Singer-Actress 第一話
Singer-Actress 第一話
---三人称視点---
物静かでありながらも、
何処か知的で妙な色気のある男。
世間で言うところの伊達賢治は、
オーディション会場に立つ一人の女性を凝視していた。
尚、伊達賢治は、このオーディションの審査員を務めていた。
「君が中下すずさんかい?」
伊達賢治にそう名指しされたその女性は、
とても顔が整っており、何処かエキゾチックな美人であった。
でも百人が百人が振り返って、見向きする美人ではない。
だけどとても印象が残る特徴的美人という表現が正しいかもしれない。
「はい、そうです」
彼女は――中下すずは凜とした声でそう答えた。
とても脳裏に響く美声だ。
すると伊達賢治は、愉しそうに口の端を持ち上げた。
「中下すず、米国で活動中のチャイルド・メタル所属の女性ボーカリスト。
そんな君が何故、今になって日本で女優業を始める気になったんだい?」
するとすずは凜々しく眉間に皺を寄せて――
「私の夢であるシンガーアクトレスになる為です」
そう言うすずの表情は何処までも堂々としていた。
その姿を見て、伊達賢治はまた微笑を浮かべる。
うむ、面白い素材だ。
米国で絶賛人気中の女性ボーカリスト。
そんな彼女を日本に逆輸入させて女優をさせる。
上手く行けば、伊達賢治が所属するクリスタル・エデンにも益がある話だ。
尤も何の伝手やコネもなくして、
このような話が降って沸いてくる筈もない。
そこで伊達賢治は事実確認をする。
「中下さん、少し立ち入った事を訊いてもいいかい?」
「はい、答えられる範囲なら答えます」
「君の後ろ盾にあのYASHIKI……さんが居るというのは本当かね?」
「半分正解です」
「半分なのかい?」
「はい、確かに私の女優としての日本進出を
後押ししてくれたのは、あのYASHIKIさんですが、
正直企画だけして、後は投げっぱなしという感じが実情です」
その言葉を聞いて、伊達賢治は「ふむ」と頷いた。
成る程、あの男らしいな。
誰かを後押しはするが、その後は個人の自主性に任せる。
一人のプロデューサーとしては、嫌いな姿勢じゃないが、
プロのプロデューサーとしては、やや無責任とも言えなくない。
「君が彼と会って、色々話し込んだら、
彼が「ならばこれを機に日本に逆輸入しろ!」とか言ったのかい?」
「ええ、そんな感じです」
すずがここで初めて笑顔を見せた。
屈託のない少女の笑顔だ。
成る程、こういう表情も出来るのか、と伊達賢治は感心した。
「彼らしい「いつもの思いつき」だな。
でも僕個人は彼のそういう所は嫌いじゃない。
良かったらその辺の話も聞かせてもらえるかい?」
「ええ、では――」
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中下すず、米国で活動中のチャイルド・メタル所属の女性ボーカリスト。
彼女は現在では28歳になっており、ある種の不安を感じていた。
彼女は幼少期から芸能活動をしており、
キッズモデル、専属モデル、アイドルグループにも参加しており、
各分野で目まぐるしい活躍をしていた。
そんな彼女が13歳の時に大きな転機が訪れた。
日本の「カワイイ」アイドル文化と本格的な「ヘヴィメタル」を融合させ、
日本の女性三人組によるメタルダンス・ユニット。
チャイルド・メタルのメンバーに彼女が選ばれたのだ。
そこですずは仲間達と共に最高のパフォーマンスを行い、
世界中の大規模フェスで観客を熱狂させ、
日本人離れした実績を次々と残していった。
その勢いはまさに飛ぶ鳥を叩いて落とすが如く。
気がつけば、チャイルド・メタル――通称「チャイメタ」は、
日本でも全米でも空前絶後の人気を博していた。
すずも二十代前半までは、がむしゃらに歌い続けた。
だがそんなすず、他のメンバーに大きな事件が起きた。
今から6年前の日本の紅白歌合戦の出場が正式に決定したのだ。
この出来事にはすずや他のメンバーも大いに喜んだ。
彼女等は日本人、日本人のアーティストで、
紅白出場を喜ばない人間など居ない。
この時点で圧倒的な人気を得ていた彼女達の凱旋ツアーに、
「チャイメタ」のファンだけでなく、
日本の多くの音楽好きのファンが彼女等に大きな期待を寄せていた。
そしていざ紅白歌合戦を迎えたが、
その結果は評価が大きく分れるものとなった。
とても良かった、という声も当然あった。
その反面、いざ生で観たらそれ程大した事なかった。
なんか周囲が過剰に神格化していただけ。
などの声を聞いて、すずだけでなく他のメンバーも大きく沈んだ。
だがそれでも挫けず、米国で活動を続けていたが、
気がつけばすずも28歳という年齢になっていた。
もう28歳といえば、大人の女性。
とも言えるが女性アーティストとしては、
良くも悪くも転換期を迎える年齢といえた。
正直今のままで後、何年「チャイメタ」として活動出来る?
などと思う日々が増えて、すずも思い切って事務所の男性社長に相談してみた。
「そうか、お前もそう思う年齢になったんだな。
ならば良い話がある、とある人物がお前をプロデュースして、
日本に逆輸入させたい、それも出来れば女優としてとの話だ」
「……女優ですか?」
「私は案外悪くない話と思ってるよ。
お前は小さい頃から日本の芸能畑で活躍してきた。
そのお前ならこの年齢でも日本で女優業を出来ると思うよ」
「……そのとある人物って誰なんでしょうか?」
すると事務所の男性社長は、
ジッポ・ライターで加えた葉巻に火をつけた。
そしてすずの方に振り返り、一言告げる。
「YASHIKIだよ、『HI-GROW』の天才ピアニスト兼ドラマー。
そして今では大物プロデューサーとして知られるあの男さ」
こうして中下すずとYASHIKIは邂逅する事となった。




