その四
「ということだから、文芸部にはいってくれ」
「ふむ」
河野は壁にもたれると、大仰しく腕を組んだ。
「驚いたな。お前がまさか、アダルトゲームのプロジェクトメンバーになっていたとは」
「自分でもそう思うよ。それなら異世界に転生しましたってほうがまだ腑に落ちる気がする」
「まったくだな」
短く刈り揃えた髪を撫でつけながら、河野は笑う。
「ちょうどいい機会かもしれないな。アイドル研究部の活動も熱が冷めてしまったところだ。俺でよければそちらに転部して、力を貸してやってもいいと思う」
「ほんとか?」
「ああ」
ただ──、と河野は付け加える。
「バスケのほうは、もういいのか?」
たまにしか見せない、やけに真面目くさった顔だった。
ぼくも、もう高校生だ。
いつまでも尻に蒙古斑の浮いたガキのままでいられるわけじゃない。
だから、コミュニケーションの処世術というやつは多少なりとも身につけているつもりで。答えづらい質問、答えたくない質問にたいしては、曖昧にはぐらかして適当な冗談でかえすのが最善策なのだ。それが自分の核心に触れるものであれば、なおさらなことだった。なぜなら、本音は時として凶器になる。それはときに相手のみならず自分自身さえ傷つける。言葉は弾丸で、放たれたが最後取返しのつかないことになる。
だからぼくは満を持してはぐらかすべきだったのだ。
しかし、言葉がでてこない。
時間にして十秒程度の時間が流れる。
「すまない。詮索しすぎた」
河野が軽く笑うと、やっと金縛りがとけた。
「下手に気使うなよな。お前らしくない」
今度は、スムーズに言えたと思う。
「それじゃあ、今日の放課後部室でな」
「ああ、部室で」
理科室の掃除へ向かう河野の背中を見送り、ぼくは窓枠にもたれかかった。
採光窓から体育館を眺める。弓なりにそった屋根のふちが斜陽を反射させ、黄金色にまたたいていた。




