第99話 天才魔道具師トーラ=ダイアン
「ルーイ様は王都に来るのは初めてですよね」
「王都どころか、島の外に出たのも初めてだ」
「では、覚えておいてください。プイスと王都は同じ王国マルスの領地ですが、王都内では気軽に魔術を行使してはなりません」
二人は変わらず港区を歩き続けていた。
これから中央区へと入り、王城へと向かおうかという道中。
なにやら真剣な面持ちでクレハが言葉を発しているのを、ルーイは黙って聞いていた。
「治癒魔術や転移魔術、念話魔術などの生活魔術や一部の魔術を除き、王都内での魔術の行使は重罪に当たります。王城騎士団や王都守備隊など、王国が認めた組織以外の者の魔術の行使は、その階位を問わず、場合によっては王への反逆……大逆罪と見なされるか、あるいは国家転覆罪が適用されます」
「へっ? そんなに重い罪になんのか……」
プイスでも街中での魔術の行使はご法度ではあったのだが、それは法や規則ではなく暗黙の了解のようなものだった。
それが王都ともなれば話が変わるのは理解出来るのだが、罪の重さはルーイの想像以上だった。
恐れおののきながらも、ルーイは気になったことを訊ねる。
「確かに聞いといて良かったけど……わざわざ念押しされなくても、魔術を使う必要なんかないだろ。さすがに魔術行使イコール即死刑の街中で、魔術をぶっ放す阿呆なんて」
「万が一、使う必要があっても、です」
続けてクレハ。
「王都内には魔素探知機と呼ばれる魔素の反応を検知する機器が至る所に張り巡らされています。これは魔術による犯罪や被害を抑止するための措置です」
「へぇ。なんだか凄そうだな……張り巡らさてる、ってことは今この辺りにもあるのか」
「もちろんです」
クレハが淀みなく答えるとルーイはしきりに辺りを見回し始めた。
まるで子どものような仕草にクレハは真剣だった表情を幾分か緩め、微笑みながら続けた。
「そうして見回してみても見付けられませんよ」
「どういうことだ?」
「それがどんな物なのか、誰も知らないのです」
指をピンと立てて微笑みながらルーイに語り掛ける。
「魔素探知機という物は実在し、四六時中王都を見張っていますが住民たち――貴族平民問わず――それがどういった物なのか、誰も知らないのです」
「どういうことだよ」
「端的に言えばいたずら防止、といったところでしょうか。魔素探知機はその性質上、魔素に対して敏感に反応します。物理的衝撃にもとても弱く、大人の男性なら大した力を入れずとも殴れば簡単に砕けてしまいます。また上位魔術や最上位魔術の場合、その膨大に集まった魔素量に耐えられず、やはり同じく砕けてしまう」
「なんだそれ。結局脆いことに変わりないんじゃねぇか」
「そうですね。しかし、その脆さも利用されています」
――クレハ曰く。
魔素探知機は特殊な魔鉱石を加工して作られているらしく、下位から中位の攻性魔術を展開しようと察知すれば、王都各所にある王都守備隊の詰所へ即座に、どこの探知機が反応したのか分かるようになっているらしい。
そして上位から最上位に関しては、漏れ出る魔素量に魔鉱石が耐えられず、割れた際に詰所に探知機の位置が知らされるようになっているのだという。
「ほー、便利なもんだな」
「そうですね。その発明をしたのが建国以来の天才魔道具師と謳われるトーラ=ダイアン。彼の発明で王国の……いえ、大陸の科学は一世紀も二世紀も進んだと言われています」
「その名前ならオレも聞いたことがあるな。羅針盤の精度を高めて実用レベルに高めたり印刷の……なんだったかな」
「活版印刷です」
「そう、それだ! とかを発明した人だろ」
「さすがですね。他には魔石の運用方法を確立させたり、最近では魔導列車が実用化されたりと、言い出せばいくらでも彼の功績は挙げられます」
コツコツと石畳を踏み締めながら二人は港区を歩く。
「そういうわけでトーラ=ダイアンの発明した魔素探知機には、数多の特許技術が採用されています。その製法はもちろん、どういった物なのかも一部の関係者を除いて、誰も知らないというわけなのです」
「へー。世の中には凄い人がいるもんだよなぁ」
「本当に」
――いやいや、オレからしたらクレハだって十分、凄いんだけどな。
というルーイの内心をクレハは知る由もなく、ただ目的地を目指し歩いていた。




