のところ、田中英雄は伸ばされた手を掴んでしまった。そして、あたまのおかしな女の子がヒーローを目指す姿をずっと隣で見守っていた。
徒手空拳で巨悪へと立ち向かい、膝や向こうずねに擦過傷をつくって、今日も世界を救ってやったぞ、と勝鬨をあげる彼女の姿は、街ではもっぱら嘲笑の的だった。
だって、彼女が敵と呼ぶものは、誰の目にも見えはしなかったのだ。
もしかしたら、ほんとうは見えていて、見て見ぬふりをしている可能性も少なからずあった。
賢明な判断だと、英雄は思った。
立ち向かわなければ、傷を負わずにすむ。
いっそのこと諦めてしまえばいいと、誰かがいった。そうすれば、確かにこころは苦しくなるかもしれないが、致命傷にならずにすむ。いずれは、諦めてしまったことだって忘れることができるだろう。失うことが恐ろしければ、そもそもはじめから価値のないことだったと笑い飛ばしてしまえばいいのだ。
しかし、彼女はそれを許さない。
なぜかを、英雄は知っている。そしてぼくだって痛いほど知っていた。
なぜなら、彼女のいう敵こそが、まさにそれであったからだ。
戦いは熾烈を極めた。
頬に青たんをこさえ、肩でぜいぜい息をはき、そしてついに彼女は地面に膝をついてしまった。戦うのをやめなければ、彼女を待ち受けるのが破滅であることは、火を見るより明らかだった。逆をいえばそれは、戦うことさえやめてしまえば、彼女の命が助かるということを意味していた。諦めてしまえ。その一言で彼女は救われるのだ。
どうしたら、いい。
英雄?
お前なら、どう思う。




