Singer-Actress 最終話
Singer-Actress 最終話
---三人称視点---
「――以上が事の顛末です」
「うむ、実に興味深い話だ」
伊達賢治はそう言って、鷹揚に頷いた。
そして伊達賢治は、すっと視線をすずに向ける。
――この話、本格的に進めても良いかもな。
――上手く行けば、大化けするかもしれん。
「YASHIKIさんも相変わらずで何よりだ。
少し前にあった「☆STAND UP SPEECH HERO☆」でも
派手に暴れていたからな、良くも悪くも話題が尽きない人さ」
そう言う伊達賢治は、どこか上機嫌だ。
「話を少し戻そうか。
中下すずさん、君の目標はシンガーアクトレスなのかい?」
「はい、私がこの先、女優業を歩む事になっても、
アーティスト業を捨てるつもりは毛頭ありません。
その上で私は女優としてのキャリアを構築したいと思ってます」
受け答えも及第点以上だ。
ちゃんと自分で考えて喋れている。
うむ、悪くない逸材だ、と内心でほくそ笑む伊達賢治。
「君の決意は固いようだね。
僕自身、そういう決意の固い人は嫌いじゃない。
いやハッキリ言って好きだよ」
「ありがとうございます」
「そうだね、そういう意味じゃこのオーディションは、
君にうってつけかもしれんね。
かの超大物女性アーティストの半生を映画するこのプロジェクト。
僕はこのプロジェクトを本気で成功させたいと思ってる。
でもこの映画の主役は、並大抵の女優じゃ出来やしない。
彼女――華崎鮎美は熱いソウルを持った本当のアーティストだ。
ただ歌が上手いだけじゃ駄目なんだ。
熱い魂を持って居なくちゃ、
映画と言えど華崎鮎美を再現するのは不可能だ」
熱弁する伊達賢治。
それを黙って聞くすず。
一見クールを装っているが、
すずも内心では非常に熱くなっていた。
日本の芸能界に所属している者、いた者で、
華崎鮎美を知らない者など居ない。
彼女のことを好いてるか、好いてないか。
は個人の自由だが、彼女の芸能界、音楽界における多大な功績を、
完全に無視する事は難しいであろう。
そんな彼女の半生を映画化される事となり、
華崎本人だけでなく、その周辺も随分と騒がしくなっていた。
まあ華崎本人はいつものようにノーコメントを貫いているが。
すずも当然、華崎本人をリスペクトしていた。
自分は華崎鮎美を演じる。
そう考えただけで夜も眠れなくなる。
でも勿論、そういうミーハー気分でこのオーディションに挑んだ訳じゃない。
この映画をきっかけに女優デヴューを成功させて、
女優業、そしてアーティスト業でもブレイクしたい。
という野心をすずも当然抱いていた。
「僕はこの映画の制作に自分の色んなものを賭けるつもりだ。
その成功の為ならば、ありとあらゆる布石は打つ。
そして中下すずさん、君ならば良いパーツになれるであろう。
無論、僕もパーツの一つさ。
君と僕を会わせて最高の映画を作ろうではないか!」
「はい、全力を尽くします」
気がつけばすずは大きな声でそう答えていた。
数秒後には彼女もやや恥ずかしい気分になあったが、
それ以上に熱い何かがすずの胸の内に渦巻いた。
「まあ何も君で確定した、という訳じゃないけどね。
でも久しぶりに他人を見て「これだ!」という感覚に陥ったよ。
僕は監督として、君は女優としてこの映画を手がけていこう。
大丈夫、自分の役割を上手く果たせばきっと成功するさ。
世の中ってのは大体そういう風に出来ている……」
「頑張ります!」
こうしてオーディションは終わったが、
その数日後にすずが主演女優として華崎鮎美を演じる事となった。
だが周囲から見れば、それは無謀な賭けにも見えた。
女優キャリアが0年の三十路近くの女が世紀のスーパースターを演じるのだ。
これを手放しで褒めれるのは、
世間知らずのお人好しか、莫迦のどっちかだ。
だが中下すずにはそんな常識は通用しない。
幼少期の頃から芸能畑で育ち、
十代でアーティストとして全米デビューを果たした女傑。
そして今回もこの映画「M」の主演女優として、
周囲の脚光と称賛を浴びて、日本で華々しいデビューを飾った。
しかしこれは始まりに過ぎない。
中下すずの夢、野望はこんなものでは終わらない。
でも決して傲慢にはならない。
自分にやれる役割を完璧に果たして、
やれるだけの事はやる。
その上で静かに天命を待つ。
それが中下すずの生き方だ。
こうして日本における中下すずの女優デビューは、大成功に終わった。
To be continued




