その二
ふと、部屋の丸時計を一瞥すると深夜二時だった。
「うそ?」
いっきに現実に引き戻された気持ちになって、いったんイヤホンを外しおおきく背伸びする。
「流石に6時間ぶっ通しでゲームするのは体力いるな……」
コカ・コーラを口に含み、一息つく。
活字慣れしてない人間にとって、結構集中力のいる作業だった。慣れないゲームだからということもあるだろう。受け取る情報量に見合った感想がうまくでてこない気がするが、一言で言わせてもらえば、面白い。単純に、読み物として面白かった。
九条いわく、エロゲーはおおきく二種類に大別されるらしい。
一つ目は、抜きゲー。ポルノ描写に力をいれたアダルトゲームで、性的な場面が主体となるノベルゲーム。
そして二つ目は、シナリオゲー(泣きゲー)。こちらはプレイヤーに感動を与えることを目的としたゲームで、性的な描写はむしろ添え物程度。シナリオに比重をおいた作品になっている。
ぼくがプレイするこのゲームもシナリオゲーに分類されるものだ。共通ルートで表示される選択肢の選び方によって、各ヒロインの個別ルートへ分岐する流れになっている。
その個別ルートがとても面白い。
共通ルートで描かれるのは、主人公とヒロインの他愛ない日常だ。共通ルートというのは言わば、軽妙なヒロインとのやり取りや世界設定そのものに親しみを覚えるための前フリみたいもので、個別ルートへの布石や伏線が隠されていたりもする。
そして、個別ルートにはいると作品の雰囲気は180度転換される。けなげなヒロインの秘密や残酷なトラウマが明るみにさらされ、全体として絶望的な、重々しい空気が漂い始める。
ようするに、前半部分と、後半部分の落差が肝なのだ。
前半部分が他愛もないヒロインとの日常であればあるほど、それがかえってかけがえのないものであったことに気づかされる。後半部分が不幸であれば不幸であるほど、主人公やヒロイン没入することができるし、彼、彼女たちの奮闘や決意に思わず落涙してしまうことになる。
「うん、面白いな。これ」
「すげえ、面白い」
あらためて口にする。
口にだして、うなる。
だけどそれでもやっぱり、万人受けするジャンルでは決してないと思う。
実際問題、どうしたって先入観というものはある。
現実には存在しない異性と交流し愛を育む。
そういった類のゲームを真っ向から否定し、軽蔑するひとの気持ちだってわからなくない。それが誰かにとってどれだけ大切なものであっても、あるひとには忌避の対象にしかならない。
気持ちが悪い。
その一言で片づけられる代物にすぎない。
本音をいえばぼくだって、熱中する自分をどこか俯瞰的に眺め、バカバカしく思うことは何度かあった。
──はじめに忠告しておくけれど、これは誰かに誇れる仕事ではないよ。
職業に貴賤はないとはよくいうけれど、
アダルトゲームをつくるというのは、けっして華やかなことではないと思う。
ましてや、それを仕事にしてしまうひとの気持ちが、ぼくにはまだわからなかった。




