第五話、マスターアップしました(大嘘)
第五話、マスターアップしました(大嘘)
廃部の危機に瀕した文芸部がまず行ったことは、
企画会議でも、
進捗状況の確認でも、
ましてや教師陣に袖の下をわたし金に物言わせることでもなく、部室内の清掃だった。
しかし、キャラメルマキアートのふきとり作業は、困難を極めた。
今では固形物の風格さえ漂わせはじめたそいつのことを、ぼくたちは一旦黙認することにして、通算二回目の緊急ミーティングおよびはじめての企画会議に移った。
のこされた時間は、わずか3週間あまり。
会議といっても、流石に一からゲームの方向性を検討するわけにはいかない。
主だった内容としてはシナリオの執筆状況の報告と、必要な立ち絵枚数の確認だった。
ぼくが部分的に書き上げたシナリオを、九条に添削してもらい、その都度、河野にゲーム内へ文章を反映させてもらう。背景やBGMについては、時間の都合上フリー素材で代用することとして、各々の作業にとりかかる。
「突貫工事もいいところだな」
「口を動かす暇があったら、手を動かしなさい」
A4用紙にプリントアウトしたぼくの書きかけの原稿に目を通しながら、九条が釘をさす。
「内容、どうだ?」
「まだ、読んでいる途中」
「そうか」
制作におけるぼくの役割は、思ったよりも重要だ。なぜなら、ぼくのシナリオに不備があれば再度九条が時間をさいて添削するハメになり、河野にいたってはシナリオがあがらなければまったく動きようがないからだ。
「悪いな、河野。ぼく、なるべく急ぐから」
「大丈夫だ。俺はその間、ゲーム内のデザインいじったり、背景やBGMの素材を収集しておく。お前は気にせず、自分の作業に集中してくれ」
「OK」
言ってぼくはパソコンに向きなおり、キーボードを叩き始める。
プレッシャーがないわけではなかった。
だけど追い込まれるのは嫌いじゃない。
「シナリオどうだった?」
原稿を読了した九条にさっそくたずねる。
「及第点。誤字を赤字で直しておいたから、訂正したら河野君にまわして」
「了解」
「なに、ニヤニヤしているのよ。気味が悪い」
「……別にしてねえよ」
ぼくは言って口元に手を添える。
「なあ、九条。河野」
「うん?」
「おう、どうした?」
「あの教頭の鼻、明かしてやろうな」
「わざわざ答えるまでもない、当然よ」
「なんか、面白くなってきたな。俺たちに似合わず、なかなかどうして青春臭いやり取りじゃないか」
薄く笑って、二人は持ち場へ戻る。
ニヤニヤするのも無理はねえよと、ぼくは胸のなかで独り言ちる。
だって、子供の頃からそうだったんだ。
それはたとえばビバインドで迎えた第四クォーター。
ぼくが燃えるのは、いつだってそういう展開だったはずだから。




