CHILD-METAL
---三人称視点---
2026年3月31日、米国・カリフォルニア州のLA。
そこにある観客動員数35000人規模のドーム球場。
そのドーム球場が巨大なコンサート会場となっていた。
普段はMLBの野球場として使われているが、
この度、音楽フェスティバルによって、
巨大なコンサート会場に様変わりしていた。
そしてその観客数は満員に近かった。
これだけの人数を集めるアーティストはそう多くない。
だがステージ上の少女――いや今では女性という年齢だ。
その三名の女性の中でもセンターに居る女性は特に目立っていた。
だが百人が百人が振り返って、見向きする美人ではない。
だけどとても印象が残る特徴的美人という雰囲気を醸し出している。
この女性の名前は中下すず。
黒髪のポニーテルに赤いステージ衣装を着ていた。
そう、彼女を中心とした日本人の女性メタルダンス・ユニット。
CHILD-METAL、通称「チャイメタ」。
その「チャイメタ」による単独公演が行われていた。
「幾多もの夜を超えて――
生き続ける愛がある――
この身が滅びる日まで――
この命が――消えるその日まで――」
ステージ上の中下すずが「チャイメタ」の代表曲「黄昏」を熱唱する。
耳障りの良い凜とした歌声と爆発的な声量。
彼女の歌なくしてCHILD-METAL、「チャイメタ」は成り立たない。
だが彼女――彼女達がこのようなステージに立つのは今では珍しくない。
すずが十代前半の時に「チャイメタ」のメンバーとして、
全米デビューを果たした後は、
このような音楽フェスティバルやライブを幾度とも行ってきた。
そう、十代前半でデビューした日本人女性達が
このアメリカの地で女性アーティストとして、
獅子奮迅の活躍をしているのだ。
これは大袈裟ではなく、偉業だ。
無論、多くの日本人、そして全米中の「チャイメタファン」がその事を知っている。
日本人が米国でアーティストとして活躍する。
数十年前ではそれはある種の夢物語であったが、
この二十一世紀を迎えた現代ではそれが現実のものと化していた。
「――すず、――すず、――すずぅっ!!!」
「――すず、最高!!」
「――チャイメタ万歳っ!!」
観客席の観客のリズムに合わせて踊り狂う。
そんな彼等を更に煽るようにすずはマイクに向かってシャウトする。
「過ぎ去る時の中――
両目を閉じたまま――
この手に流れる赤い血――」
観客席の観客はすずの歌に酔いしれた。
そしてステージ上のすずも同等、あるいはそれ以上に楽しんでいた。
まるで歌う頃が自分の存在証明。
そう言わんばかりにすずがステージ上で熱唱する。
その姿は十代の頃から変わらない。
ように一見見えたが、実際は少し違った。
今は最高のコンディションで歌っているが、
二十代も後半になって、すずの体力も徐々に落ちていた。
二十歳くらいの頃は、平気だった毎日のボイスレッスン。
ダンスの振り付けなども、最近では少し上手くいってなかった。
だが年齢による衰えという事実を認めたくなかった。
それを認めたら自分はステージ上で歌えなくなる。
すずは自分自身をそのように追い込んだ。
一度自分自身に甘えたら、それは終わりの兆候。
それは音楽の世界だけでなく、スポーツの世界などでも同じだ。
そして何より観客は甘くない。
彼等は今あるチャイメタを冷静に分析して事実を述べる。
愛情表現とは褒め称えるだけではない。
時には厳しい意見も言うし、
またある時は厳しい言葉をすず達に浴びせる。
それがファンというものだ。
勿論、「チャイメタ」のメンバーもその事をよく理解している。
だから彼女達は逃げず、戦い続ける。
歌う事が、踊る事が彼女達の戦いなのだ。
そしてステージは彼女達の戦場。
その戦場ですず達は最高のパフォーマンスを見せつける。
「――すず、――すず、――すずぅっ!!!」
「――チャイメタ最高っ!!」
自身は衰えを少し感じていたが、
観客席のファンは満足げな表情ですずの歌に酔いしれる。
だが一部の者はすずの異変を気付いていた。
「一見すると最高のパフォーマンスに観える。
だが何年か前に彼女等のライブ映像を観た時より、
少しばかりパフォーマンスが落ちてるな」
楽屋の近くの大型液晶スクリーンを観ていてそう呟く男が居た。
ロングの茶髪を左右に分け、パーマで動きをつけたヘアスタイル。
そして黒いサングラスをかけて、男は真剣な表情をしていた。
「YASHIKIさんもそう思いますか?」
と、すずの事務所の男性社長がそう問うた。
そうこの目の前の茶髪のサングラス男。
この男こそがあの有名な音楽プロデューサーのYASHIKIであった。
「彼女は、すずくんは今いくつだい?」
「今年で29になります」
「成る程、正真正銘パフォーマンスが落ちる時期だな」
「やはりこのくらいの年齢からパフォーマンスが落ちますか?」
事務所の男性社長がそう問うと、
YASHIKIは「嗚呼」と頷いた。
そして具体例を挙げながら、言葉を紡ぐ。
「実際、俺自身もそのくらいの年齢に衰えを感じ始めた。
ドラム叩いてのヘッドバンキングが辛くなり、
医者からはドクターストップがかかったよ。
その時、自分で「嗚呼、俺は歳を取ったんだ」と痛感したよ」
「YASHIKIさんでもそうだったんですね」
「嗚呼、でも必死に自分に嘘ついて、
しばらくは身体に鞭を打って、演奏を続けたよ。
でも分かるファンには分かっちゃうんだよねえ。
だけど俺達、『HI-GROW』はまだ良かった。
俺達は男性で構成されたロック・バンドだったからな。
でも彼女等は女性ロック・グループ、例えパフォーマンスがこれまで通りでも、
「もう彼女達はオバさん」だとか「歳には勝てないね」とかを
言うファンは必ず出て来るものさ」
「……実は現時点でもそう言う声はあります」
「まっ、ファンというのも残酷だからね。
でもその事実を何処かで受け入れる度量も大事だ。
だがすずくんは二十代後半というのに、
これ程声量があって、歌声もピカイチだ」
「……そうですか?」
「嗚呼、それは俺が保障するよ。
でもそろそろ人生のターニングポイントに差し掛かってるね。
ここから彼女をどう売るかで、
彼女やアナタの事務所の命運も分かれれるだろうね」
「……実は日本のとある芸能事務所から、
「アナタの周囲で良い女優になれそうなタレントは居ますか?」
と言われてるんですが、YASHIKIさん!
あのすずにその話を振ったら、どうなると思います?」
男性社長がそう言うと、
YASHIKIは「ほう」と言い、その口元が僅かに緩んだ。
「個人的には面白い話だと思うよ。
確かにここで女優に転身。
というのは意外性があって面白いかもしれん。
ちなみに日本の何という事務所だい?」
「……クリスタル・エデンです」
「ほう、これはますます面白いな」
「ええ、日本国内では強い力を持つ事務所です。
特にあそこに居る伊達賢治という男が面白いです。
俳優だけでなく、監督も務める傑物です」
「嗚呼、伊達賢治か。 俺もあの男には注目しているよ。
すずくんをあの男に預けるのは面白いかもしれん。
だがすずくんも簡単には女優転身の話を受けないだろう。
だから社長、俺とすずくんの一席を設けて欲しい。
そこで俺が彼女を口説いてみるよ」
「……宜しいんですか?」
「嗚呼、彼女は磨けば光る宝石だ。
彼女のような才能のある人間は、
周囲が上手く導いて、育てるべきだ」
「……ではお手数をかけますが、
すずの説得を宜しくお願いします」
「でも社長、俺はあくまできっかけを与えるだけだよ。
その後の事は全て彼女自身の問題さ。
だけど人間、時には誰かに背中を押して貰う必要がある。
そして俺がその役目を引き受けてもいいよ」
「はい、宜しくお願いします!!」
そして二人は再び楽屋の近くの大型液晶スクリーンに視線を向けた。
ステージ場では、すず達が相変わらず歌い、踊っている。
観る者が観れば衰えている。
という指摘をする者も居るかもしれないが、
それでもステージ場の彼女達はとても輝いていた。
人間は夢を追い、全力で進む者の姿に惹かれるものだ。
それに加えて、衰えの兆しが見えても、
その現実を受け入れて、
自分の出来る事を全力でする姿もまた美しい。
「孤独や不安も――
斬り捨てる――心まで――」
「――すず、――すず、――すずぅっ!!!」
「――チャイメタ最高っ!!」
すず達と観客のボルテージは最高潮まで達した。
その姿を大型液晶スクリーン越しに観ながら、
YASHIKIはポツりと呟いた。
「中下すず、間違いなく本物だ。
だがまだまだ伸びしろがある。
俺は彼女のその可能性に賭けたい」
水面下で蠢く様々な思い。
だがステージ場のすず達はそんな事は知らない。
彼女達はただ自分達の出来る事を全力で全うする。
そしてその姿に多くの者が心を打たれていた。
それは男性社長やYASHIKIも例外ではない。
気が付けば彼等もすず達の歌声とダンスに酔いしれて、
スクリーン越しに彼女達の動きを最後まで追っていた。
To be continued
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