その九
(文芸部の活動概要・活動目標)
エロゲーの制作、および制作物の同人販売。
(目標達成に必要なこと)
その一、役割分担。
“どんなゲームにするか
どのようなゲームであれば、ユーザーに楽しんでプレイしてもらえるか“
これらをチームで話し合い、制作の、おおよその方向性を検討することを企画立案という。
しかしそもそも現状として、わたしたちにはエロゲーを制作するスキルが欠けている。
ゆえに企画以前の前段階として、われわれは役割分担をし、個々の能力の向上に努めるところから始めなければならない。
エロゲー制作に相応の人手を要する。原画・グラフィック・シナリオ・デザイン・楽曲・プログラム・進行等。枚挙に挙げればキリがないが、フリー素材で代用できる部分をのぞき、これらを部員3名へ、以下の記載の通り割り当てることとする。
九条華夜子:原画・グラフィック(背景および彩色含む)
河野太:デザイン・プログラム
漆原倫太郎:シナリオ・制作進行
ぼくはいったん資料から顔をあげる。
「ぼくがシナリオを書くのか?」
率直に驚いた。
いや、もちろんぼくだってわかっていた。
部員として活動に取り組むのであれば、何かしらの役割を与えられるのは必然だ。
しかし、ぼくがシナリオライターというのはどうかと思う。
シナリオは作品のキモとなる部分で、キモであるからこそ作品そのものの評価におおきくかかわってくることになる。
「不満なの?」
「不満、というか」
ビギナーのぼくには少々荷が重い作業ではないだろうか。
「それじゃあ、逆にあなたは絵が描けるの? フォトショップとかSAIをつかって扇情的で、コケティッシュで、おっぱいのおおきな可愛らしい女の子が描けるっていうの?」
「……描けないよ。描けません」
「俺も、この配役でいいと思う」そこで河野が口を挟んできた。「プログラムを組んだ経験はないが、多少興味がある。ソフトウェアの勉強を一からはじめるのも悪くない経験だとも思う」
「まじかよ……」
あくまで煮え切らない態度のぼくに、九条が業を煮やす。
「シナリオライターはたしかに重要な役割だから、あなたが及び腰になるのもわかる。だけが、文章を書くという行為自体は、小学生にもできること。わたしのいっている意味がわかる?」
「わかるよ」ぼくは、仮病で休み損ねたガキのような態度でくちをとがらせる。「要は結果ぬきにして、とりあえずやってみろってことだろ?」
「わかってるじゃない」九条はどこかほっとしたように笑みを浮かべた。「既存の有名シナリオライターのなかにも、もともとライター志望でなかったひとはいる。もちろん、ひとには適性というものはあるでしょうが、ひとまずあなたはライターとして文芸部の活動にあたってちょうだい」
「わかったよ」
なんとなく丸め込まれた気になりながらも、ぼくはうなずく。
「分担が終わったので、あなたたちにこれを渡しておこうと思う」
段ボール箱をがさがさとあさると、九条はぼくの目の前に書籍をつんでいく。
ゲームシナリオの書き方 第2版。基礎から学ぶキャラクター・構成・テキストの秘訣。
おもしろいゲームシナリオの作り方。
すごくエッチなゲームシナリオが書ける本。
平積みされるソフトカバーのせいで前がみえなくなった。
ふと、となりをみると河野もほぼほぼ同じような状況で、 “吉里吉里/KAGではじめるゲーム作成”などといったノベルゲーム制作の入門書を、やる気があるのかないんだかわからない、なんとも絶妙な表情で見守っていた。
「これから寝ているとき以外は、四六時中ずっとエロゲーのことを考えてね」と九条は言う。顔を見ずともわかる。おそらく、底意地悪く、しかしなぜだか不敵にもみえる笑みを浮かべ、腕組みでもしているのだろう。
こうして、ぼくたちのエロゲ製作はその第一歩をふみだした。
より正確に言うならば、ふみだしてしまった、というべきなのだろうか。




