第100話 空にかざした拳を力強く握る
「少し寄りたいところがあります。すぐに済みますので、少し待っていてもらえますか」
そう言って港区のとある大きな服屋へとクレハが入っていくのを見届け、ルーイは服屋の壁に背を預け、これまでのこと、そして、これからのことに思いを馳せる。
カトレアやタリアにマルクス魔術師学園へ行くように、もっと言えば世界の色んな景色を見てくるように半ば強引に背中を押され島を飛び出してきた。
いずれは島を出て色んなところに足を運び、様々な風景に目を向けてみたいとは考えていたが、まさかこんなにも早く、それもこういう形で島を出ることになるとは夢にも思っていなかった。
ましてや、密かに通ってみたいとも思っていた魔術師学園にも通わせてもらえるのだ。
カトレアやタリアにはそんな話をしたことも、そういう素振りすら見せたこともなかったのだが、あの二人のことだ。
きっとルーイの考えなど筒抜けだったのだろう。
プイスのことが心配ではない、と言えば嘘になる。ハスラーは頼りにならないし、カトレアも良い歳だ。
タリアがまた一人で暴走して観光客に詰め寄ってるかもしれないし、アンポンタンの三馬鹿たちのことは言うまでもない。
だが、それ以上に皆の心遣いが嬉しかった。
ルーイが島の皆のことを考えてくれていたように、島の皆もルーイのことを考えてくれていたのだ、と。
「ったく……」
空を見上げる。
視界に映る蒼天は海の向こう、大陸の遥か南西に位置する孤島プイスとも繋がっている。
この同じ空の下で、なんてどっかの詩人は歌っていたが、その気持ちが今のルーイには少しだけ理解できた。
「タリア……ババア……皆、ありがとうな」
空にかざした拳を力強く握る。
陽光が眩しく照らす王都でルーイはプイスに思いを馳せ、改めて決意を固めた。




